衆議院が解散され、4年ぶりの総選挙が実施されることになった。10月31日の投開票日に向けて、各党の論戦が展開されている。岸田内閣が誕生してすぐの選挙となるが、争点は何か。与党と野党の動きをどう見るか。田原総一朗さんに聞いた。【田野幸伸 亀松太郎】
安倍氏と麻生氏の色が濃い新内閣
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コロナ対策で批判を浴びた菅内閣が退陣し、新たに岸田文雄氏が自民党の総裁選を勝ち抜き、首相の座についた。
菅前首相が退いたのは、自民党内での支持を失ったからだ。同党の国会議員たちの多くが「菅内閣のもとで選挙がおこなわれると、自分たちは落選するリスクが大きい」と考え、菅首相の辞任を求める声が高まった。
菅内閣の後ろ盾となっていた安倍氏や麻生氏は8月半ばごろまで、菅続投で良いと思っていたが、党内の批判が思いのほか強く、考え方を改めざるをえなかった。
自民総裁選を経て、岸田政権が誕生したわけだが、党の要職や閣僚の顔ぶれを見ると、独自色が薄い。幹事長や政調会長、経産大臣、財務大臣の人選からは、安倍氏や麻生氏の影響力がはっきりと見える。
「実質的な安倍・麻生内閣」という声もあるほどだ。
異例の早期解散となった3つの理由
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岸田首相は国会で所信表明演説をおこなってまもなく、衆議院を解散した。
「総選挙は11月になるのではないか」と見られていた中で、かなり慌ただしい解散となった。問題は、なぜ解散がこんなに早まったのか、である。
3つの理由が考えられる。
1つは、コロナの状況だ。現在、コロナウイルスの感染者が激減していて、政権への批判も弱まっている。一方で、専門家の予測によると、11月後半になるとコロナの第6波が始まり、感染者がまた増える可能性がある。
だから、与党としては、感染者が少なくなっている時期に選挙を実施したいというわけだ。
もう1つは、野党の追及をかわしたいという与党の思惑だ。さきほども述べたように、岸田内閣は安倍氏や麻生氏の色が濃いという問題がある。特に甘利幹事長は、かつて経済再生担当大臣のときに金銭問題で辞任に追い込まれた過去がある。
このような問題について野党から追及されるのを避けるために、衆議院を解散したのではないか、という見方がある。
3つ目は、選挙の戦術だ。今回の衆院選では、野党同士の共闘が模索されたが、野党の調整がつかないうちに選挙を仕掛けたかったという思惑があるのではないか。
「成長と分配」を掲げる岸田内閣の矛盾
BLOGOS編集部
今回の衆院選に向けて、自民党の岸田氏が掲げているのは「新しい資本主義」という言葉だ。新自由主義に対する批判を意識して、「成長と分配」の両面を追求すると強調している。
「成長と分配」という方針はいいところ取りと言えるが、あいまいな姿勢にも見える。
海外に目を転じると、成長を唱える政党と分配を唱える政党がそれぞれあって、政策の違いが鮮明な場合が多い。アメリカでは、共和党が成長、民主党が分配。イギリスでは、保守党が成長、労働党が分配という特徴が明確だ。
それに対して、岸田自民党は「成長も分配も」と欲張った目標を立てた。だが、分配とはいうものの、いったい誰に対して、どれくらい分配するのか。具体的な内容ははっきりしない。
また、新しい資本主義、すなわち、新自由主義からの転換を訴えつつも、新自由主義を体現していたアベノミクスを否定しているわけではない。
アベノミクスを標榜した安倍元首相は、日銀の黒田総裁と組んで「異次元の金融緩和」を実施した。そうすれば、内需が拡大して経済が成長すると主張した。だが、実際には内需拡大も経済成長も実現しなかった。
国民の多くは、アベノミクスによって自分たちの生活が豊かになったとは感じていない。矛盾しているように見える岸田氏の公約はどのように響くだろうか。
岸田自民党が「分配」も打ち出していることから、野党との政策の違いがわかりにくいが、明確に異なっているのは、消費税に対する姿勢だ。
野党はいずれも、消費税の減税を公約として打ち出している。なかには消費税を廃止すべきだという党もある。一方、自民党は消費税の減税を打ち出していない。
ここが大きな違いであり、争点の一つと言えるだろう。
自民党の議席数はどこまで減るか?
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岸田内閣の発足直後の支持率は、過去の内閣に比べるとかなり低い数字となった。やはり、安倍氏と麻生氏の色が濃い点が影響しているのだろう。
ただ、菅内閣の末期の支持率よりはだいぶ高い。もし菅内閣のままで衆院選に突入した場合、自民党は議席を70以上減らす可能性があると見られていたが、そのような結果にはならないのではないか。
岸田氏は衆院選の勝敗ラインについて「与党で過半数」と述べているが、自民党の議席数に注目したい。
おそらく自民党の議席は減るだろうが、減少数は20〜30ぐらいにとどまるのではないかという見方が多い。
もし議席数の減少が30以上になるようだと、岸田内閣の前途は危うい。一方、20以下の減少で踏みとどまれば、とりあえずは合格点と言えるのではないか。