デジタルな権利の擁護団体であるAccess Nowが2021年8月8日に、ブラジル・アルゼンチン・エクアドルなどラテンアメリカ諸国の政府が、外国企業から監視技術の提供を受けているという実態をまとめたレポートを公開しました。このレポートには、中国やイスラエルの企業のほか、日本の大企業も名を連ねています。
Surveillance Tech in Latin America
(PDFファイル)https://www.accessnow.org/cms/assets/uploads/2021/08/Surveillance-Tech-Latam-Report.pdf
Surveillance Tech in Latin America: Made Abroad, Deployed at Home
https://www.accessnow.org/surveillance-tech-in-latin-america-made-abroad-deployed-at-home/
Major surveillance firms are ‘gifting’ tools to find a foothold in Latin America – Rest of World
https://restofworld.org/2021/surveillance-latin-america-access-now/
Access Nowによると、ラテンアメリカ諸国では外国企業が政府に格安で提供したり、時には無料で供与したりした監視技術や顔認証技術が市民の監視に用いられているとのこと。これらの技術の多くは、犯罪捜査の名目で導入されていますが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生してからは感染拡大防止といった口実が使われることもあるそうです。
ラテンアメリカ諸国の政府が市民を不当に監視してきたという証拠が、これまで多く指摘されてきたにもかかわらず、これらの地域に住む人々は監視技術の急拡大に対してあまり抵抗感を持っていないことも分かりました。それどころか、監視システムはより安全な未来のための礎だとして、国民に広く受け入れられているとのこと。
例えば、2017年当時ブラジル・サンパウロの市長だったジョアン・ドリア氏は演説で、「サンパウロを世界の中心にすることを目指しており、それにはデジタルシティ化が欠かせません。私の任期が終わるころには、サンパウロはラテンアメリカで最も監視の行き届いた都市になることでしょう」と述べたことがあります。
ブラジルの非営利団体・The Laboratory of Public Policy and Internetで責任者を務めるJosé Renato Laranjeira氏は、Access Nowのレポートに寄稿したコメントの中で、「ブラジルでは歴史的に犯罪率が非常に高いため、犯罪防止の取り組みは大抵、市民から手放しで歓迎されます」と述べました。Access Nowは、この傾向がブラジルのみならずラテンアメリカ諸国全体に当てはまると指摘しています。
今回発表されたレポートの中で、Access Nowから「ラテンアメリカ諸国の政府に監視技術を提供している」と名指しされた企業は、中国のHikvision・Dahua・Huawei・ZTE、イスラエルのAnyVisionとCellebrite、日本のNEC、フランスのIDEMIA、アメリカのVerint Systemsの合計9社でした。なお、Cellebriteはイスラエル企業ですが、日本のサン電子の完全子会社でもあります。
Access Nowによると、上記の企業が政府に監視技術を割安で提供しているのは、将来的により高額な契約を獲得したり、近隣の地域に自社の技術を売り込んだりするのが目的とのこと。例えば、Huaweiは2018年に、デモンストレーションとしてサンパウロ州の都市であるカンピーナス市にスマートカメラ30台を寄贈したことがあります。
テキサス大学オースティン校で、中国の監視カメラ技術の動向を研究しているシーナ・グライテンズ教授は、「Huaweiのような企業は、監視技術の契約とは別に、5Gなどのインフラ整備をする大規模プロジェクトにも手を伸ばしています」と話しました。
また、Access Nowは発表声明の中で、「政府は監視目的で生体認証技術を使用するのを禁止し、人権意識の乏しい企業の技術を購入したり導入したりするのを避けるべきです。また、企業は人権尊重や説明責任に関する基準を順守し、透明性レポートを公開してください。さらに、一般市民やメディアは監視技術の危険性をよく理解し、政府や企業に対して透明性や説明責任を求めていく必要があります」と述べて、各者に対し監視技術拡大の阻止に取り組むよう呼びかけました。
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