雪辱果たすソニーEV参入の本気度 – 大関暁夫

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2年で180度転換したソニーのEV進出

2022年の年明け早々、ソニーグループ(以下ソニー)が電気自動車(EV)の販売を含む新規事業化に向け、今春に新会社ソニーモビリティを設立して本格始動すると表明しました。

ラスベガスで開催された家電IT見本市CESで会見した吉田憲一郎社長は、「AIやロボット技術を最大限活用し、モビリティの可能性をさらに追及する」とその意図を説明しました。

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カーボンニュートラルの目玉でもあるEV製造の未来は、多業種入り乱れての新たな展開が予想されていますが、ソニーの狙いと課題はどこにあるのか探ってみます。

ソニーが独自のEV開発に言及したのは今年が初めてではなく、2年前のCESでも研究の成果としてオリジナルのEV試作車を披露しています。しかし、その折には、「あくまで技術研究としてのEV製作であり、事業化は考えていない」(吉田社長)と明言していました。

その方針が2年の間に180度転換したのはなぜなのか、それを探ることでソニーのEV事業進出の狙いが見えてくるように思います。

アップルのEV参入に刺激を受けた可能性

この2年間における世界を取り巻く環境の変化はと言えば、カーボンニュートラルに向けた各国の宣言やそれを受けた世界の大手自動車メーカーからの相次ぐガソリン車廃止年限の提示は、EV後進国である我が国のEV化の流れをも大きく動かしたと言えます。

加えて長引くコロナ禍経済の下、非接触・遠隔化に端を発したIT化の進展はDXを軸とした新たな技術革新の流れを加速させ、想像以上のスピードであらゆる分野で浸透しつつあります。

そのような時流の中でソニーがEVの本格事業化を決断した理由のひとつとして、宿敵アップルがEVを造るという話が昨年来大きな話題になっていることが確実にありそうです。

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アップルは公式にはEV事業に言及していませんが、各国の自動車メーカーに協業を持ち掛けている事実が報道されています。EVを巡るIT業界の動きは、アップルだけにとどまりません。

iPhoneの有力下請け先でもある台湾の鴻海精密工業は、「我々はEV業界でアンドロイドカーを造ることを計画している」と公言し、協力企業がすでに1200社を超えたと表明しています。これもまたソニーには、大いに刺激的であったに違いありません。

“車”製造ではなく次のITプラットフォーム確立が狙いか

IT業界がこぞってEVに熱視線を送るのは、EVが自IT業界にとっては次なるIT技術革新および次世代コミュニケーションのプラットフォームとして位置づけられる、ビッグビジネスの種に見えるからなのでしょう。

ソニーにとっては、携帯音楽機器⇒スマホと対アップル連敗の雪辱戦でもあるわけです。アップルのEV事業の具体像は現時点では全く闇の中ですが、IT大手企業の最大の関心事は常に、次世代コミュニケーションのプラットフォーマーになることです。

EVはその最有力ツールであり、鴻海の「アンドロイドカーを造る」発言に、IT企業のEV事業展開の青写真を見てとることができると思います。

「アンドロイドカーを造る」ということは、スマホにおけるグーグルのポジションを狙っていると言い換えることが可能でしょう。

グーグルはiPhoneの登場を受けたスマホの隆盛期に、メーカーに無償でOS(基本ソフト)を提供することでアップルに対抗するライバル各社に大きな支配力を持ち、スマホビジネスをその根幹でコントロールするという戦略を確立したのです。

鴻海はEV事業化に向け閉鎖されたGMの自動車工場を買ったとの報道もありますが、そのビジネスモデルは単なるEV製造ではなく、まさしくグーグルのやり方をEVに持ち込みつつ世界のEV製造を支配しようという戦略が読み取れるのです。

ソニーの狙いもまた、それに近いところにあるのは間違いありません。同社EV事業の責任者である川西泉常務は、「車の構造がメカから電気に置き換わっていくと、ソフトウエアが車を制御する。すなわちソニーに勝ち目が出るということ」と語っていますし、さらには「うちがやろうとしているのは、EVではなくモビリティ」と、断言してもいるのです。

すなわちソニーが造ろうとしているのは決して車としてのソニーカーではなく、スマホの次のITプラットフォームであることがこの発言から分かります。

ソニーは、トヨタでもGMでもないわけで、車としてのEVを造ろうとすれば安全性や走行性という厚い壁に阻まれるのが関の山であり、今を時めくEV専業メーカーである米テスラのイーロン・マスクCEOも「試作車は造れても、大量生産に向けた製造システム設計はその100倍困難だ」と話しています。すなわちソニーは、EVメーカーとは別の角度からEV市場への勝負を挑んでいると言えるのです。

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