森林火災の衛星写真で見かけるあの黄色い煙はこれだったのか…。
世界中で森林火災が発生しているニュースを絶え間なく見聞きする時代になってきました。森林などバイオマスが燃えると、太陽エネルギーを吸収して温暖化を助長するブラウンカーボンが排出されるのですが、これまで考えられていたよりもこのブラウンカーボンが北極圏の温暖化を加速させていることが新たな研究結果で明らかになりました。温暖化が森林火災を深刻化させ、それが北極圏の温暖化を加速させる悪夢のような無限ループができてしまっている可能性が…。
エアロゾルの効果
通常、エアロゾルは太陽放射を地球の外へ反射して温暖化を防いでくれています。ブラックカーボンと呼ばれる黒いすすは、ディーゼルエンジンや石炭などの不完全燃焼や森林火災によって排出され、残念なことに太陽放射を吸収して気温を上昇させることで知られています。森林火災では、草木などのバイオマスが不完全燃焼することで茶色や黄色のブラウンカーボンも排出されます。こちらも気温を上昇させていると考えられてはいるんですけど、そのレベルについてはいまいちよくわかっていないんです。
5年の歳月をかけた今回の研究では、北極の大気中にあるブラウンカーボンの測定データをもとにモデリングを行ないました。その結果、ブラウンカーボンは北極圏の温暖化が他の地域よりも進んでいる大きな要因のひとつだったのだとか。
無視できないブラウンカーボンの温室効果
天津大学で大気化学と生物地球化学の教授を務めるPingqing Fu氏らによる研究チームは、北極で観測されたブラウンカーボンの約60%は中高緯度地域で起こった森林火災によって排出されたもので、北極における温室効果はブラックカーボンの30%くらいと推測しています。
Fu氏によると、大気中にブラウンカーボンのエアロゾル粒子が増えると、地球規模でもローカル地域レベルでも温暖化につながり、それによって森林火災が発生する確率は高くなり、発生頻度も上昇するそうです。ここからは、森林火災が増える→ブラウンカーボンがより大量に排出される→さらに地球が温暖化→森林火災が増えるという最悪の無限ループにはまってしまいます。
これまで見落とされていたブラウンカーボンの北極における温室効果を気候モデルに組み込むことで、森林火災発生を抑える重要性がより明らかになったとFu氏は言います。
深刻化・頻発化する森林火災と進まない気候変動対策
いまのところ、森林火災は世界中でアウトオブコントロール状態のようにみえます。北極に近いシベリアの一部では、火災によって過去最大の炭素排出量を記録しました。また、今年2月に発表された国連の報告書によれば、森林火災の発生件数は2050年までに30%、2100年までに50%増える可能性があるとのこと。報告書の著者らは、森林火災と気候変動はお互いを深刻化させる効果がありそうと結論づけていますが、悪いことに世界各国はそんな未来への備えがまったくできていません。
実際のところ、こんなに気象災害による悲しいニュースが飛び交うなかでも、気候変動対策をめぐる国際協力は泥沼化する一方です。ちょっとでも温室効果ガス排出量を減らそうとすると、一部の国や化石燃料利権グループが激しく抵抗する始末。住めない環境になったらリッチでいる意味なんてなくなるのに…。
警鐘を鳴らす科学者
研究チームは、「北極圏の温暖化を緩和するには、北半球の中高緯度における植生火災の慎重な管理が重要だと今後明らかになるだろう」と述べています。
Fu氏は
ブラウンカーボンの増加、北極圏の氷の融解、森林火災が絡みあう負の連鎖を断ち切るために、化石燃料使用などの人間活動を継続的に抑えることで、ブラックカーボンとブラウンカーボンの排出量を効率よく減らすなど、人々は何かできることがあるはずです。
と、あらゆる努力の重要性を指摘しています。
昨年、北極の海氷が解けると米西部で大規模な森林火災が起こりやすくなるという研究結果が発表されましたが、今回の研究とあわせると、北極で起こっていることと、わたしたちが生活する中緯度地域の気象災害のつながりがますます明らかになってきたことを実感します。
COP26からこっち、気候変動対策が進展したというニュース見聞きしなくなりました。世界はいったい何をやっているんでしょうか? 2030年までにどうするとか、2050年までにネットゼロとかはわかったので、とりあえず2022年に何をするのかを教えてほしいところです。