保育士さんから聞く「子供の悪口」の話

デイリーポータルZ

「◯◯ちゃんのおうち、大きな包丁で切っちゃうから!」
幼児の頃にお気に入りだった脅し文句だ。

当時は子供同士でそんな突飛な悪口を言い合って、腹を立てたり立てられたりしていたが、振り返ってみると、子供らしい想像力やユーモアのかたまりだった気がする。
そう思えるようになった今だからこそ「子供が言う悪口」が聞きたい。

Twitterでアンケートを取り、さらに2人の保育士さんからも話を聞いてみました。

※ご提供いただいた情報は、一部体裁を整える程度の編集したうえで掲載させていただきました。

先生には悪口を言わない

Twitterで提供いただいた情報をまとめたシートを眺めつつ、保育士さんに「園の先生視点での子供の悪口について」話をしてもらった。

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悪口をまとめたシート。
おもしろくてかわいい情報が想像以上にたくさん届いた。ご協力ありがとうございました。

協力してくれたのは、DPZライターである爲房さんの奥さん。そして筆者の妹だ。

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爲房さん(左上)は保育士歴10年、米田妹(右上)は7年のプロ。
筆者(左下)に子供との関わりはないが、近頃子育てを始めた友人の幸せオーラに当てられている。

米田妹:そもそも、保育士の立場で、子供から悪口らしい悪口を言われた記憶があんまりないんだよね。

米田:そうなの!?

爲房:そうですね。私もいろいろ考えてみたんですけど、言われないなって思いました。

「おっ、お、おかあちゃんの、ごろごろぴっかーん!!ビェェェオカアチャーン」
雷がすごく怖い3歳前の娘が、精一杯頑張って親を怖がらせようとしたものの、言ってて怖くなったようです(笑)
(\(^^)/ さん)

「パパのアンゴルモア!」
(丸越アピタ名古屋南店 さん)

「​​お姉ちゃんの、むくち!!でめきん!!おたふく!!まんがおばさん!!」
当時6歳だった息子が、姉ちゃんに無視されて始まった悪態です。
姉とケンカするときに繰り出す罵倒の言葉がいつもおかしくてしかたなかったです。
(いとさん さん)

 二人に言われて気づいた。募集ツイートから届いた悪口は家族間のものがほとんどだ。

爲房:笑いのネタにする感じで。保護者の方から聞くことはありますね。「先生聞いてくださいよ!こんなこと言われて、私笑っちゃって!」って。
人づての場合、個人的な趣味までバレるような発言は園の先生の耳には届かないですけど。

下の娘が3歳のころ
「もう!そんなめっしたらB’zかいさんする!」
とわたしを脅したことかな……。
(\(^^)/ さん)

こちらはB’zファンの方から頂いた、ファンを脅かす悪口情報。こういった、保護者のプライベートに関わるものは先生は知らない。

米田妹:子供たちから家族に対する悪口を聞くことも無いかな。褒め言葉はよく聞くけど。「私のお母さんかわいいよ」とか「ぼくのママ、昨日あたらしい服買ってさ、髪切ってさ、かわいいんだよ」とか。
それを親御さんに伝えると、「えー!うちではそんなこと言わないのに!」って言われます。

米田:親に直接伝えるのが照れ臭いのかな。

爲房:子供から先生に話す内容はそういう感じですよね。だいたい都合の悪いことは言わない。お父さんお母さんの悪口なんて先生に言ったら怒られるってわかってるんですよ。

米田妹:言わない言わない。

悪口の話をしてもらうために集まってもらったのに、保育士さんは悪口は言われないことが判明してしまった。

しかし「相手によって話す内容を変える」というのは新発見。片手で数えられるほどの年齢でも、接し方を変えられるということだ。

「保育士と子供」という関係だからこそ発生するコミュニケーションがまだまだありそう。
園のようすをもっと聞いてみよう。

先生は理不尽ないじりを受ける

米田妹:先生をいじるような発言はよくあります。
たとえば、砂場でお団子を作る遊びをしていて「お友達には甘いお団子あげるけど、先生にはめっちゃ辛いのあげる」って言われる。
甘いのをねだっても「先生にはあげなーい」って。遊びのなかで差をつけられます。

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「辛いお団子はイヤだろうな〜」と思って言ってるんだろうな。

米田妹:あとは、「鬼滅の刃」が流行っていた頃は「鬼滅の刃ごっこ」をよくしていたんですけど、人気キャラクターの役はもらえなかったです。
鬼滅ごっこを始める前に「先生は何の役がやりたい?」って聞いてくれるから「じゃあ禰津子か忍(ヒロインキャラ)がいい」って答えるんですけど、先生は鬼役しかやらせてもらえない。
しかも、かっこいい鬼の役ももらえない。雑魚みたいな役ばっかり回されましたね。

米田:行動を制限するんだ。悪意があるわけじゃないんだけど、いじわるするって感じかな。

下の子との口喧嘩で
「お父ちゃんはトイレでオシッコしたらダメ!!」
と言われた事があります。どこでしたら良いの……。
(ohkuma さん)

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人間としての尊厳の危機。

「お母さん鬼は外!」ですかね
(わがき さん)

お母さんと節分の鬼を同類扱い。

先生とのやりとりと比べて、両親に対する発言は攻撃的だ。シチュエーションの違いもあるかもしれないが、強い拒絶の意思を感じる。

言い返せないから呪う

遠回しに困らせようとしてくるタイプの悪口が「呪い・脅し」だ。

ある時怒った娘が「パパのともだちがへる」と呪いをかけてきたのは地味にイヤでした。
(伊藤螺子 さん)

友達、減らさないでほしい。 

息子3歳時……
「もう!ママのところの机だけ、かたくしてやる!!!」
「もう!ママだけ、ゼロをかぞえられなくしてやる!!!」
「もう!ママ、ひみつのかくしあじにする!!!」
「もう!ワカメ、9日にポストにとどく!!!」

(キェー さん)

「もう!」から始まる中毒性がある脅し四連発。困らせたい気持ちは伝わってくるが、内容はファンタジー。

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困るに困れない。ワカメが届いたあとまで込みで脅してほしい。

爲房:そういえば、先生にもこういうことを言う子、いますね。
叱られて言い返せない時に「あぁもう先生のことはきらい。明日から幼稚園には来ないから」って。「僕が幼稚園を辞めたら困るだろう」って脅しですね。

米田:自分が、じゃなくて、先生が困るだろうなって考えが先行するんですかね。

爲房:たぶん「辞めないで」って言われたいというか、言われるってわかってるんですね。

大人でも似たようなこと言う人いるな。筆者もそうです。

話を聞いているうちに、幼い頃の自分も似たようなことをしたり、言ったりしていた気がしてくる。そのなかで、園児だった頃の記憶が蘇ってきた。

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「”うってーわー”って、知ってる?」

米田:私が保育園に通ってた頃、多分格闘ゲームの影響だと思うんだけど「俺に勝とうなんて10年早いんだよ」って男の子が言ってたな。今の子はゲームとか、テレビのマネして強い言葉を使ったりしないの?

米田妹:テレビの影響はあると思う。「うっせぇわ」って曲が流行り始めた頃に、「うっせぇわ、って言ってたよ」っておうちのテレビで聞いたことを教えてくれた子がいたな。
「その言葉を保育園で使うのはやめて」って注意したけど。注意しても使う子はいた。

爲房:園の子が大きな声で歌ってましたね。ただ歌っていただけかもしれないんですけど、「”うってーうってーうってーわー”って、知ってる?」って他の子に聞かせてました。

米田:小さな子だと、ただ歌ってただけだったとしてもインパクトありますね……。

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「うってーわー」歌詞の意味は理解しているのだろうか。

爲房:ね!テレビの影響すごいあるだろうなって思いますね。
ただ最近は、YouTubeの投稿動画から言葉をマネしてる子が増えてます。それまで全然言わなかった子でも「ばか」とか「やべえ」とか強い言葉を急に言いだすことがありますね。

米田:それはびっくりしますね。

爲房:親御さんが心配してスマートフォンやタブレットにロックをかけても、勝手に解除して、自分でYouTubeアプリを開いちゃうんですって。

米田:普段からパスワードや解除パターンを見てるんだ。すごい。

我が家の5歳の娘は海外アニメの吹替をよく見ているので、叱ると「このとんちき!」「つまみだすわよぉ〜」などと翻訳っぽい言葉でよく罵られます。
(伊藤螺子 さん)

爲房:今は私たちが子供だった頃よりもたくさんの楽しみがあって、そのぶん一人一人好きなジャンルが違います。この海外アニメのマネをしてるっていう子はすごいおもしろいなって思いました。きっとたくさんマネしてるんでしょうね。

米田:翻訳口調でマネするのすごいですよね。普段触れているものをそのまま吸収するのか……!

となりのトトロで日本語を習得した次女は、長女にむかって「メイのバカ!」と言っていました。長女はメイちゃんではありません。
(耳 雪 さん)

「じょせいに、こえをかけるなんて、しつれいよ!!!」
その頃ハマっていた魔女の宅急便のキキが、啖呵切ったのを真似て。ちなみに息子4才頃のこと。
パパに向けて言い放ちました。
(なおこ さん)

アニメの台詞をまるっとそのままマネしているところを見ると、自分自身に合わせて言葉に変化を加えるというのは、応用技なのだとわかる。

余談になるが、異世界転生マンガ「彼方から」では、異世界の言語がわからないヒロインが、街中で耳にした言葉を聞いたまま口にして、周りの人を勘違いさせるというシーンがあった。

現実の子供も言葉を話せているように見えて、理解が追いついてない状態なのかもしれない。 

0歳児にも個性が見える

米田:年齢を重ねると、言葉のレベルもアップするんですか?

爲房:おもしろい言葉を量産する子は、3歳でも4歳でも5歳でも。年齢関係なく、ずっとおもしろいことを言ってます。0歳の時点でもみんな個性があって。小さいのにすごい意思を感じますね。

米田妹:個人差ありますよね。言葉が話せなくても他の子を気遣う0歳もいる。自分の持ってたおもちゃを、泣いてる子に「ぺっ」ってゆずったり。自分より体が小さい子にお世話するの。
怒ったときは威嚇したり噛みついたり、動物的というか、本能的な感じだけど……。

母とケンカした時や何か気に入らないことがあったりすると、全部「バイバイ」で済ませてたらしいです。
「もうバイバイ!!バイバイ!!」って
(八月晦日 さん)

米田:これは幼そうだけど、だいたい何歳くらいなんですかね?

爲房:言葉がゆっくりめのお子さんだと3、4歳もありえるけど……だいたい一歳後半から2歳かな。「イヤ」って言えないくらい小さい子でしょうね。

爲房:これは一歳四ヶ月のうちの娘の話なんですが、実家から父と祖母が遊びに来ると、「ウエエ〜ン」って泣くんですよ。まだ人見知りがあるので。
でも「じゃあもう帰るね、バイバイ」って言われると、泣きながら「バイバイ」だけはしっかりしてます。「バイバイ」は「終わり」だってことはわかってるから。

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「バイバイ!」(もう来ないでください!)

米田妹:抱っこして「バイバイ」って言われると「あーフラれたな」って思いますよね。小さい子の、必死の抵抗です。

爲房:「これを終わらせたい!」っていう時にも言いますよね。

米田:バイバイ万能ですね。私も嫌なことぜんぶ「バイバイ」で済ませたい。

米田妹:悪口らしい悪口を言い始めるのは2歳頃かな。園庭で「バカヤロー!」って叫んでた子がいたよ。

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言葉を発しているからといって、相手がいるとは限らない。

感情表現のためではなく、大人の気を引きたくて強い言葉を使う子もいるのだそう。トリッキーだ。

空気で察する

人を傷つけてしまう可能性が高い「外見の指摘」。本人に悪気がなくとも見たままを述べるので、悪口としての精度は高め。

4歳男子と口げんかをしていて、彼が言い返せなくなると
「かかのその服、ぜんぜんかっこよくない……」「その爪の色、ぜんぜんすきじゃない……」など
話題を逸らしてファッションをディスってきて、これがまた地味に傷付きます。
(ゃょぃ さん)

相手をよく見ていないと出てこない悪口。ネイルにまで言及するのがすごい。

「最近ママ、口の周りおばあちゃんになってるよね。」と言われました。
(simarisu さん)

 「おばあちゃん」は全力で否定したい。

爲房:見た目の指摘は何回か言われたことがあります。職場ではぐしゃぐしゃになるんで、化粧はほとんどしないんですよ。
お母さんが綺麗にお化粧されてたりすると気になるみたいで「先生はなんで化粧しないの?」って。
外見のことはストレートに言われますね。気になったらそのまま口から出しちゃう。

米田:ひどい!

米田妹:私は身長の低さを指摘されたことがありましたね。周りの大人と比較して「なんで先生そんなにちっちゃいの?先生も子供だよねえ」って。

米田:言われたくない!そんなときなんて言い返すの?

米田妹:大人げないんだけど「どう見ても君よりは大きいよね。抜かしてから言おうか?」とか。「怒ってる雰囲気」を出すと、子供が「あっこれガチのトーンだな」って感じ取るから、何も言い返してこない。

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いつもとは少し違う口調で話すことで、怒っている風の雰囲気を出しているらしい。

米田:そういう空気を感じ取れるんだ。おもしろいね。

米田妹:察せない子もいて、そういう子には「言われると嫌な人もいるからね」とか、「うわ〜今、先生すごい傷ついた〜」とか伝え方を変えるかな。子供も嫌われたくはないんだなって思いますね。

米田妹:ただ、これが子供同士だとケンカになる。「もう遊ばないから!」「もうこのハンカチ見せてあげない!」とかすごい号泣しながら言い合ってる。

米田:ハンカチ?

爲房:お気に入りのハンカチを見せてあげるのが「友好の証」みたいなところありますね。他の子も同じ物を持っていたとしても、本人はお気に入りみたいで。見せないイコール、あなたとは友好を結ばないみたいな。怒りのアピールなんでしょうね。

米田妹:ハンカチ自慢はあるあるですね。大人からすると普通のハンカチなんだけどね。

米田:独自文化だ。でも大切にしているものを好きな人に見せたい気持ちはわかるかも。

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パパの地位の低さ

米田妹:子供の中でお母さんが絶対一番っていうのがあるみたいで。パパはオマケみたいな扱いされてるところが多いかも。

爲房:そう言われてみればそうですね!
昔と比べて、積極的に子育てに参加されてるお父さんが増えています。でも、お子さんたちに献身的に関わっているんだけど、なぜかパパの地位は低いことがよくあります。
「うちのパパね、くさいんだよ」とか「うちのパパね、ヒゲ」とか。ひどいことを子供が言うんです。

米田:他にも要素はあるだろうに……。

「パパ、一人暮らしして」
(カームカームファーム さん)

「いじり枠」の悪口だと思っていたが、二人の話を聞いてから印象が変わった一言。

怒ると「もーぉ!チンチンタロウを呼んでやるからな~」と言う2歳児。
チンチンタロウとはパパのことらしい。
(なぎさ さん)

ひどいあだ名をつけられているパパ。想像上のモンスターじゃないんだ……。 

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パパの立場、聞いてて心配になってくる。

 米田妹:「パパめっちゃ好き!」っていう子は、7年働いたなかで一家族だけ。その家庭は、姉妹そろってパパが好きで、ママはいつも苦労してた。
「ママの時代、絶対きますからね。パパはそのうち嫌われるんで。今だけです」って励ましてました。

米田:それ、パパの行く末も心配にならない?

爲房:パパがナンバーワンっていうのは……私の職場では見たことないですね。
うちの娘はパパ大好きですよ。私は職業柄、悪いことをしたら普通に叱っちゃうせいか、やさしいパパのところに逃げようとするんです。

米田妹:でもきっと、今のところだけですね。

爲房:今に見てろよって。

米田:爲房パパがんばってほしい……。

人生はじめての社会

爲房:真面目な話、3・4・5歳は、はじめて社会性の基礎を培う時期なので、悪口を言ってたら周りの大人や先生は怒るし、注意します。それでもお父さんとお母さんは身内だから、子供は強い言葉、悪口を言うんだろうなあって思いますね。

米田妹:その通りです。園とおうちとで態度が違うという子も多いし、子供なりに外では気を使ってますね。

米田:知識や経験が少ないぶん悪口の内容や言葉選びはおもしろいですが、行動そのものは大人と変わらないように感じました。

二人から話を聞いて、保育園からやり直してみたくなった。何を言って、何を言われていたのか、ほとんど覚えていないのが惜しい。

身内は意外と覚えている

「書き留めないと忘れてしまうくらい、毎日おもしろい言葉が拾える」保育士のお二人はそう言っていた。忘れてしまうのは残念だけど、一度に大勢の子供たちと交流するのだから仕方がない。

一方、提供いただいた情報のなかには、何年、何十年も前に子供や兄弟から聞いたというものがたくさんあった。関わる時間の長さはもちろん、「あの子が言っていたから」という精神的な距離の近さも理由のひとつかもしれない。

「覚えてるっていいな」と思う反面、自分自身にも同じことがあり得るのだと考えると恥ずかしい。私の言動は忘れていてほしい。

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米田妹「……記事はまとまりそうですか?」
米田「身内がいるとやりづらいわー」
このやりとりも、家族の間柄だからこそかも。

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