日本の産業ロボットは人間から仕事を奪っていなかった:研究結果

GIZMODO

新しい技術って、雇用にどう影響してるんだろう?

人工知能(AI)を搭載したカメラが体温を測ってくれたり、ロボットが電話に応対したり。私たちの生活の中には、生身の人間がAIやロボットのような新技術に置き換えられるシーンがどんどん増えてきています。

これだけ自動化が進んできた分、人間の仕事は減ってきてるのかな?と気になるところですが、まさにこのテーマを掘り下げた研究結果が先日RISTEX(社会技術研究開発センター)により発表されました。

東京大学大学院経済学研究科の経済学者・川口大司教授の研究によれば、AIやロボットといった自動化技術の導入は人々の生産性を向上させ、むしろ雇用を生み出している可能性があるとのこと。そして実際のところ、日本においてはロボットの普及が雇用を増加させたことがわかったそうなのです。

ロボットが増えたら雇用も増えた

具体的には、川口教授、足立大輔非常勤教授(オーフス大学)、そして齋藤有希子准教授(早稲田大学)が出した結論は以下のようなものでした。

ロボットの価格が1%低下すると、ロボット台数が1.54%増加する。

ここまでは、なんとなくそうだよなーって納得できます。ところが、

ロボットの価格が1%低下すると、雇用も0.44%増加する。

びっくりです。ロボットが安くなればよりロボットを導入しやすくなるので、人間の仕事は減っちゃうのでは?さらには、

1%のロボット増加は、雇用を0.28%増加させる。

なぜロボットが増えると人間の仕事も増えるんでしょうか?

その謎を解くために、まずは比較対象としてアメリカの場合をちょっと見てみましょう。

ロボットは「仕事を奪うもの」:アメリカの場合

自動化は雇用を奪う」。産業ロボットという狭義な解釈において、これまで信じ続けられてきた概念でした。

産業ロボットとは、ある特定の作業をこなすようにプログラムされている機械装置。自動車部品の塗装や溶接を行なうマニピュレータ(ロボットアーム)や、電気機械を組み立てるセンサ搭載型のマニピュレータなどですね。

この産業ロボットを世界で一番最初に開発したのはアメリカでした。ところが川崎重工業によれば、当初は「産業ロボットは”仕事を奪うもの”との反発があったため」、なかなか普及しなかったそうです。

アメリカにやっと自動化の波が訪れたのは1990年代。そして、当初の不安が的中してしまいます。

2013年にFreyとOsborneが行なった研究、また2017年にAcemogluとRestrepoが行なった研究などは、産業ロボットを導入したことによる自動化が雇用を減らしたと結論づけました。これまで人間が行なっていた仕事をロボットが行なうようになり、仕事を失う人も出てきましたし、同じ仕事を続けていても賃金が低くなった人も出てきてしまいました。

ロボットは「仕事を補完するもの」:日本の場合

ところがです。日本にはロボットに対してアメリカとは全く異なる土壌がありました。

川崎重工業によれば、そもそも日本には

『鉄腕アトム』などの「ロボットは人を助ける」イメージや親しみがあり、ものづくりの自動化や無人化への関心が強まっていた

のだそうです。ドラえもん、アラレちゃん然り。

しかも、当時の高度成長期に入った日本においては労働力不足が深刻化していました。いわゆる「3K=きつい、汚い、危険」な労働に対しての懸念もありました。

そこで、産業ロボットの出番。

日本初の産業ロボット「川崎ユニメート2000型」が1969年に誕生したのを皮切りに、1970年代には早くも産業ロボットが盛んに開発され、積極的に活用され始めます。ほかのどの国より20年も早く自動化を始めていたんですね。日本って、ロボット先進国だったんだ!

さらに産業ロボットの普及に拍車をかけたのがロボット価格の低下でした。1978年から2017年の間、技術的な革新により、溶接用ロボットの価格が継続的に、かつ大幅に下落します。するとさらにロボットの普及が加速し、冒頭でも述べたとおり雇用も増加していきました。

しかも、産業ロボットが導入されて雇用が増えたのと同時に、労働者ひとり当たりの労働時間は減ったそうなんです。

なぜロボットの普及は雇用を増加させたか

アメリカと違い、日本ではロボットが増えると雇用も増えました。一体なぜ?

ロボットの種類は用途によって異なります。例えば、輸送機械(主に自動車)の生産ラインでは溶接ロボットを使う比率が高いのに対し、電気産業は組み立てロボットを使う比率が高いことがわかっています。

自動車産業は、溶接ロボットの価格が大幅に下落したのを機に、ますますロボットを導入しました。すると、ロボットの普及により産業全体が成長しました。というのも、自動車産業は主に輸出産業。たくさん作れば作るほど、海外で売ることができます。ですから、ロボットが増えたことにより産業全体が活性化し、雇用も増えたんですね。

また、日本では長期的雇用慣行で雇用保障が与えられているため、職種転換が比較的容易で、労働組合も新技術の導入に協力的だったという背景もあったそうです。

ロボットの導入は正にも負にもなりうる

川口教授の研究の真の結論は

ロボットの導入が雇用に対して与える影響は、理論的に正にも負にもなりうる

ということに尽きます。

労働がロボットによって代替され、雇用が減る。アメリカでは相対的にこちらの効果が大きかったと考えられるそうです。一方で、生産性が向上し、生産が拡大し、雇用が増えることもある。日本では相対的にこちらの効果が大きかったそうです。

もちろん、今後日本がずっと自動化の恩恵を享受し続けるとは限りません。ロボットと並行してAI技術もますます普及していく中で、未来の雇用はどのような影響を受けるのでしょうか。今後もRISTEXの研究に注目していきたいです。

Reference: RISTEX, RIETI, 川崎重工業(1,2), 瀬戸文美・平田泰久著『絵でわかるロボットのしくみ』講談社