暗渠友の会の皆とともに
暗渠(あんきょ)に興奮する。
暗渠は、水路につくられたトンネルのようなもの。用水路や川沿いを歩いていて、突然水路がコンクリートの地面の下にもぐるような場所がそうだ。
入り口を覗くと、中は昼でもまっ暗で、ただごうごうと水の流れる音だけが聞こえたりする。ちょっと怖い場合もあるけれど、でもその先がどこへ通じているのか確かめたい、とも思ってしまう。
なので、もぐってきました。
※2006年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
※2006年に取材した内容を掲載しています。
飯田橋の気になる暗渠
実は、以前から気になる暗渠がひとつあった。東京のJR飯田橋駅の近く、飯田橋から西にのびる水路だ。
飯田橋駅前の歩道橋から水路の位置を確認すると、こう。
画面奥の、単なる道路に見える場所が、飯田橋の地名の由来となる飯田橋。
神田川はその手前で右へ曲がってしまうけれど、水路は飯田橋をくぐって向こうへ続き、その先で暗渠になっている。
さらに先へ行くと、地下水路にフタをした地面の上にきれいな人工の池が広がっているのが見える。
なぜもともとあった水路にフタをしたのか、その意図がたいそう分かりやすい構図になっている。
水路オン水路。
行き先はもぐって確かめる
このさき水路がどこへ続くのか、もちろん地上を辿って調べることはできる。
でもここはやはり、もぐってその先を確かめたい。
明戸さんとEボートで
今回は一人で暗渠にもぐることはしない。
Eボートという12人乗りの手漕ぎゴムボートを借り、知人を誘って行くことにした。暗渠のよさを一人でも多くの人に知ってもらうためだ。ただし、ストレートに「暗渠」というと断られる可能性があるので、事前にはそのことは伝えていない。「ボートで川遊び」とだけ伝えてある。
Eボートは、地域交流センターというNPOの方からレンタルさせて頂くことができた。担当の明戸さんから、ボートの組み立て方などを教えていただきつつ、お昼過ぎから準備をはじめた。
ゴムボートということも手漕ぎということも事前には伝えていなかったため、そのつど、
「え…組み立てるの?」
「あのオールはなんだ?」
と、暗渠友の会の皆の顔が曇るのが見えた。この時点では暗渠のことを伝えていないので、暗渠友の会ですらない。
目的地のあるのは飯田橋だけど、その近くにはボートを下ろせる場所がない。
この日は、ほとんど隅田川に近い八丁堀付近の亀島川の岸から出発し、日本橋をさかのぼって飯田橋まで行くことになった。
行程は5kmくらい。手こぎボートだと2時間はかかるだろう。「2時間も手漕ぎ」という真実を伝えると皆の士気に影響するため、これも伏せることにした。
けだるい日本橋川クルージング
出発した当初は、ぼくも含めてみな元気よく漕ぎはじめたものの、それが続いたのはせいぜい10分くらいだった。
それ以降は主に疲れと飽きによって、みな終始無言になり、漕ぐペースも落ちていく。ボートから見える景色もそう劇的に変わるわけじゃない。けだるい昼下がりの日本橋川をまったりと進んでいく。
この物憂い感じをえんえん続けるわけです。
ようやく目的地に到着
途中で休憩をはさみつつ、「もうすぐだから」と嘘をつきつづけること約1時間半。ついにボートは目的地の飯田橋にやってきた。
暗渠に到着して急激に上がるぼくのテンション。真っ暗なトンネルの入り口を目にしてこれまで以上に無言になる暗渠友の会メンバー。はたして大丈夫か。
暗渠にもぐる
最初に紹介した飯田橋駅まえの神田川に到着した。
そして問題の暗渠がこちら。
「今からこの中に入りまーす」と満面の笑顔で伝えるものの、反応はない。むしろ軽く引いている。
内部には照明のようなしゃれたものはない。
なにしろフタをして閉じた川なのだ。人間が入ることなど想定していない。その無骨さもまた暗渠の魅力だとぼくは思うのだけど、みんなにもその良さが伝わっているだろうか。
ところが、照明などがまったくない割には、下の写真のように律儀に区の境界が示してあったりする。
ここらへん、誰をターゲットにしたものなのかがよく分からないが、たとえば暗渠内で出たゴミをどちらの区に捨てるべきかといったことを迷わないようにしてくれているんだと思う。
大変ありがたい話です。
すぐに出口についた
この水路はそんなに奥までは伸びていなかったらしい。
入り口から200メートルほど進んだところで、すぐに出口の明かりが見えてきた。
出口が見えると、急にうれしくなる。
もう少しだ、と思うと漕ぐ力も強くなる。
出口に近づくにつれて光が強くなり、安心感からかメンバーの顔にも笑みが見えてきた。
一体ここはどこなのか?
あたりを見回す
トンネルから抜け出てきた。自分の位置を確認するため、各自きょろきょろとあたりを見回す。
自分の知っている場所といま見える景色とを照会し、どこにいるのかを探ろうとするものの、普段歩いてくることがない場所なだけに、なかなかかちっと合わさるものがない。
外堀とつながっている場所だった
そのとき、目の前を中央線のオレンジ色の電車が大きな音で通り過ぎた。
そうか、わかった!
中央線か総武線に乗っていると、飯田橋駅手前でちらっと洞窟みたいな景色が見えるけど、いまぼくたちはまさにそこにいるのに違いない。
電車に乗っていて見えるこの景色はいつも気になってはいたので、あそこがここなのか!という喜びは大きい。
ドラクエでいうと、スタート地点のラダトーム城から見えていたのが竜王の城だとわかったときのような驚きかもしれない。例えがよく分からないですね。
でも、いままで来られなかった場所に、ボートというアイテムを手にいれることによって初めていけるようになる、というのはRPG的でおもしろいと思う。
とはいえ、いちど今いる位置が分かると急に感動がうすれてしまうという感じもある。5分ほどその場所にとどまった後、そそくさと帰りました。
まだまだもぐりたい暗渠
ぼくのトンネル好きは子供のころからだ。
小学生のころ、地下の共同溝への入り口が開いているのを目ざとくみつけたぼくと友達2人は、真っ暗な中を懐中電灯をつけて、水滴がぱちーんと落ちる音におびえながら中を探検したものだった。
出口をみつけて、意外な場所から出たときの驚きは今でも忘れることがない(その後なぜか先生にばれたらしく、かなりひどく怒られたうえ、入り口は二度と開かなくなった)。
人に怒られない範囲で探検ごっこをしていきたいと思います。