「一流の人々がダイエットコーラを愛飲しているのは、ダイエットコーラに含まれている人工甘味料がアミノ酸に代謝され、それが認知機能を向上させるからではないか」という説について検証した結果が、食や健康についてまとめたサイト・DYNOMIGHTにより公開されています。
Diet Coke probably isn’t a cognitive performance enhancer
https://dynomight.net/diet-coke-nootropic/
この検証の発端は、「成功したお金持ちはダイエットコーラが好きだ」というニュースについて、Twitterユーザーが「12オンス(約350ml)のダイエットコーラには100mgのフェニルアラニンが含まれており、これが脳内のドーパミンとノルアドレナリンの間接的な前駆体だからでは」と提唱したことです。
Ok I’m like 50% sure I solved @tylercowen’s and @danielgross’s “why do top achievers all drink Diet Coke?” thing. 12oz Diet Coke contains 100mg phenylalanine, which is an indirect precursor to dopamine and norepinephrine in the brain. https://t.co/HlNA2ztZkb
— Aaron Bergman???? (@AaronBergman18)
DYNOMIGHTによると、「ダイエットコーラの甘味料であるアスパルテームが代謝されるとフェニルアラニンやメタノール、アスパラギン酸に代謝され、これがドーパミンなどの脳内物質となる」というのがこの言説の趣旨とのこと。
しかし、この説には2つの問題点があるとDYNOMIGHTは指摘しています。第1の問題はフェニルアラニンが卵、鶏肉、牛乳、大豆などあらゆる食品に豊富に含まれているという点です。
例えば、ダイエットコーラ1本には184mgのアスパルテームが使用されており、これが代謝されると約103mgのフェニルアラニンになると考えられますが、ジャガイモ1個にはフェニルアラニンが170mg、卵1個には340mg、牛乳1杯約253mlには430mg、さらに豆腐1丁400gには約3300mgも含まれています。
このことから、DYNOMIGHTは「もしフェニルアラニンが興奮剤になるとしたら、卵・牛乳・大豆が入った食事はダイエットコーラよりさらに最適化された『生産性の神』になるのではないでしょうか?」と指摘しています。
ただし、この反論には「食品では多くのアミノ酸を同時に摂取するのに対し、アスパルテームならフェニルアラニンを単体で摂取できるので、生理学的効果に大きな違いが出るのでは」という再反論があるとのこと。また、体内で代謝されたフェニルアラニンや、チロシンが血液脳関門を通って血液から脳に入ることができるということも分かっています。
しかし、DYNOMIGHTは「忘れてはならないのは、フェニルアラニンとチロシンはタンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうちの2つに過ぎないことです。これでは強力な効果があるとは思えません。つまり、フェニルアラニンとチロシンがドーパミンになる経路があるからといって、健康な人が大量に摂取すれば脳内のドーパミンが多くなるとは限らないということです」と指摘しました。これが、第2の問題です。
DYNOMIGHTが第2の問題を検証すべく、実際にアスパルテームが脳にもたらす影響を調べた文献を当たってみたところ、次の6つの論文が見つかりました。
1つ目は、ラットに大量のアスパルテームを与えた実験です。この実験は、ラットに体重1kg当たり200mgの濃度のアスパルテームを与えて脳を解剖した結果、フェニルアラニンおよびチロシンの濃度が増加したというもの。しかし、ドーパミンは6.1%増加したこともあれば1.1%減少したこともあるなど、肝心のドーパミンに対する効果は一定ではありませんでした。また、体重1kg当たり200mgを体重70kgの人間が摂取しようとするとダイエットコーラ76.1本、ラットと人間の体表面積の違いをベースに換算しても12.3本は飲まないといけないとのことです。
2つ目は、注意欠陥障害(ADD)の成人12人に大量のチロシンを8週間投与した研究です。この研究では、試験期間中に数人の症状が改善したものの、試験が終わると何の変化も見られませんでした。このことから、研究チームは「チロシンは大人のADDには有用ではない」と結論付けています。
3つ目は、ラットの脳を直接フェニルアラニンとチロシンにさらして、ドーパミンの放出量が変わるかを調べた実験です。この実験では、「フェニルアラニンがドーパミン放出量をわずかに増加させることもあれば、わずかに減少させることもあるが、いずれにせよ大きな変化ではない」との結論が出ました。これについてDYNOMIGHTは、「論文を注意深く読めば、『スライスした上で緩衝液に漬けてアミノ酸レベルをコントロールしたラットの脳』と『ダイエットコーラを飲む人間の億万長者』の間にある微妙な違いに気づくはずです」と冗談半分に指摘しています。
4つ目は、麻酔をかけたラットの脳に体重1kg当たり200mgから1000mgのフェニルアラニンを注入した実験です。この実験では、200mg注入するとドーパミンレベルが大きく増大した一方、1000mgでは逆にドーパミンが減少したという結果が得られました。「この実験を再現するには、135.5本のダイエットコーラを脳に注入しなければならないので、全く比較になりません」とDYNOMIGHTは述べました。
5つ目は、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子ども83人の血液と尿を調べ、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンに異常がないかどうかを調べた研究です。この研究では、何ら異常は見つかりませんでした。
6つ目は、成人の日本人男性30人に、フェニルアラニンを1日3g~12g(ダイエットコーラ29本~116本分)を4週間摂取させる研究です。研究チームは、被験者らの血中にあるアミノ酸やタンパク質などを詳細に検査しましたが、塩化物やチロシンがわずかに増加したのを除いて、有意な発見はありませんでした。また、睡眠の質や精神的な疲労についても調査が行われましたが、有意な効果はなかったそうです。
こうした研究結果から、DYNOMIGHTは「調べ始めた当初は、軽く調べたら簡単に崩せるような理論だと思っていましたが、そうではありませんでした。とはいえ、ほとんどの証拠がこの説に反しているのは確かです」と述べました。なお、DYNOMIGHTがこの理論について取り上げた記事を書き上げるまでに消費されたダイエットコーラは5本とのことでした。
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