見知らぬ他人を頭ごなしに怒鳴りつける人は一体何を考えているのか。東洋大学の北村英哉教授は「職場での地位と個人の区別がつかず、『自分は尊重されるべきだ』と反発する中高年男性が多い。無意識のバイアス(偏見)が原因なので、こうした態度を改めることは非常に難しい」という――。
※本稿は北村英哉『あなたにもある無意識の偏見』(KAWADE夢新書)の一部を再編集したものです。
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「接客態度が悪い」と怒鳴る客の態度の悪さ
あなたは、コンビニエンスストアで「接客態度が悪い」と店員を怒鳴りつけている年配の男性を見かけたことはないでしょうか。スーパーマーケットやホームセンターでも同様です。
店員の方たちにとって、お客さんは誰でも平等にお客さんです。同じようにコーヒーやお弁当を買う限り、とりわけ誰にていねいに接客し、誰をぞんざいに扱うのかなどのルールはもちろんありません。
インターネット上では、中高年のお客さんのなかの、一部の方たちの態度やマナーを問題視する報告が多数見られます。
たとえば、以下のような例です。
「ホームセンターでレジに割り込んできた老年の男性が、待たされたことに腹を立てて商品を投げつけ、『もう来るか! こんな店!』と言いはなって帰った」
「お酒を買うときに、レジで年齢認証ボタンを押してもらう決まりなのに、『おれが20歳以下に見えるのか? 絶対押さないから代わりに押せ!』と言い、『代理で押すのは違法なのでご協力お願いします』と説得するのに、毎回時間がかかる」
「『ポイントカードをお持ちですか?』と尋ねると、常連のつもりだったのか、『何回、ないと言わせるんだ!』と怒る」
「『レジ袋に商品をお入れしましょうか?』と尋ねたら、店員がしている薄いゴム手袋を見て、『その手袋、何人で替えてるんだ? 汚い手で触るな!』と絡まれた」
「マイルドセブンライトは何番、というようにタバコがナンバリングされているのに、頑なに数字で言わず、こちらが銘柄を知らなかったり、探すのが遅くなると、乱暴なことばでなじられた」
年長の人を無条件に敬う社会から変わっている
2017年1月に配信されたニュースにおいても、『居丈高なシニア層についての店員の困惑や不快感』についての記事が取り上げられていました。その記事に寄せられた意見としては、「会社での役職が、プライベートでも通用すると思っている人が多い気がする。『誰もキミのことなんか知らないよ』と誰かが教えてあげるべきだ」というものがありました。
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「50代以上の人たちの時代は男性が今以上に強く、尊重されていた。当時だって不満に思っていた人はいたはず」という意見も寄せられていました。
似たような状況を目撃したことがある読者の方も多いでしょう。
今の社会のありようは、「年長(高い地位)の人間は無条件に敬うべきだ」という価値観が薄くなっていっているところです。リスペクト(尊重)されるべきは、本来その人個人の人柄や技能、能力です。年齢
や地位そのものではありません。
偉いのは「地位」であって個人の人柄ではない
しかし、人は地位と自分の区別がつかなくなってしまうことが多くあります。権力をもつ地位にあるから、その職権から発せられる業務命令に部下はしたがうのであって、かならずしもその人個人に心服しているわけではありません。
どんなことがあってもこの上司についていこうなどと、殊勝なことを思う部下は少ないかもしれません。ただ、上司に逆らうとボーナスを減らされるので、したがっているだけという可能性もあるのです。
こうした力のことを心理学では「勢力」と呼び、ボーナスを減らす権限を振るうような勢力を「罰勢力」、評価を高くして、職階を引き上げる権限などを「報酬勢力」と呼びます。いずれも職業上の地位にともなう権限によって成立しているだけであって、その地位にある個人の人柄がエラいわけではありません。
それなのに、日本ではこの個人と職業上の権限を、区別せずに混ぜてしまう感覚が横行しがちなのです。