[4日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行(BOE)という世界の3大中銀が、物価高騰を抑えるために利上げが必要だという市場の見方に対して足並みをそろえて反論している。3中銀の政策は今、世界的に混乱する供給網(サプライチェーン)が間もなく立ち直るとの期待に根差している。
FRBとECBは、供給制約が今後数カ月で和らぎ、それに伴うインフレ圧力も弱まると想定しており、BOEも4日の金融政策委員会(MPC)でハト派的な政策を打ち出してその流れに加わった。BOEは今年に入ってから続く急速な物価上昇を踏まえて主要中銀で真っ先に利上げするとの予想が広がっていたにもかかわらず、政策金利を据え置いた。
BOEは声明で、物価上昇のピークが来年4月になる公算が大きいと見込むとともに、供給の混乱収束や世界的な需要の落ち着き、エネルギー高一服につれて、やがて上昇の勢いは弱まると主張。注視するのは「中期的な物価見通し」であり、「一過性になりそうな要素」は無視すると表明している。
この立場はFRBやECBと同じだ。FRBは、足元の物価上昇を語る際に「一時的」という表現を使っているし、ECBは中期的に物価上昇が「落ち着いていく」と自信をのぞかせる。ECBのラガルド総裁は先週、市場の観測を真っ向から否定するように、来年中の利上げはありそうにないときっぱり言い放った。
ある意味でこうしたメッセージは、新型コロナウイルスのパンデミック発生以来、金融政策が推進してきた主な目標の実現を改めて誓ったものと言える。つまり、家計や実体経済がコロナ危機を乗り切れると見定められるほど十分長い期間、低金利を続けるということだ。現状では、感染がなお持続し、雇用は失われ、労働者がもっと全面的に仕事に戻れるのがいつになるかが不透明な以上、目標にはなお到達していない。
一方、主要中銀の間で、新たに共通の見通しと共通のリスクが生み出されたという面もある。中銀はこれからインフレとの対決モードに入ろうとしている、というのが大方の実感だったが、むしろFRB、ECB、BOEはこぞって自分たちのコントロールが及ばない問題の解決をあてにしている。すなわち、港湾で滞留する貨物や製造拠点でのウイルス拡大、米国民の就労意欲といった問題だ。
FRBのパウエル議長は3日の会見で「われわれの政策手段は供給制約を軽減できない」と断りながらも、「われわれのダイナミックな経済は需給の不均衡に順応し、それにつれて物価上昇率も長期目標の2%にずっと近い地点まで鈍化するという考えは変わっていない」と語った。これは主要先進国の間で共有されている見通しだ。
ただし問題は、果たして供給状況の改善が十分なスピードで進み、パウエル氏らが利上げによって需要を抑える必要がないのかどうかだ。FRBの政策担当者は利上げについて、今の段階では時期尚早だという点で意見が一致している。もっとも実際の対応は、この先数カ月で物価上昇率が本当に減速するのかどうかに左右される。
<大それた実験>
幾つかの中銀は既に、パンデミック対応型政策の出口に向かって歩み始めている。
カナダ銀行は1週間前、今後の見通しに関してタカ派的なシグナルを送って市場を驚かせた。オーストラリア準備銀行も、具体的なタイミングこそ慎重な物言いにとどまっているが、政策は利上げに向かって進んでいると示唆した。
そうした動きを受け、主要中銀も利上げ予定を早めるのではないかとの見方が急速に浮上。過去1カ月で物価上昇が長期化しそうな様相を呈したこともあり、米国と欧州の先物金利および債券市場はFRBとECBの利上げ前倒しの可能性を織り込んできた。
ところが足元では、FRBの利上げ観測が後退している。FRBの金融政策見通しを反映する米2年国債利回りは4日に約5ベーシスポイント(bp)下がり、FRBが債券買い入れ額を1カ月当たり150億ドル減らすと発表した中でも、この9カ月で最大の低下幅を記録した。
コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツのシニア金利アナリスト、エド・アルフセイニ氏は「何か間違いがあるとすれば、主要中銀の政策反応関数を市場が解釈し誤っているのだ」と指摘した。主要中銀は来年物価が鈍化に転じる公算が大きいとの見解で完全に一致している。FRBの場合は、昨年採用した金融政策の新戦略で「最大雇用」の回復も約束している。最大雇用のはっきりした定義はされていないものの、パウエル氏は3日、労働市場がそこに達していないと強調した。
アルフセイニ氏は「FRBが利上げ開始の条件に最大雇用を取り入れたのは今回が初めて。これは実に大それた実験で、まだ始まったばかりだ。それなのに今からそこを省いて事を進めたりするだろうか」と問い掛けた。
(Dan Burns記者、Howard Schneider記者)