大相撲11月場所が開催されるなか、私は日本から約1万キロ離れたエジプトに滞在中である。並大抵のことでは寂しさを感じない海外暮らしも、相撲を観られないことだけは悲しい。果たして今場所の松鳳山の調子はどうなのか? 気になってエジプトメシも喉を通らないのだ。
しかし、そんなある晴れた午後、ついに私は発見してしまった。エジプトのにぎやかな歓楽街にあって、ひときわ異彩を放つ1軒の店……その名も『SUMO SUSHI(スモウ寿司)』!!!!!
・即入店
『SUMO SUSHI』があるのは、エジプトの首都カイロから南へ500キロほど下ったハルガダという街。ここは主に西洋人がバカンスに訪れるところであり、日本人観光客はほぼいない。
日本人がいない街にある寿司屋では、果たしてどれほど恐ろしい寿司を出すのだろう……いや待て。かつてエジプト出身の力士が幕内まで上がった例もあるし、意外とオーナーが相撲好きという可能性もありえるな……? ともかく、ごめんくださ〜い!
店内はエジプトらしからぬ小綺麗でこじんまりとした雰囲気。
『夢想柔術』って一体……?
日本をイメージしてくれている痕跡は見られるが、不思議と全然和風じゃない。
ただし内装はけっこう金がかかっている感じだ。
なお店内あちこちには「単語の意味としては正しいけど……なぜそれを、ここに?」と思わずにいられない、謎の日本語漢字がオシャレにデザインされている。
空、地面、公差、ラブ、神様、平和、寿司、相撲、海…………暗号のように見えて、実はものすごく深い意味があるのかもしれない。
桜、愛、狐……
義、侍、平…………なんかちょっと怖くなってきたなァ。
・商品名が気になりすぎて
ちなみにこの日、私が1人でお腹いっぱい飲食した合計は420EGP(チップ30EGP含む)。日本円に換算すると約3000円となり、エジプトでは高級料理の部類といえるだろう。宗教上の理由か、お酒の取り扱いはなし。
メニューは寿司を中心に刺身、焼き飯や焼きそば、揚げ物、生姜焼き、焼き魚、カツ丼など様々な日本料理が並ぶ。
とりあえずミソスープ(45EGP / 約326円)は外せないでしょう。
それから握り寿司5貫(86EGP / 約623円)も。
『Tempura Moriwase』……も、も、もりわせ!!!! うっかり「あ」が抜けただけと理解はしつつも、「もりわせ」が妙に面白くなってしまい注文(79EGP / 約573円)。
に、にに、『Ninja(ニンジャ)』キタァァァ!!!!!! こちらも気になりすぎて注文(4個80EGP / 約580円)。
そして店名を冠した『Sumo』なるメニューも!!!!!!! 注文せざるをえない(87EGP / 約631円)。
・久しぶりのキッコーマン
しばらくするとテーブルにキッコーマンの卓上醤油が置かれた。エジプトでキッコーマンにお目にかかるのは初めてだ。懐かしさが込み上げ、しばしキッコーマンを見つめる私……
そのまま40分が経過し……
ようやく運ばれてきたミソスープ…………って遅すぎるだろ!!! 大豆から作っていたのでしょうか? まぁしかし、このミソスープはちょっと意外なほどおいしかった。
トウフ、ネギ、ワカメ、そして大量のゴマ。魚介ダシの風味が素晴らしく、しっかり “味噌汁” の体裁を保っている。この先ヤバイ寿司が続々と登場するのだろうが、このスープを箸休めにすればいけそうだな。
そして30分経過……
……って飲み干しちゃっただろ!!! いくらなんでも出てくるのが遅すぎる! とエジプト人店員氏に詰め寄ったところ、どうも1つずつ順番に提供してくれるつもりだったらしい。「いいからまとめて持ってきてくれ」と依頼する私。オッケー! とウインクのエジプト店員氏。
ややあって運ばれてきた『Tempura Moriwase』。右サイドがシーフード、左サイドがベジタブルとのことだ。天つゆではなくスイートチリソースが添えられている。
ってか……これ天ぷらじゃなくてフライだな。
「チリソースに付けて食べるフライってそれ、ベトナム料理やん」と心の中でツッコミを入れつつも、フライとしての完成度はかなり高い。衣は厚すぎず薄すぎず、アツアツサクサクとしている。ちなみにベジタブルは全てパプリカ。おいしいけど胃にこたえるな〜。
・満を持してSUSHI登場
ここでテンポよく運ばれてきたのは握り寿司。エビ、白身魚、サーモン、ウナギ、エビフライの豪華5点盛りである。
大量のワサビとガリが嬉しい!
謎のどろソースやマヨネーズソースも付属していたが、日本人としてはシンプルに醤油だけで頂きたいところ。
肝心のお味はといえば、意外にもヨーロッパで食べた寿司とほぼ同クオリティ。要するに「日本の激安スーパーの激安寿司」くらいのレベルではあった。エジプトは欧米と比べて日本の食材が手に入りにくい。その点を考慮すると、なかなか頑張っていると言えるのではないか。
シャリから酢の味がほとんどしなかったのは残念だが、炊き方の上手さでカバー。ウナギはキッチリとウナギの味がした。
さあ、続けざまに運ばれてきたのは……
『Ninja(ニンジャ)』だ!!!! なんと巻き寿司を豪快にフライにした一品! もう揚げ物は十分なんスけど!
シャリの中には海苔に巻かれたトロトロチーズ。チーズの風味がシャリを完全に殺している。一体これのどこがニンジャなのか? よく分からないが、あるいはフライと見せかけて寿司、寿司と見せかけてチーズ……といったあたりが “隠れ身の術” を表現しているのかもしれない。
・本日結びの一番
そして……ついに登場。店の看板メニューかもしれない『Sumo』の全貌が……こちらになります!!!
_人人人人人人_
> 焼うどん <
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丸い鉄板はまるで土俵……茶色い麺が土を表現しているのは誰が見ても明らかだ。一見無造作に配置された3匹のエビは “力士と行司” を表している可能性が高いし、恐らくカラフルなパプリカは “吊屋根の房” を、白ゴマは “撒き塩” を表現していると解釈できる。
考えれば考えるほど『Sumo』の名がこれほどふさわしい料理も他にない。ありがたい気持ちで一口食すと……うまい! 日本要素こそゼロだが、タイの屋台を彷彿とさせる味付けだ。鉄板の下にはビーフとチキンがゴロゴロ。「地位も名誉も土俵の下に埋まっている」という相撲界の格言を見事に体現している。
私が日本人と分かると「どう? 味どう?」と、何度も様子を伺いに来たエジプト人店員氏ら。夕暮れが近づくと店内は賑わい始め、その大半は現地に住む富裕層とみられた。エジプトの地にこれほど愛される寿司屋があったとは……日本人として、そして相撲ファンとして感無量である。
SUMO SUSHI……いつかまた必ず来るぜ!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.