米スタバで初の労組 元凶はDXに – 後藤文俊

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■コーヒーチェーン最大手のスターバックスは1日、第1四半期(10〜12月期)決算を発表し、国内の既存店・売上高が前年同期比で18%増加した。年末商戦期中、買い物客が外に繰り出したことで客数が二桁増で伸びたことが寄与したのだ。

しかし同時にニューヨーク州バッファロー地区にあるスターバックスで12月、同社としては初となる組合が組成されたのだ。

労組が結成されたことで、労働組合員となったバリスタなどの従業員が会社と直接交渉する手だてを確保できるようになる。

画期的ではある一方、労組結成に反対するよう呼びかけているスターバックスにとっては大きな痛手だ。

世界規模で展開する大手コーヒーチェーンで組合結成となれば、国内に展開する約8,000店にも労組結成の影響が波及する可能性があるからだ。

実際、スターバックスのバリスタらが待遇改善を求めて各地で労働組合を結成する動きが広まっている。

バッファロー地区では別のスターバックスでも12月、賛成多数で全米労働関係委員会(NLRB)の認定のもとに労組を組織している。

2月6日現在、19州にあるスターバックス60店舗が労組結成への意欲を表明している。このうち14店舗が従業員投票の承認をNLRBに申請中となっている。

スターバックスの報道担当者は「われわれは引き続き、組合は必要ないと考える」と表明しているが、組合結成の波はどんどん広がっているのだ。

しかし、これまで比較的労働環境がよかったとされていたスターバックスでなぜ労組が結成されるようになったのだろうか?

実はそこにはスターバックスの急ぎすぎたDXが絡んでいる。

システムをアップデートしないまま、デジタル化に頼ったため現場で働くバリスタに大きな負担となっていたのだ。

バリスタの悲劇を生んだのは、スターバックスのモバイルオーダー「モバイルオーダー&ペイ」だ。

モバイルオーダーは事前注文・事前決済。モバイル・オーダーはレジ待ち行列を緩和し、注文の聞き取りミスや勘違いによるヒューマンエラーを回避できることでクレームが減り、顧客ロイヤリティが高まる。

スタッフもより調理に集中できることで、店内オペレーションの合理化も図れるメリットがある。コンタクトフリーとなるモバイルオーダーはお客とレジ係りの物理的な接点がなくなることで感染リスクも最小化できる利点も最近注目されている。

スターバックスのモバイルオーダー&ペイの使い方は、アプリ上で最寄りのスターバックスなどピックアップする店を指定しメインメニューの「注文(Order)」からフラペチーノやサンドウィッチ等を選択する。

ピックアップまでのおよその時間が表示され、注文ボタンをタップすれば注文が確定され決済完了となる。店では注文を受信すると、スターバックスの厨房にあるプリンタが注文ステッカーを発行する。

注文ステッカーには顧客名とメニューが書かれており、該当するサイズのカップ(サンドウィッチなどは紙袋)に貼って、バリスタが準備するのだ。

モバイルオーダー&ペイの決済では、アプリ内にあるリロード(金額をチャージ)したギフトカード(プリペイドカード)やクレジットカード等から支払う仕組みとなっている。

モバイルオーダーを含めデジタル注文は全体の38%にも達しているモバイルオーダーが、複数のバリスタでもワンオペ地獄のような現場にさせたのだ。

バリスタなど複数人の現・元従業員からの証言で、モバイルオーダーが現場に大きなしわ寄せとなっている実態が明らかなのだ。

ニューヨークの店舗では一時的とはいえ1分間に7件以上のモバイル注文が入ることもあり、物理的に対応が困難になった報じられた。

どうしても繁忙期の年末は特にモバイルオーダーが殺到する。

スターバックスのモバイルオーダーは双方向的ではなく、FAX注文のように一方通行なため、殺到にする遅延が生じても注文客に事前に告知できないのだ。

さばききれない注文でモバイルオーダーを一時的に停止するにも店長の許可が必要となる。

組合結成となったバッファローにあるスターバックスでは注文過多で40分も遅れが生じたこともあったという。

フラペチーノなどを作ったにもかかわらず、遅延により30人以上の注文客が受け取りを拒否した事例もあったのだ。

バリスタにとってコーヒーを作る忙しさより、受取拒否のほうが心理的に苦痛が大きいのだ。

また従業員投票の承認をNLRBに申請するミシガン州にあるスターバックスでもモバイルオーダーによる注文殺到があったのだ。

ミシガン州立大学院生でバリスタをしているキャシディ・サーモンドさんも5分間で最大50件ものモバイルオーダーで受注したと証言している。

注文の殺到は朝の時間に限らない。

同じスターバックスで働くミシガン州立大学3年生のグレース・ノリスさんによると、普段なら閑散とする遅い午後の時間帯に30〜40件の波状的モバイル注文があった。

バリスタが心を痛めるのは顧客の不満だ。注文の殺到による遅れが店に来るまで、顧客にはわからない。

しかもスターバックスのモバイルオーダーは一度、決済すると注文のキャンセルができない。

仕事が遅れてバリスタがイライラしている上に、顧客から直接クレームをぶつけられるため、現場スタッフの不満がスターバックス本社への怒りになっているのだ。

スターバックスは「ユニオン・バスティング」(組合つぶし)で、これまでのように単純に、組合のある店を潰すことができない。

なぜならその店舗を潰すと、そのしわ寄せで周囲のスターバックスにモバイル注文が行くからだ。他の店に注文が殺到すればまた組合が組織されてしまう。

現場の声を聞いてモバイルオーダーのシステムをしっかりアップデートしなかったことが悔やまれる。

トップ画像:お店では注文を受信すると、スターバックスの厨房にあるプリンタが注文ステッカーを発行する。注文ステッカーには顧客名とメニューが書かれており、該当するサイズのカップ(サンドウィッチなどは紙袋)に貼って、バリスタが準備や調理を始めるのだ。

tiktokに投稿されたショートビデオ。モバイルオーダーの注文が殺到し、注文ステッカーが無慈悲に積み上がっていくことをイメージする動画となっている

⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。これまでチェーンストアで組合が組成されると必ずといっていいほどその店は不採算店を理由にスクラップされていました。無論、そこで働くスタッフ全員はほぼリストラ対象です。今は人手不足なので簡単に店を潰すことはできません。また昔と違ってZ世代など今の若い人はソーシャルメディアを使い組合の組織化も効率的に行っています。tiktokに投稿されたショートビデオでは、モバイルオーダーの注文が殺到し、注文ステッカーが無慈悲に積み上がっていくことをイメージする動画となっています。

実際にはモバイルオーダーではなく、貯まっていたレシートの印刷なのですが、スターバックスで初となる組合が結成された直後だったこともあり視聴者は「これでは現場も大変だ」と大きな議論を巻き起こしました。一部のスターバックスのバリスタが、殺到するモバイルオーダーにより打ちのめされた体験をこの動画のコメントに残しています。多数の注文に圧倒されたことに加え、顧客から文句を言われるわけですから不満は加速します。

モバイルオーダーの導入が遅れている日本では、とても意義のある失敗事例となっています。勤勉な日本人ビジネスマンにとって流通先進国のアメリカは、失敗からもベストプラクティスを実践で学べるのです。

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