■「プライマリーバランスの黒字化」と「プライマリーバランスの赤字化」
衆議院選挙における各党の演説に少し耳を傾けてみると、「プライマリーバランス」について意見を述べている人もいるようだ。曰く「プライマリーバランスの黒字化」が云云かんぬん…と。
「プライマリーバランス」というのは、国家における財政収支のことを意味しており、全ての支出を税収の範囲内で収めることをもって「プライマリーバランスの黒字化」、税収で足りない場合は「プライマリーバランスの赤字化」と言われている。
毎年、赤字収支となっている「プライマリーバランス」をプラス収支(=黒字化)にすることは国家としての理想の姿ではあるのだろうけれど、そんな国家がどこに有るのだろうか?という疑問は拭えない。
国家の赤字経営状態を見て「国家が財政破綻する!」と危機感を演出しているような人もいるが、本当に日本国家の財政が企業のように破綻する可能性があるのだろうか?
■「家計の収入」と「国家の税収」
よく言われるように、「家計の収入」と「国家の税収」というものは全く次元の違う代物であり、同じ土俵の上で比べること自体が間違っている。
家計の収入が足りなければ、誰かから借金しなければ生活が維持できなくなってしまうが、国家の税収が足りない場合は、国民から借金すればいいだけのことであり、貸し方は国家の成員である国民であるわけだから、借金返済が不可能になることは基本的に有り得ない。
国民が「借金は慌てて返さなくてもいいですよ」と言えば、それで済むことであり、なんの問題もない。そもそも、国家の借金が増えるということは、国民の持ち金が増えることを意味しているので、国民が「借金を早く返してください」という道理がない。
デフレ不況の最中、国家が黒字になるということは、国民が赤字になるということなので、国家が財政破綻を免れても、国民の生活(日本経済)が崩壊する危険性が生まれることになる。どちらが国民にとってプラスかは考えるまでもない。
■現代のお金は物理的な物ではない
「プライマリーバランス」を黒字化する方法が有るとすれば、その手段は1つしかない。それはズバリ“景気を良くすること”だけ。国民の多くがお金に余裕が生まれると、放っておいても税収は上がり、「プライマリーバランス」はプラスに転じる。
しかし、この国の「プライマリーバランス」論者達は、国民のお金を国家に吸い上げることが「プライマリーバランス」をプラスに転じる手段だと思い込んでいるフシがある。消費不況下に消費増税を勧めるなどは、その最たるものだと言える。
良いか悪いかはともかくとして、現代のお金というものは、物理的に制限の有るものではなくなっている。悪く言えば、ただの紙切れ、良く言えば、単なる情報に過ぎない。
現在、国民の総金融資産は2000兆円とも言われているが、その全てが現金として存在しているわけではない。その一事だけで、お金は物理的な物ではないことを如実に証明している。
現代は、物理的にお金を刷らなければお金が使用できないという時代ではなくて、借り手さえいれば、銀行を介していくらでも無尽蔵に増やせるもの、それが現代のお金の正体でもある。
もっとも、悪名高い「BIS規制」というものが有るため、実際は無尽蔵とまではいかないのだが…。