北海道を拠点に1173店舗を展開するセイコーマート
北海道を主戦場とするコンビニエンスストアの「セイコーマート」(以下、セコマ)が8月に創業50周年を迎えた。道内に1000店舗以上を展開し、道民に愛され続けているセコマ。その人気の秘密をジャーナリストの山田稔氏がレポートする。
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毎年のように北海道を訪れている。そのたびにセコマの店舗をのぞき、道内産の商品を探すのが楽しみの一つだ。
今年もいくつかの気になる商品を購入した。「北海道産とうもろこしでつくったトルティーヤチップス」「増毛町産洋なしゼリー」「北海道メロンソフト」などなど。手ごろな価格で地元産を使用した商品を楽しめるので、実は道外から訪れる観光客にも人気となっている。
ちなみに同社によると、この夏のヒット商品は「Secoma京極の名水ブラック珈琲 無糖」(本体価格100円)、北海道産乳原料100%使用の「Secomaバニラバー」(同70円)などだという。
北海道のコンビニでは3軒に1軒がセコマ
今や道民ばかりか、全国からの観光客にも支持を集めているセコマだが、その第1号店がオープンしたのは1971年8月10日だった。酒の卸をしていた創業者が、米国で成長していたコンビニに目を付け、札幌市内に1号店をオープンしたのがスタートだ。
創業者はその後、酒屋に声をかけ続けたが100店舗になるまでに10年かかったという。ちなみにコンビニ最大手セブンイレブンの創業は1974年だから、現存するコンビニの中ではセコマが最も古い存在である。
現在の店舗数は1173店。北海道1081店、茨城83店、埼玉9店となっている(8月末現在)。北海道にはセブンイレブンが1005店、ローソンが679、ファミリーマートが241店を展開している(各社のHPより)。道内においてはセコマが4社の中でもっとも多く、シェアは約38%に達する。ざっくり言えば、北海道のコンビニの3軒に1軒がセコマということだ。
人口が少ない離島にも進んで出店
セコマが道民に愛され続けている最大の理由は、やはり地域密着の強さだろう。それを示す驚異的な数字がある。北海道には全部で179の市町村があるが、セコマグループ全体では175市町村に出店している。地域カバー率は97%、人口カバー率は99.8%にも達しているのだ。
「その最たる例が離島への出店です。奥尻島という離島があります。道南の江差町から約60km離れた日本海に位置する人口約2700人の島で、もちろん大手3社は出店していません。島民にとってはありがたい存在ですよ。
セコマは利尻島、礼文島にも出店しています。大手コンビニは通常、人口3000人の商圏を目安に出店しますが、セコマは地域住民の利便性を重視し、大手が進出しない地域にも入り込んでいった。2014年には、村議会が前年にコンビニ誘致を決めた人口1300人ほどの初山別村に店舗をオープンして話題になりました」(道内事情に詳しいジャーナリスト)
最大震度7を記録した北海道胆振東部地震で、道内が停電になったときも、セコマは車の電源を利用するなどして95%以上の店舗が営業を続け、被災者らの生活を支え、称賛された。地域密着インフラとしての存在感を存分に発揮したのである。
「持続可能な地域づくり」に貢献
北海道へのこだわりも強い。創業の地で育ってきたセコマは、製造から物流、販売まですべてを自社グループで完結しているが、この独自システムに北海道へのこだわりがある。
「北海道内には21か所の食品工場、13か所の物流センター、6か所の農場などがあり、さまざまな地域の方々に支えていただいています。
北海道は日本の食糧基地としての役割を担い、多くの生産空間を有しているため、生産空間となっている地域の存続は日本にとっても重要な課題です。
そのため、最低限の買い物ができる店舗網の維持、地域産品の積極的な活用(現在70以上の市町村品で160品以上を販売)、地域での雇用(グループ全体で約2万1000人)などの面で、持続可能な地域づくりを地域のみなさまと推進していきます」(同社広報部)
いいものを安く、「知覚価値」の追求
セコマの店内に足を踏み入れると、なんだか違和感を覚える。大手コンビニに必ずある定番のおでんがない。ドーナツもない。大手コンビニと同じ土俵では戦わないということだ。
その代わり、酒類は充実、道内各地で生産された食材を使った商品が多く目に付く。惣菜も種類が豊富だ。店内調理の導入も早かった。しかも惣菜などは100円台の低価格商品が多い。これは大手コンビニとの差別化であり、同時に「いいものを安く」という「知覚価値」を追求した結果だ。
「セコマグループは生産・調達、食品製造、物流、小売りまでのサプライチェーンです。各段階で連携を強め、コストの削減・効率化を実現しています。食品製造段階では、農産・水産の規格外品を有効活用することや端材なども可能な限り利用することで食品ロスの削減=歩留まり向上を実現し、知覚価値を高めています」(前出・広報担当者)
例えば、惣菜で人気商品の煮卵を製造する段階で発生する傷の入ったゆで卵は玉子サラダやサンドイッチに活用。焼き鳥用の鶏肉カット時に発生する端材はパスタの具材として有効活用している。また、惣菜工場ではグループで使用するトレーを製造することで、容器コストを削減し、そこで浮いたコストを食材費に回す。こうした小さな努力の積み重ねで知覚価値を高めているのだ。
物流面にも工夫がみられる。
「店舗の在庫スペースを確保することで物流頻度を少なくすることや、配送の帰り便でグループ工場やメーカー、農場からの引き取りを行い、トラックを極力空で走らせないようにする。近年は自社の商品だけでなく、他社の物流も担うことでさらに効率化を進めています」(同前)
サンドイッチや惣菜などを東京と同じ価格で売っていたのでは、所得格差、経済格差のある北海道では買ってもらえない。そこで製造から物流、小売りまでのあらゆる分野で工夫を重ね、「いいものを安く」の実現に努めているということだ。
顧客満足度日本一でも上場しない理由は?
こうした数々の取り組みの結果、セコマに対する顧客満足度は高まる一方だ。
JCSI(日本版顧客満足度指数)のコンビニ部門で、セコマは2011年~2014年、そして2016年~2020年と過去10回中9回も1位に輝いているのだ。北海道にあってはなくてはならない生活インフラ、社会インフラとして存在しているわけだが、今後はどんな事業展開を考えているのか。
同社は今後も北海道の地域に密着した店舗づくりの継続を軸に事業展開していく方針だとして、こう説明する。
「道内にある1000店以上のリアル店舗は物流網でもあり、お客様の近くまで運ぶ能力を有しています。ネットでの注文を最寄りのリアル店舗でお客様の都合のいい時間帯にお引き取りいただける商品を拡充、O to O(※注)を強化して利便性を高めていきます。
また製造事業では、優れた地域産品の発掘と商品化を進め、その商品の定番化を図り、グループ内店舗だけでなく、道外、海外への販路を広げていくことで、食品メーカー事業を強化すると同時に、地域のブランド化と経済循環を目指していきます」(同前)
【※注/「Online to Offline」の略。ネット上(オンライン)での情報接触行動をもって、ネット外の実地(オフライン)での購買行動に影響を与えるような施策のこと】
現状に満足することなく、さらなる顧客サービスと地域発展、事業拡大を図っていこうということだが、上場の計画はないのだろうか。
「中長期的な視点での新規事業や投資、腰を据えた育成という点を重視すると、非上場のほうが進めやすいと言えます。資金調達面においても自己資金や金融機関からの資金調達で賄える状況です」(同前)
看板に描かれた「不死鳥」の意味
セコマと大手コンビニとの違いでいえば、セコマは直営店が約8割を占めていること、24時間営業が約20%(北海道内)しかないことも特徴的だ。日本のコンビニ誕生から半世紀になる中、大手コンビニが抱える営業時間問題、加盟店問題に悩むこともない。
また、北海道企業といえば全国展開を果たしたニトリが有名だが、そうした拡大路線とも一線を画している。
セコマの看板に描かれている鳥は鳩ではなくフェニックス(不死鳥)だ。フェニックスのように時代に合わせて変化しながら、永遠に繁栄する──。そんな願いが込められているという。
創業50周年を迎えたセコマグループは、独自の経営スタイルで、北海道を基盤にどこまで進化していくのだろうか。