「クソみたいな仕事は辞めてしまえ」:パンデミックを経て、続々と離職する ジャーナリスト たち

DIGIDAY

デイビッド・ローゼンフェルド氏は、20年間、ジャーナリストとして働いた。その後、パンデミックが猛威を振るい、彼はこの8月にキャリアの限界に達した。同様にジャーナリズムを去った人々は驚くほど多い。

ヘッジファンドのオールデン・グローバル・キャピタル(Alden Global Capital)が所有する、南カリフォルニア・ニュース・グループ(Southern California News Group:SCNG)傘下の地域紙、デイリー・ブリーズ(Daily Breeze)の元記者であるローゼンフェルド氏は、ロサンゼルス郡でパンデミックを報道するSCNG傘下の6紙で指揮を執った。彼はパンデミックの前から、業界における自分のキャリアが終わりに近づいていることを知っていた。「もうこれ以上、これほど低い賃金でやっていく余裕はなかった」と彼は言った。ローゼンフィルド氏は年間4万5000ドル(約499万円)を稼いでいたが、2017年にこの職に就いて以来、昇給はなかった。

ローゼンフェルド氏によると、パンデミックは「燃え尽き症候群、ストレス、不安など、ジャーナリストがすでに抱えている多くの問題を拡大させた。そういった感情を加速させたのだ」という。

パンデミックによるジャーナリストへの影響は続いている。彼らは仕事を辞めたり、業界を去ったり、役職を変えたりし続けている。すでにストレスに満ちたキャリアをたどっていながら、パンデミックの影響の下で仕事をしなければならないというプレッシャーからの燃え尽きを、その理由としてあげている。パンデミックは、すでに業界の出口の瀬戸際にいるジャーナリストを追い詰めている。そしてすでに業界を去った人々は、業界への再帰は考えてもいないようだ。

ローゼンフェルド氏に加えて、米DIGIDAYは燃え尽き症候群のために数カ月以内に仕事を辞めた3人の元ジャーナリストに話を聞いた。

業界からの脱出をしたジャーナリストは、決してこの4人だけではない。ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)によると、労働統計局(Bureau of Labor Statistics)の予測によると、ジャーナリズムの仕事は2030年までに4.8%減少するという。2000年には6万6000人近くだったアナリスト、記者、ジャーナリストは、2019年には5万2000人に減少している。しかし、この夏にはジャーナリストの求人が殺到しているようだ。もちろん、ジャーナリストの職をどのように定義づけるかは組織によって異なっている。リンクトイン(LinkedIn)の毎月の「雇用レポート(Workforce Report)」によると、2020年7月から2021年7月にかけて、メディア・コミュニケーション業界の雇用率は39%増加したという。6月のデータに基づくレポートを見ると、前年比で111%の増加を示している(人々がますます高い割合で転職、退職を行っているこの傾向をリンクトインは「大規模再編成(great reshuffle)」と呼んでいる)。2020年8月から2021年8月にかけて、求人サイトのインディード(Indeed)ではジャーナリズム関連の求人情報が35%増加した(求人情報100万件当たり)。

パンデミックがジャーナリストのメンタルヘルスに及ぼす長期的な影響

米DIGIDAYが取材したジャーナリストのほとんどは、パンデミックが発生したとき、ジャーナリズムのキャリアが終わりに近づいていることを悟っていた。「多くの要因が組み合わさり、どちらにしてもその方向で進む(ジャーナリストを辞める)と、もともと分かっていた方向を指し示した」と、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)におけるサービス・ジャーナリズム専門サイトのスマーター・リビング(Smarter Living)の元創刊エディターで、7月に仕事を辞めたティム・ヘレーラ氏は言った。

ヘレーラ氏は「パンデミックの直接的な結果として、1週間の休暇では解消できないタイプの疲労」と「極度の燃え尽き症候群」に苦しんだと彼は言った。ジャーナリストは一般的に、次から次に続く締め切りと正確な報道を達成するために非常に大きなプレッシャーの下で働いている。それでもヘレーラ氏は自分が経験していたタイプのストレスは「まったく新しいレベル」だったという。

パンデミックが続くなか、ヘレーラ氏のメンタルヘルスは改善しなかった。「正気を保つために、完全な危機モードに陥る前に私は数カ月間休暇を取った」と彼は言った。しかし、それだけでは十分ではなかった。今年の春、彼は職場復帰を考えたときに不安と恐怖を感じた。それは仕事や同僚を嫌いだったからではない、彼は仕事や同僚を非常に好ましく思っていた。締め切りに間に合わせたり、会議に出席したり、電話を受けたりするために「厳しいスケジュール」を続けることが、体力的にはもはや彼には出来なかったのだ。

それまでも医療関係を報道したことがあったローゼンフェルド氏は、パンデミックが始まったとき、ロサンゼルス郡の医療危機の取材担当となることに「喜び」を感じていた。この件を報道する準備ができていると感じていた。彼の署名がついた記事は毎日、新聞の一面に載っていた、と彼は言った。しかし、その代わりにこの仕事に「やられてしまった」という。

「この仕事は私を疲れさせた。私自身が壊れてしまった。燃え尽きてしまった。自分にどれほどの影響を与えているのかさえ分からなかった。今年の2月、私はもう1日も出勤できない状況になった。完全に深刻なノイローゼになった。私は鬱だった」とローゼンフェルド氏。彼は恋人と別れたのは仕事の「ストレスとプレッシャー」のせいだと考えている。COVID-19の「否定論者」たちは、パンデミックに関する報道のために彼をオンラインで攻撃していた。

パンデミック開始から1年半が経った今年の夏、ローゼンフェルド氏とヘレーラ氏はどちらも、自身が以前と同じ時間とエネルギーを仕事に注ぎ込んでいないことに気づいたという。彼らの労働倫理は悪化した。そして、彼らはhほかの業界で仕事を探し始めた。

「2日に1回は(ジャーナリストの知り合いの)誰かが『仕事やめた、気分は最高』とツイートするのを見ていたような気がする」とへレーラ氏は述べている。「ほかの人が仕事を辞めても大丈夫なのを知れて、私にとってとてもインスピレーションとなった」。

ウォール・ストリート・ジャーナルの元記者のひとりは8月、同社に入社して2年で、テック関連のスタートアップ企業で働くために退職した。パンデミックによって「自分が何に時間とエネルギーを費やしているのかを再検討させられた。(自分が時間とエネルギーを費やしていること=仕事が)自分の気分を良くしないのであれば、続ける理由はない。このような決断を容易にした」と、この元記者は述べた。

パンデミックにより、人々は就業中に何が自分を幸せにするのかを見直すきっかけを与えたようだ。充実しているかどうか。死亡者数が全国的に増加するなかで、彼ら自身の死の可能性に直面したとき、(人生における)優先順位が正しい順番になっているか。仕事で受ける数々の要求が、もはやこなす価値があるものなのか。ヘレーラ氏やローゼンフェルド氏のような人々にとって、答えは圧倒的にノーだった。

米DIGIDAYが取材したジャーナリストたちは皆、メディア業界と、今も業界にいる人々を心配している。ローゼンフェルド氏は、精神的に大きな苦痛を受ける猛烈な仕事をしながらも、時給は22ドル(約2440円)だったと言った。それはマクドナルドで働くようなものだった、と彼は言った。「私たちは、この業界をより持続可能なものにする方法を見つけなければならない」と同氏は言った。でも、とりあえず今、この時点では、「人々への私のアドバイスは出口戦略を持つこと」だという。

元ジャーナリストたちが今、何をしているか

米DIGIDAYは、ヘレーラ氏が会社を辞め、ハワイで1カ月の休暇を過ごしていたときに、話を聞いた。「もう引退した」と彼は冗談を言った。彼は、もう上司がおらず、1日中公園に行って本を読む自由について語った。「私の心の健康と全体的な満足度は、1年半前よりも高くなっている。大人になってからこれほどストレス・フリーになったことはない」と、彼は言った。「燃え尽きと疲労が取れていった」。

ローゼンフェルド氏はセーリングのレッスンを教え、自分のボートをチャーターとして人に乗せてる。彼は不動産業の免許も持っており、弁護士のための調査研究も手伝っている。そして彼はリフト(Lyft)のドライバーをすることもある。合計すると、彼は今、ジャーナリスト時代より多くのお金を稼いでいる。「私は本当にいい状況にいる。ストレスや不安を感じずに、(ジャーナリストとして)それまで楽しんできたことをたくさん楽しむことができる」。彼の仕事は、彼が外に出て人々と話すことを可能にする。「それは私が記者であることについて好きだったことだ」。

マイク・ルゴー氏は、レッド・ベンチャーズ(Red Ventures)が所有する、ゲームサイトのゲームスポット(GameSpot)の元マネージング・エディターで、9月に退職した。彼はTwitterのスレッドのなかで、彼がこの業界を去った理由は、会社の経営ミスと、メディアという「疲れ果てさせ、魂を砕き、かつ報われない」世界に10年間を費やしたダメージの結果だと説明した。彼は現在、犬のレスキュー団体ワグズ・アンド・ウォークス(Wags and Walks)の運用マネージャーを務めており、「これまでよりはるかに充実している」 という。

Twitterで仕事を辞めることの素晴らしさを頻繁に広めているヘレーラ氏は、辞めることができるという自身の特権を認めている。「私には養わなければならない家族がいない。私は(何年にもわたって)個人的なセーフティーネットを構築してきた。多くの人にとって、パッと退職してしまうことは選択肢ではないことは理解している」。

前述のウォール・ストリート・ジャーナルの元記者は、多くのメディア関係者が、フリーランスやストーリーテリングを自分のプラットフォームで試してみようと、スタッフの仕事を辞めたのを見てきた。「我々は、自分たちの考えをシェアするためにメインストリームのパブリッシャーを必要としない社会に住んでいる。私たちは前の世代に比べてこれらの大組織への依存度が低い。若者は自分の物語を語るためのプラットフォームを作ることができる」と彼は言った。

ヘレーラ氏もそのひとりだ。彼は昨年始めた「フリーランシング・ウィズ・ティム(Freelancing with Tim)」というプロジェクトを再開しようとしている。これは、フリーランスの世界を切り抜けようとするジャーナリストを支援するための週刊ニュースレターであり、ワークショップだ。

「パンデミックは(ジャーナリストたちの)エネルギーを奪った。彼らへの私の助言は『クソみたいな仕事は辞めてしまえ』に尽きる」と、へレーラ氏は述べている。

[原文:‘Quit your f – king job’: How the pandemic has pushed journalists to exit the industry

SARA GUAGLIONE(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU

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