イタリア料理やフランス料理、アメリカ、メキシコ、タイ、ベトナムなどなど。大抵の外国料理はその名前を聞けばわかるのだが、インド・パキスタン料理は名前を聞いても味のイメージをまったく描けない。
カレーはわかるけど、それ以外のものはイマイチわからないんだよなあ……。そこで! 専門店の社長に直々に手ほどきをうけて美味しい料理を教えてもらったぞ!! インド・パキスタン料理初心者は参考にしてくれ!
・在日26年の社長
今回お話を伺ったのは、新大久保のエスニック食材のお店「シディークナショナルマート」を運営する『和新トレーディング株式会社』の社長、味庵(みあん)・ラムザシディークさんだ。このお店で私(佐藤)は人生初のインド・パキスタンの生菓子を食べた。
味庵社長は在日26年、日本語堪能で母国パキスタンについては元より、日本の文化にも精通している。そんな彼に料理のアレコレを教えて頂いた。
・屋台の味を日本で
佐藤「社長、さっそくお教え頂きたいんですけど、インド・パキスタン料理というと、カレーやナンくらいしか知らないんですよね。前回お邪魔したときに、生菓子を購入したんですけど、正直なところ見ただけではどんな味か想像つかなくて。全部美味しそうだなとは思ったんですが……」
佐藤「たくさん商品があるんですけど、言葉がわからないから名前を見てもどんなものかイメージできなくて。そんなインド料理初心者の私にオススメを教えて頂けますか?」
社長「そうですね。この店ではパキスタンの路上で売っているような屋台の食べ物を提供しています。日本の皆さんには馴染みの薄いものも多いかもしれませんね。だから実際に食べて頂いて、味を知ってもらうのが良いでしょう」
そう言うと、社長は厨房スタッフに声をかけて次々と料理を持って来させた。
社長「まずはお菓子から紹介しましょうか」
佐藤「ありがとうございます。先日購入して帰ったんですけど、生菓子は基本的にどれも甘いですよね。はっきり言ってムチャクチャ甘いじゃないですか」
佐藤「たとえば、ひよこ豆を使った「パティーサ」は豆の味もさることながら、砂糖の甘さがスゴイですよね。パキスタンの皆さんは甘党なんですか?」
社長「これらのお菓子は屋台で売っていて、手土産にしたり家族やご近所におすそ分けしたりするのです。甘いものを食べる時には塩辛いものも一緒に食べるんですよ。だからみんなが甘党って訳ではないです。
塩辛いものはこういう豆の入ったスナック「ニムコ」を甘いものと一緒に食べたりしますね」
社長「こっちは焼き菓子の「ナマックパラ」と言います」
佐藤「これウマい! サクサクの小さなパイだ。甘いのと一緒に食べると、美味しさが引き立ちますね」
社長「あとはクミンのクッキーも塩味が利いてて美味しいですよ」
佐藤「これも美味しいですね! 良い塩加減だ、酒のツマミにもいい。こんなのあるなんて知らなかったなあ」
社長「私の故郷には美味しい料理がいっぱいあるんですけど、日本で食べられるものは限られています。しかも日本人向けにかなりアレンジされているので、本当の魅力が伝わっていないと感じています。
現地の味を日本に持ち込めたら良いんですけど、総菜や生菓子は当然輸入できないんです。だから自分たちで作ろうってことになったんです」
佐藤「でも、すでに「シディーク」という名前でレストランを展開されていますよね?」
社長「レストランでは味わえないもっと身近で素朴な味を提供したかったんです」
佐藤「なるほど! それでこういうお店を作られた訳ですね」
社長「ここ新大久保と、木更津(千葉県)にも出店しています。今後、八潮(埼玉県)にも出店します。
・あらゆる味覚を刺激するサモサチャート
続いて出てきたのは、ダールチャワルとハリームチャワル。日本でいうところのカレーと考えても良いだろう。
社長「カレーは馴染みが深いと思うんですけど、ほとんどが欧米式ですよね。インドレストランでカレーを食べる機会もあると思います。ですがパキスタンのストリートの味は、あまり知らないんじゃないですかね。
ダールはひよこ豆とレンズ豆をベースにスパイスで味付けしています。そのままでも美味しいけど、付け合わせのレッドオニオンやヨーグルト、アチャール(漬物)を全部混ぜて食べるともっと美味しくなりますよ」
佐藤「基本は甘いのに、オニオンやアチャールの酸味が加わると味が立体的になって面白いですね! 「バスマティ米」は水分が少ないので、濃厚なダールの味とよく合ってます」
社長「日本のお米は水分を多く含んでいて甘いですよね。それはそれでとても美味しいんだけど、パキスタンの料理に使うには、あまり向いていない気がするんですよ。だからバスマティ米を使っています。
もう1つのハリームはパクチーと千切りショウガと一緒に食べると美味しいです。レモンも絞ってね」
佐藤「これもベースにレンズ豆を使ってるんですね。パクチー・ショウガが肉のクセをやわらげてくれます。見た目に反して爽やかな美味しさですね」
社長「飲み物も紹介しておきましょう」
佐藤「これ、すごい色ですよね。スイカジュースですか?」
社長「薬草のシロップです。色はバラ(ダマスクローズ)に由来するものです。パキスタンの『ジャミシリン』というシロップを使ったドリンクですね」
社長「真ん中はスタンダード。左のピンクのものは牛乳割りですね。右はファルーダといって、ジャミシリンにアイスクリームとコーンスターチで作った麺が入っています」
佐藤「これまた不思議な食感。冷たいスイーツドリンクですね。麺がモッチリしててちょっとタピオカみたいだ。暑い夏に飲むのが良いですね」
社長「あとぜひ食べて頂きたいのは、ローストチキンですね」
佐藤「まだ出てくるんですか!?」
社長「このチキンは水を一切使わずに、チキンとスパイスだけで焼き上げているんです」
佐藤「これからクリスマスに需要がありそうですね」
社長「人気商品の1つです。クリスマスにチキンを買うならオススメですよ。それともう1つの人気商品がサモサチャートですね」
社長「サモサとは薄皮の生地に具材を詰めて揚げたものですね。チャートというのは屋台で売ってるような軽食を指します。ですので、サモサチャートはサモサのおやつみたいな意味です。
うちで出しているのは、サモサをカットしてその上にミントソース・チリソース・ヨーグルトをかけたものです。食べてみてください」
佐藤「ナニコレ!? 甘くて辛くて酸っぱくて苦い! そして温かくて冷たい! あらゆる味覚を刺激する味ですね。しかも美味い! サクサクのサモサ生地に甘いじゃがいものフィリングが入ってる。今日はいろいろ頂いたけど、コレが1番気に入りました!」
社長「喜んで頂けてよかったです。でも、まだまだあるんですよ、日本で知られていないパキスタンの屋台の味が。今後展開するお店では、もっとたくさんフードメニューを提供できるようにしたいです。
インドやパキスタンの料理は他国の料理に比べると、まだマイナーかもしれません。これからお店を増やして、もっと親しんでもらえるものにしたいです」
佐藤「お教え頂いて理解が深まりました。パキスタン料理は奥深そうなので、これから勉強したいと思います。ありがとうございました」
ということで、社長の教えで私はインド・パキスタン料理初心者から1歩を踏み出した。サモサチャートの味は本当に刺激的であらゆる味覚を刺激されるので、ぜひともオススメしたい。機会があれば試して欲しい。
・今回訪問した店舗の情報
店名 シディークナショナルマート新大久保店
住所 東京都新宿区百人町2丁目9-15
時間 11:00~23:00
取材協力:シディークナショナルマート
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24