2021年11月19日の配信以来、波紋を広げているNetflixの実写版『カウボーイビバップ』。原作を見ていないファンからは「楽しめた」という声が聞こえる一方で、原作ファンの評価として「キャラが別人になっている」という声も多い。っていうか、私(中澤)も以前の記事で書いたけど。
キャラ設定自体が変わっているビシャス、ジュリア、ジェットはまだ分かる。しかし、設定がほぼ変わってないキャラもなんか別人に感じる。こんなこと言わんでしょみたいな。一体なぜこうなった?
・認識のズレ
私がその違和感を一番大きく感じたのは実はフェイである。以前の記事にも書いた通り、原作でのフェイは性格は曲がってるけど頭の回転は早い感じ。可愛いとかスタイルが良いとかの見た目以上に、知性が感じられるのが個人的には魅力だと思っていた。
しかしながら、Netflix版では、ハリウッドのアクション映画でよくいるみたいなサバサバ女子になっている。要するに、キャラ設定以外の部分で何か性格への認識がズレているように感じたのだ。
で、その微妙なズレはジェットにもスパイクにもビシャスにも感じられる。アウトローの一匹狼しかいなかった作品が、敵も味方もファミリーだらけだ。そのためか、声は同じなのに、セリフにビバップらしさが感じられない。
・あるオタクの考察
とは言え、以前の記事でも申し上げた通り、ちゃんと愛も感じるし、それはそれで良い作品であることは否定しないのだが、愛があるならなおさら疑問になる。どうしてこうなった?
そんな疑問を感じていた時、ある日本人オタクの考察に納得せざるを得なかった。大学も含め10年くらいアメリカで生活していたため、英語も日本語レベルで話せる彼。仮に、A川さんと呼ぶが、A川さんいわく「Netflixのスタッフの問題というより、おそらく言語の壁の問題」だという。一体どういうことなのか。
A川さん「まず、アメリカ人が見てるアニメ版って、同じビバップでも英語で吹き替えられたか、英語字幕のバージョンだと思うんですね。
Netflixの台本も、そうして得たビバップのイメージから作られているんじゃないかと。そして実写版ビバップの日本語吹き替えは、それをさらに日本語に翻訳しなおしているんじゃないでしょうか。
僕は個人的に、名詞等を除けば、言葉の持つイメージまで変えずに別言語に置き換えることは不可能だと思っています。翻訳すれば、間違いなくそこには失われる情報が生まれると。それぞれは些細でも、塵も積もれば……というヤツです。
アニメの日本語から英語への翻訳で、オリジナルの持つイメージから微妙に齟齬が生じる。それに基づいて作られた英語のセリフを、再び日本語に訳して、また齟齬が生じる。
想像してみてください。フェイがどういう人物かを2回、途中で言語を変えて伝言ゲームしたら、認識がズレて当然じゃないですか?
そのためか、Netflix版も役者本来のセリフ回しで聞いたら、まだ日本語吹き替えよりビバップっぽさがあります。僕はまだ全部見たわけじゃありませんが、3話でジェットが防犯カメラの映像を調べるためにウッドコックを呼び出したシーン。
ジェットの「Sounds me like blackmale!」に対し、ウッドコックの「damn right it is, because Jet, you are black and you are male」は、ジェットの本名である「Jet Black」だけでなく、脅しを意味する「balckmail」に、黒人”男性”を意味する「black male」をかけている。シモの洒落も利いてて非常に下品でいやらしく素晴らしい言い回しになってます。
こういった発音も含めたやり取りが日本語吹き替えだと「ほとんど脅しだぞそれ」「大の男が何ビビッてんの。わかる? 大のオトコでしょ」という感じになってエスプリが消えてるんですよね」
──とのこと。なるほど、言葉の壁ってそういう部分に立ちはだかるのか。実写化って本当に難しいな。
特に、セリフ回しやキャラが重要な要素となるビバップは、他の作品がスルーできるような部分に致命的な壁があったのかもしれない。技術や愛だけではどうにもならないこともある。というわけで、英語のジョークも分かるくらいペラペラな人は英語で見てみることをオススメしたい。
執筆:中澤星児
画像:© NETFLIX, INC. AND IT’S AFFILIATES, 2021. ALL RIGHTS RESERVED.