2021年、ビューティブランドは主流のソーシャルアプリ以外のプラットフォームでのライブショッピングを取り入れた。
TikTokやインスタグラムなどのアプリに加え、数々のブランドがソーシャルショッピングや美容に特化した新たなスタートアップ企業に着目した。米国でのライブストリームショッピングの実験はパンデミックによって急発展を遂げ、スーパーグレート(Supergreat)、ニューネス(Newness)、フリップ(Flip)、トークショップライブ(Talkshoplive)、ショップLITライブ(Shop LIT Live)といったモバイルアプリと提携しているブランドの数は着実に増加している。これらのアプリを利用する企業には、デジタルネイティブなスタートアップだけでなく、美容を重視するおもにZ世代のオーディエンスにリーチしたいと考えている既存ブランドや小売業者も含まれている。
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MACコスメティクス(MAC Cosmetics)のグローバルeコマース・バイスプレジデントであるマーク・ジアン氏は「消費者はオンラインでの購入の際に、おもしろいコンテンツやブランドとのリアルタイムでのやりとりによく反応する」と話す。同ブランドは、美容に特化した動画ショッピングアプリ、スパーグレートでの試験運用を11月から開始しており、これまでに2度のライブショーと1回の特別プロモーションイベントでインフルエンサーと提携した。このニッチなアプリへの進出は、インスタグラムやいくつかの国で開催したブランドサイト上でのライブショーも含むグローバルなライブストリーミング展開の最新段階となる。同社では、ライブストリーミングショッピングが何年も前から普及している中国市場に向けては、2018年にアリババ(Alibaba)のTモール(Tmall)で初めてライブストリーミングをローンチしている。
「ライブストリームショッピングでは、発見した商品を消費者がプラットフォームを離れることなくすぐに購入できるため、リテンションの向上と販売プロセスの合理化にも貢献する」と、ジアン氏は述べている。
ライブストリームショッピングを採用するブランドは増加中
消費者がソーシャルプラットフォームで購入することに乗り気になるにつれて、ブランドがライブストリームショッピングを採用するケースが増えてきた。eマーケター(eMarketer)によると、ソーシャルプラットフォームで何かを購入したことのある米国の消費者の数は、2020年には25%増の8000万人に達しており、その数は2021年末には9000万人に達すると予想されている(2021年12月時)。米国のソーシャルコマースの売上は2021年35%増の360億ドル(約4兆1100億円)にまで成長する見込みで、これはeコマースの売上の4%以上を占める。
Z世代とミレニアル世代の消費者は、製品リサーチのためにソーシャルコンテンツに依存しているので、ソーシャルショッピングアプリの主要なユーザーとなっている。クラーナ(Klarna)が行った2021年の調査では、米国のZ世代の71%とミレニアル世代の69%が、ライブストリームのショッピングイベントを見ることに興味があると回答している。インフルエンサー・マーケティング・ファクトリー(The Influencer Marketing Factory)の調査によると、米国のZ世代の消費者の68%が、初めての購入前に少なくとも3件のレビューを見ている。そして調査対象となったZ世代とミレニアル世代のうち62%が、インフルエンサーの投稿で製品を見たあと、自分のスマートフォン上で購入したことがあると答えている。
競争の激化が予想される今後のライブショッピングアプリ
MACコスメティクスは、スパーグレートと公式に提携しているブランドや小売業者のリストに仲間入りを果たした。このリストは急速に拡大中であり、ほかにはアルタビューティ(Ulta Beauty)、モルフィー(Morphe)、E.l.f.コスメティクス(E.l.f. Cosmetics)、ジ・オーディナリー、カラーポップ(ColourPop)、ナーズ(NARS)などが含まれている。また、ほかのプラットフォームを試しているビューティブランドも急増中で、MACコスメティクスはそこにも名を連ねている。
インスタグラム、TikTok、ピンタレスト(Pinterest)、Twitterなど、メジャーなソーシャルプラットフォームのほとんどが現在ではライブショッピングを提供しているため、これらのアプリは大きな競争に直面している。
「これらのソーシャルコマースプラットフォームが、ほかのソーシャルメディアプレイヤーにはないもの、たとえば大きなディスカウント、よりよいライブストリーミングビデオの品質、ホストに対するより多くの分析やインサイト、ライブストリーミングイベントを主催する潜在的な資金といったものを提供し続けることができない限り、今後数カ月のうちにソーシャルメディアでの強い競争が起こるかもしれない」と、インフルエンサー・マーケティング・ファクトリーのCEOで共同設立者のアレッサンドロ・ボリアーリ氏は指摘している。
こうしたアプリは、インスタグラムやTikTokのような大手と比べてまだユーザー数が限られているため、オーディエンスのエンゲージメントを重視している。たとえばフリップは最近、これまでのダウンロード数が100万件であると報告した。しかし同社の創業者ヌーア・アガ氏は、もっとも成功したライブストリームの平均視聴時間は55分で、1万2000件以上のコメントが寄せられたと指摘している。一方、ショップLITライブのユーザー数は10万人で、前月比30%の伸びを示している。このアプリはユーザー層の支出を強調する。AOV(平均注文額)は50ドル(5700円)で、ライブストリームのコンバージョン率は10%だ。
各ショッピングアプリにみられる共通点
どのアプリもすべてフォーマットは若干異なるものの、いくつか共通点がある。それは、無料アイテムや割引と引き換えにユーザーはポイントを獲得できるというインセンティブ構造があり、率直で本物のレビューを重視し、とくに製品について知るために訪れるユーザー層を有しているという点だ。
美容に特化したショッピングアプリでのライブストリーミングは、「参加することでポイントがもらえたり、顔を出すだけでポイントがもらえたりするのがとてもいい。その結果、1時間も超熱中してくれるオーディエンスを獲得できる」。そう話すのは、メイクアップブランドのユースフォリア(Youthforia)の創業者フィオナ・チャン氏だ。チャン氏は、「人々が入ってきたり出ていったりするインスタグラムやTikTokでは、こうしたことはなかなかない」という。このブランドは2021年4月に初めてスーパーグレートでフィーチャーされ、チャン氏は月に1度、このプラットフォームでライブストリームを開催している。
ライブストリームショッピングアプリのショップLITライブの創業者トビー・チャン氏いわく、Z世代のユーザーは「非常に熱心で、ロイヤリティポイントを獲得して引き換えようとするのが本当に好き」とのことだ。同プラットフォームでは今年、コヴィ(Covey)、ジョアンナ・バルガス・スキンケア(Joanna Vargas Skin Care)、ブルーメ(Blume)などのブランドがライブストリームを行った。
2021年春には、ジョアンナ・バルガス・スキンケアのプロモーションを行うために、セレブリティのフェイシャリスト、ジョアンナ・バルガス氏が初めてライブビューティショッピングアプリ、ニューネスに登場した。その夏のあいだ、彼女は毎週ライブを開催した。バルガス氏によると、アプリでのライブ配信で、同ブランドは「オンライン売上とブランドのウェブサイトへのトラフィックがかなり増加した」とのこと。
ライブストリーミング戦略で効果的なのは、顔を出す創業者
ライブストリーミングは、「アドバイスやコミュニティとの交流、自宅にいるという点をショッピングの社会的側面に組み合わせたもので、どれもすべて人々が大好きなことだ」とバルガス氏は指摘している。彼女は、セレブリティスタイリストのブラッド・ゴアスキー氏、セレブリティエステティシャンのレニー・ルーロー氏、元キールズ(Kiehl’s)のオーナーであるジャミ・ハイデガー氏など、著名なゲストをショーに招いていると話す。
公に顔を出す創業者は、ブランドのライブストリーミング戦略にとってとくに効果的である。
「創業者がショーを行えば、成功する」と、ビューティ・ソーシャルショッピングアプリのフリップの創業者でCEOのヌーア・アガ氏は言う。フリップが公式パートナーとするブランドには、トゥー・フェイスド(Too Faced)ユース・トゥー・ザ・ピープル(Youth to the People)、スーパーグープ(Supergoop)、アワーグラス(Hourglass)、カバーガール(Covergirl)、ビオデルマ(Bioderma)がある。短い動画に特化したTikTok風のアプリとして2018年にローンチしたフリップは、2021年6月にライブストリーミング機能を追加した。それ以降はライブストリームのコンテンツを増やしている。現在は、8人のライブストリーミングのホストに出資しており、2022年の第1四半期には500人にまで増やす予定だ。
「創業者が来てライブをする目的は、その人を売り出すことではない。なぜこの製品が生まれたのか、どんな価値があるのか、どうやって作ったのか、その裏にはどんなストーリーがあるのかを伝えることに意味がある」とアガ氏は指摘する。同アプリではインフルエンサーコンテンツに加え、2022年第1四半期には、大手ビューティブランドの創業者によるライブを特集する予定だ。
アプリでのライブストリーミングには、さまざまな創業者たちが参加している。
「我々には起業家がローンチしたばかりのすばらしいブランドもたくさんあるし、それから、もっと大物の有名なセレブリティやインフルエンサーのブランドや製品もある」と、スーパーグレートの共同創業者でCEOのタイラー・フォークス氏は語る。
「QVCやHSN、あるいは中国のライブストリーマーなどを見て、多くのインスピレーションを得ている」と、チャン氏は言う。「ライブストリームでの販売はとても特殊なスキルだ。そのスタイルを見ればわかるが、非常に異なる特殊なコミュニケーション方法なのだ」。そしてチャン氏は、「より多くの創業者たちがそのスキルを開発するようになるだろう」と予測している。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: The year in beauty livestreaming on social shopping apps]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)