タリバンがアフガン急進撃の背景 – BBCニュース

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ジョナサン・ビールBBC防衛担当編集委員

タリバンの兵力は推定6万人ともされる。写真は東部ガズニ州の州都ガズニに入ったタリバン戦闘員 | EPA

アフガニスタンで反政府勢力タリバンが急進撃を続けている。その速度は大勢の意表を突くほどのもので、今や各地の州都がドミノのように次々とタリバンの支配下に入っている。

勢いは明らかにタリバン側にあり、アフガニスタン政府は権力維持に苦しんでいる。

今週になって流出された米情報機関の分析は、タリバンが数週間の内に首都カブール攻撃を開始し、政府が3カ月以内に倒れるかもしれないという内容だった。

これほどの急展開で、政府統治のたがが外れてしまったのはなぜなのか。

アメリカをはじめ、イギリスを含む北大西洋条約機構(NATO)の同盟諸国はこれまで約20年間をかけて、アフガニスタン軍を訓練し、装備の充実に協力してきた。

米英の無数の将軍たちが、強力で有能なアフガニスタン軍を作ったと主張してきた。しかし彼らのそうした約束は、今となっては空約束に聞こえる。

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タリバンの威力

アフガニスタン政府の方が今でも兵力は大きいので、理論上は有利のはずだ。

少なくとも記録上では、アフガニスタン治安部隊の兵員は30万人以上。陸軍と空軍、警察などが含まれる。

しかし実際には、政府は常に目標の入隊者数を確保するのに苦労してきた。

アフガニスタンの陸軍と警察はもう長年、高い死亡率や脱走率、横行する汚職などの問題を抱えてきた。いわゆる「幽霊兵」と呼ばれる、名前だけ水増しされ実在しない兵士の給与を横領する司令官などもいた。

アメリカのアフガニスタン戦略を監視する「アフガニスタン復興特別監察官(SIGAR)」による米連邦議会への最新報告は、「はびこる腐敗の悪影響を深刻に懸念」し、「実際の兵力のデータは正確性が疑わしい」と指摘していた。

イギリスの王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャック・ワトリング博士は、当のアフガニスタン陸軍でさえ、実際の兵が何人いるのか正確に把握していたことはないと話す。

それに加えて、備品や士気の維持をめぐる問題も続いた。兵士たちはしばしば、部族的にも家族的にも何のつながりもない地域へ派遣される。タリバンの攻撃にこれといった抵抗もせず、持ち場を離れてしまう兵士がいるのは、このことも理由なのかもしれない。

タリバンの実力は、それにもまして把握しにくい。

米陸軍士官学校ウェストポイントの米テロリズム対策センターは、タリバンの主要兵力は6万人だとしている。他の私兵組織や支援者を加えれば、人数は20万を超えるかもしれない。

しかし、アフガニスタンの言語パシュトー語を話す元英陸軍将校のマイク・マーティン博士は、タリバンを一枚岩の単一組織とみなすのは危険だと警告する。著書「An Intimate War(親密な戦争)」でヘルマンド州の紛争の歴史をたどったマーティン博士は、タリバンはむしろ「独立したフランチャイズ業者が緩やかに、そしておそらく一時的に、結びついた連合体に近い」と話す。

博士はさらに、アフガニスタン政府も同じくらい、様々な派閥の思惑で分裂していると言う。様々に形を変えてきたアフガニスタンの歴史は、いかに家族や部族や時には政府関係者さえ、自分自身が生き抜くために、敵味方がめまぐるしく移り変わる歴史だった。

武器の調達

軍資金にしろ武器の調達にしろ、アフガニスタン政府の方が本来なら有利なはずだ。

主にアメリカから、兵士の給与や備品調達の資金として、数十億ドルがアフガニスタン政府に提供されてきた。SIGARは2021年報告で、アメリカはアフガニスタンの治安維持のためすでに880億ドル(約9兆6440億円)を支払ってきたとしている。

「ただし、それが有効な金の使い方だったのかどうかは究極的には、地上戦の結果次第だ」とも、SIGAR報告は重々しく付け加えている。

アフガニスタン政府には空軍がある。これは戦場の形勢を有利にする重要な要素のはずだ。

しかしアフガニスタン空軍は、擁する221機の整備と乗務員の維持に常に苦労してきた。タリバンは意図的にパイロットを標的に攻撃しているだけに、これは日に日に深刻な問題と化している。加えて空軍は、地上部隊の司令官の要求に応えることができない。

だからこそアメリカ空軍が最近になって、タリバンの攻撃を受けているラシュカル・ガー上空に展開したわけだが、アメリカにいつまでその支援を継続する用意があるのかは、まだはっきりしない。

タリバンはこれまでしばしば麻薬取引の収入を軍資金にしてきたが、それに加えてパキスタンを筆頭に、外部からの支援も得ている。

加えて最近では、アフガニスタン治安部隊から武器や備品を奪っている。収奪品の中には、アメリカがアフガニスタン軍に提供した米軍ハムヴィー(高機動多用途装輪車両)や暗視スコープ、機関銃、迫撃砲、銃弾などが含まれる。

ソ連の侵攻後、すでにアフガニスタンには大量の武器が残されていた。そしてタリバンは、素朴な装備しかない兵士たちでも、はるかに高度で洗練された軍隊に勝つことができると、すでに証明してきた。

即席爆発装置(IED)が米兵の部隊にどれほどの被害をもたらしたか、思い返せばいい。加えて、現地の状況や地勢を承知している分、タリバンは有利な立場にある。

北部と西部に注力

タリバンは寄せ集め部隊かもしれないが、最近の進撃の様子には、調整のとれた作戦の存在がうかがえるという意見もある。

英陸軍の退役准将で現在は英国際戦略研究所の上級研究員を務めるベン・バリー氏は、タリバンは好機に乗じてあちこちで手あたり次第に兵を進めているようにも見えるが、「これほど優れた作戦計画を作り上げるのは、なかなか難しい」と話す。

バリー氏は、タリバンが伝統的に強い南部の拠点ではなく、北部や西部に注力し、各地の州都を次々と制圧している様子をこう評価する。

また、複数の国境の要衝や検問所をすでに押さえ、ただでさえ資金難の政府にとって不可欠な関税収入を吸い上げている。

ほかには、政府幹部や人権活動家、ジャーナリストなどに狙いを定めた殺害作戦を激化させ、アフガニスタンが過去20年の間に積み上げてきた進歩を徐々に、しかし確実に、白紙に戻している。

アフガニスタン政府の側の戦略というと、そちらはどうにも分かりにくい。

タリバンが奪った全ての領土を奪還するという約束は、日に日に空疎に響く。

バリー氏は、主要都市は押さえておくという作戦があるように見えると話す。ヘルマンド州のラシュカル・ガーの陥落を阻止しようと、アフガニスタンの地上部隊が投入されていた(編注:ラシュカル・ガーは13日、タリバンに制圧された)。

しかし、その作戦はいつまでもつだろう。

アフガニスタンの特殊部隊は比較的少数で、約1万人強しかいないし、すでに能力の限界に達している。

タリバンはほかに、プロパガンダ戦にも勝っている様子だ。これがどういう戦いなのかという説明も、タリバンの方が優れているように見える。

バリー氏は、戦場での勢いがタリバンの士気を高め、一体感も高めていると話す。

対照的にアフガニスタン政府は常に上手を取られ、身内でいさかい続け、将軍を次々とくびにしている。

どうやって終わらせるのか

現状は間違いなく、アフガニスタン政府にとって暗澹(あんたん)たるものだ。

しかし、RUSIのワトリング博士は、アフガニスタン軍にとっての情勢は日に日に悪化しているものの、「まだ政治でなんとかなる状況かもしれない」と話す。

もしも政府が各地の部族長を味方につけることができれば、タリバンと政府のどちらも決定的に勝つことも負けることもない、膠着(こうちゃく)状態が訪れるかもしれない。

元英陸軍将校のマーティン博士も同意見だ。かつて有力な軍閥の長だったアブドル・ラシド・ドストゥム氏がマザーリシャリーフへ帰還したのは、重要な展開だと、博士は言う。ドストゥム氏はすでに各方面と取引を始めている(編注:マザーリシャリフは14日、タリバンに制圧された。ドストゥム氏はバルフ州を逃れたとの情報もある)。

戦闘に適した夏は間もなく終わり、アフガニスタンは冬になる。厳しい冬になれば、地上部隊の展開は難しくなる。

双方手詰まりの状態が年末までにやってくる可能性はまだある。アフガン政府は首都カブールなどの大都市にしがみつき続けるだろう。

タリバンが分裂するようなことがあれば、その場合も潮目は変わる。

ただし現時点では、アフガニスタンに平和と治安と安定をもたらそうとしたアメリカやNATOの努力は、かつてのソ連の取り組みと同様、無駄だったように思える。

(英語記事 Afghanistan: How the Taliban gained ground so quickly

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