デジャブだ、これ…。
愛する者を失った悲しみを経験するのは人間だけではありません。近頃、研究者によって母シャチが死んだ子どもを抱えて泳ぐ姿が記録されたそうです。多くの研究者は、この行動をシャチが喪に服していると考えているようです。
死んだ我が子に寄り添って泳ぐ母シャチ
Center for Whale Researchの科学者は、Facebookへの投稿で、ワシントン州北西海岸のピュージェット湾で、サザンレジデントシャチのJポッドに属するメスのシャチであるJ35(タレクア)が、J61として知られるメスの子シャチの亡きがらに寄り添って泳ぐ姿が写っている画像を投稿しました。
タレクアは、2018年にも死んだ子どもに寄り添って1600km以上泳いだことで話題になりました。タレクアがこのような行動をとったのは、そのときに続いて2度目になるとのこと。一部の研究者は、タレクアが子どもの死を心から悲しんでいると信じているようです。
カリフォルニア大学デービス校でSeaDocプログラムの科学ディレクターを務めるJoe Gaydos氏は、
「彼女が悲しんでいる、あるいは喪に服していると言っても差し支えないでしょう」
悲しみに暮れているような行動が観察された動物は、タレクアだけではありませんが、先述の死んだ我が子に17日間寄り添って1600km以上泳いだという強烈な印象から、彼女が最も有名だと思われます。
タレクアほど長い期間にわたって死んだ子どもと泳いだシャチはいないそうです。興味深いことに、2018年当時、同じポッドの他のシャチも交代でタレクアの子どもを運んでいるように見えることもあったといいます。子を失った悲しみに共感する個体がいたとしても不思議じゃないような気がします。
社会性の高い動物の中には、悲しみを表す種もいるようです。特に子どもの死と深い関わりがあるのかもしれません。たとえば、ゾウが死んだ子ゾウを埋める様子が目撃されています。また、さまざまな霊長類のメスが、タレクアのように死んだ我が子を抱きしめている様子が記録されています。
絶滅が危惧される種にとって子シャチの死は悲劇
太平洋岸北西沖に生息するシャチの現状を考えると、J61の死は特に悲劇的です。世界的に見るとシャチの個体数は安定していますが、この地域のサザンレジデントシャチは絶滅の危機にひんしています。
J61の死は、タレクアが属するポッドの長期的な存続をさらに危うくする可能性があります。というのも、一般的にシャチの子どもは過酷な環境に直面するそうなんです。Center for Whale Researchによると、生まれたシャチのうち、1年間生き延びられるのは50%に過ぎないとのこと。
研究チームは、J61の死が確認される2週間前にタレクアとJ61が一緒に泳いでいると報告を受けましたが、その様子からすぐにJ61の健康状態に懸念を抱くようになったそうです。
訳者も情報を追っていましたが、タレクアが子シャチを何度も何度もプッシュしながら泳いでいるのが心配と言われていました。イヤな予感が当たってしまったんですね。群れと種の存続を考えると、メスだったJ61が死んでしまったのは本当に残念でなりません。
でも、Jポッドにはちょっとだけ希望の光もあります。もう1頭の子シャチであるJ62(性別不明)がJポッドのメンバーと一緒に泳ぐ姿が確認されています。J62は今のところ元気に育ち、身体的にも行動的にも健康そうだとのことです。
Center for Whale Researchは、Facebookの投稿で、今後も同センターと米海洋大気庁(NOAA)などの研究者がタレクアとJ62の追跡観察を行なうと述べています。良い報告を待ちましょう。
一部の科学者は、比較死生学と呼ばれる新しい学問分野において、人間以外の動物にも死という概念を認識して反応できる種が現在考えられているよりもはるかにたくさん存在すると主張しています。
私たち人間にとっては、タレクアのような行動をとるシャチが人間的に見えるかもしれませんが、おそらく地球上には独自の概念で死を理解する動物がたくさんいるんでしょうね。
1月10日時点で、タレクアは死んだ子どもに11日間寄り添って泳いでいるそうです。自然の摂理なのかもだけど、なんとも切ない…。
Reference: BBC, The Seattle Times