「抗うつ薬には自殺行動を引き起こすリスクがある」という警告がかえって若者の自殺を増加させていると研究者が主張

GIGAZINE
2022年03月21日 15時00分
メモ



近年は若者におけるうつ病が社会問題となる中で、抗うつ薬の副作用についての懸念も高まったことから、アメリカ食品医薬品局(FDA)は2003年から「抗うつ薬による治療を始めた最初の数ヶ月において、若者は死にたいと考えたり本当に自殺したりする可能性がある」と警告しています。ところが、この警告が抗うつ薬のパッケージに記載されたりニュースなどで広まったりした結果、かえって若者の自殺者数が増加してしまったと研究者が主張しています。

After the FDA issued warnings about antidepressants, youth suicides rose and mental health care dropped
https://theconversation.com/after-the-fda-issued-warnings-about-antidepressants-youth-suicides-rose-and-mental-health-care-dropped-171008

ハーバード大学医学部のStephen Soumerai教授とペンシルベニア大学医学情報学部のRoss Koppel教授は、30年以上にわたり患者の安全に対する健康政策の影響について調査してきた人物。Soumerai氏らの研究チームが2013年に発表した研究は、FDAの薬物に関する警告は生命を脅かす副作用を防ぐことにつながっている一方で、FDAが行った警告の3分の1が必要なケアの不足やその他の副作用を引き起こしてしまったことを示しています。

そして2020年の研究では、FDAが抗うつ薬について発している「若者が服用すると死にたいと考えたり本当に自殺したりする可能性がある」という警告について調査を行いました。この研究では、1990年~2017年のアメリカにおける若者の自殺に関するデータを、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が管理するWONDERデータベースから取得して分析しました。

その結果、FDAが警告を発する前の13年間は安定して若者の自殺率が減少する傾向があったにもかかわらず、FDAが2003年の後半に警告を発した直後に傾向が逆転し、若者の自殺者が大幅に増加したことが判明。さらに、抗うつ薬の箱に警告を記載するようになった2005年以降の6年間では、それ以前より6000人も自殺者が増加したとの分析結果も出ました。一方、警告の対象外であった年齢層の高いグループでは、自殺率は増加したものの、そのペースは若者よりもはるかに低かったそうです。

以下のグラフは、緑色の線が「FDAによる警告が出る前の自殺率」を、青色の線が「FDAによる警告が出た後の自殺率」を示しています。警告が出る前は減少傾向にあった自殺率が、警告のあった時期を境に増加していることがわかります。


Soumerai教授らは、FDAの警告が多くの患者やその親、医師らを怖がらせているため、うつ病の主要な症状を軽減するための抗うつ薬や心理療法を受けるケースが少なくなっていると指摘。実際に、アメリカの医療扶助事業であるメディケイドに登録されている1100万人の青少年のメンタルヘルスケアを追跡した研究では、2003年にFDAが警告を出した直後に、抗うつ薬の処方を含むうつ病ケアを受けるために医師を訪問する青少年の数が、実に30~40%も減少したという結果が出たことに言及しました。

以下のグラフは、うつ病で医師の診察を受ける人の割合を示したもので、赤色が白人・青色が黒人・緑色がラテン系を表しています。いずれの人種でもFDAの警告が出る前は受診率が増加傾向にありましたが、警告の後に著しく低下していることが見て取れます。


また、Soumerai教授らによると、うつ病による受診が減少すると同時に、睡眠薬などの処方薬の中毒となる若者の数が増加したことも判明しているとのこと。抗うつ薬以外の処方薬による自殺は若者が自殺を試みる一般的な方法だそうで、この点もFDAの警告によって若者の自殺が増加したという見解を裏付けるものだと2人は主張しています。

そして2018年には、実際に「箱に警告が書いてあるから」として抗うつ薬の服用を拒否した2人の患者が自殺を試みたケースも報告されています。2人は幸いにも一命を取り留め、その後は「薬による効果がデメリットを上回る可能性が高い」として処方された抗うつ薬の服用を始め、心理療法と組み合わせることで自殺念慮が強まることなく症状を和らげることができたとのこと。

Soumerai教授らはFDAの警告以外にも若者の自殺率を上昇させた要因があるのではないかと考えたものの、FDAが警告を出したのと同時に治療の減少や自殺の増加といった複数の結果が現れたことから、偶然の一致ではないことが示唆されていると主張。「抗うつ薬に関するFDAによる警告の警告を再検討する必要があることを示す証拠は多く、その数は増加しています」と述べました。


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