LINE個人情報問題に識者が苦言 – 山口利昭

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本日(10月19日)の日経朝刊2面では、通信アプリ大手LINEの親会社であるZホールディングスが設置した特別委員会による調査報告書の内容が紹介されていました。調査報告書自体は読んでいませんが、中国の関連会社が個人情報を閲覧し、韓国サーバーに情報を保管していたことについて、報告書は「経済安全保障への配慮ができず、見直す体制がなかった」と批判したそうです。

LINEの個人情報の保管方法は日本の個人情報保護法に違反するものではありませんが、データ管理の説明不足で利用者の信用低下を招きました。この点もコンプライアンス問題ではありますが、私は上記報告書で指摘されている「経済安保問題」への配慮不足という点も、今後はコンプライアンス問題のひとつになりうると考えます。欧米諸国では官民が連携して個人情報保護の管理体制の構築・運用に尽力しているなかで、日本のプラットフォーム企業が不適切な管理によって個人情報の漏洩を放置していたとなれば(西側諸国の企業と日本企業との『ゆるいネットワーク』構築の機運を阻害することとなるため)日本企業全体の信用毀損につながるからです。

同様のことは知財・営業秘密の管理体制にも言えます。先日、日本製鉄がトヨタ自動車を特許権侵害で訴えたことが報じられていましたが、「経済安保における日本企業の立ち位置」に注目が集まれば、当然のことながら「泣き寝入り企業」は(自社だけでなく、他の西側諸国の企業の損失につながる不作為として)批判の的になります。「日本企業の知財を盗めば高くつく」といった評判を官民連携で形成していこうとしている矢先、不正競争防止法や特許法を使えない企業は「管理不全企業」との評価が高まることになり、競争法上のハンデを背負うことになります。

毎度申し上げるとおり、経済安保問題に絡む経営判断にはしたたかな計算が必要ですが、以前は「泣き寝入り」自体がコンプライアンス問題に発展することはなかったはずです。社会の風が変わることで「知財や営業秘密の管理ができない企業」「西側諸国の利益をいっさい顧みない企業」として世界的な批判を浴びることとなり、コンプライアンス問題に発展してしまう可能性が高まってきました。イノベーションのための「他の事業者とのゆるいネットワーク」が求められる時代において、知財を含めた情報管理能力は貴重な資産とみなされるようになり、資産流出に歯止めをかけることができない「不作為」は今後許容されないことになるものと思います。

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