freee株式会社は12月1日、バックオフィスサービス「freee会計」における改正電子帳簿保存法(改正電帳法)の対応状況について記者発表会を開催。同社CEOの佐々木大輔氏、電帳法の改正に関わった経済産業省の廣田大輔氏(大臣官房会計課政策企画委員)、税理士の菊池典明氏(辻・本郷税理士法人DX事業推進室)が登壇し、改正電帳法に関する期待や課題、現状などを説明した(freee会計の改正電帳法対応の詳細については、関連記事『「改正電帳法に対応してもユーザーには意識させない」――freee会計、全プランで完全対応へ』参照)。
「電子帳簿保存法を知っている」のは43.1%
freeeは、18歳以上の就業者を対象とした「電子帳簿保存法改正とペーパーレスに関する調査」を11月26日・27日にインターネットにて実施した。その中で「電帳法を知っていますか?」との質問に「知っている」と答えたのは43.1%、「知らない」が56.9%だった。
「電子帳簿保存法の改正に向けて対応は進んでいますか?」では、「はい」が54.5%、「いいえ」が37.0%、「わからない」が8.5%。しかし、会社の規模で比較すると、大企業では「はい」との回答が67.4%だが、中堅企業では48.0%、小規模事業者では42.1%となり、規模によって差があることが読み取れる。
日本の請求書・レシートの電子化は0.03%
佐々木氏は、多くの従業員が関わる改正電帳法における経費精算を例に挙げた。
現在の経費精算は、レシートは従業員が保管し、月末などの精算時にA4の紙に貼り、経理に渡るとファイリング、会計システムへの入力、保存というステップが必要だ。この際、会計システムと紙の書類の2つが存在することになる。紙と電子データを併行して管理していくのは、保存コストのほかに、金額などの整合性が合わなくなる可能性がある。
この紙の書類の保存コストは、経済界全体で年間3000億円だとしている。また、中小企業の経費精算は、1社あたり年間164時間に上るという試算がある。しかし、電子データで保存すると35時間に削減できるという試算を示し、「デジタルで効率化できる」とした。
また、世界の状況を見ると日本は遅れていることが分かるという。英国、米国、ドイツ、オーストラリアともに電子保存の法規制が進んでいるため、電子化を行えば原本である紙の破棄は認められている。さらに「フランスは、環境保護の観点でそもそも紙の書類を発行しない」というほどだ。
しかし、日本の現状は「レシートや請求書の電子化は0.03%」と非常に少ない。
日本では現在、紙の書類をスキャナで取り込み電子化を行う「スキャナ保存」は、税務署に申請が必要だったり、電子化されてもあくまでも紙のほうが原本だったりするため、電子データとともに紙原本を保存する必要がある。
改正電帳法では「スキャンをしてすぐに捨てられるようになった」というほど手間がかからなくなるという。具体的には、現行法では9つのステップを踏まなければ、紙原本を破棄できなかった。しかし、改正電帳法では、3つのステップで紙原本が破棄できるようになった。
このように改正電帳法では、紙原本をスキャンするとレシートの破棄が認められている。しかし、書類のフル電子化という選択肢はなかったのだろうか。「電子レシートや電子請求書が基本となるのは素晴らしいが、スキャナ保存は重要なステップ」だという。
それは、電子データによる書類のやり取りは「双方が合意しないとできないのが現状」という事情があるためだ。電子データに対応する事業者と、対応しない事業者が取引をする場合、電子データに対応しない企業に合わせる必要がある。
例えばスキャナ保存が認められなければ、電子データに対応していても、紙で請求書を受け取り、紙で保存しなければならない。そうなると、紙の書類と電子データが混在するため、現状と変わらない状態になる。
しかし、スキャナ保存が認められているため、請求書を受け取った側が「自分の意思で電子化できる」ことになる。スキャナ保存では、書類を発行した相手側との合意は不要。紙の書類を受け取った側がスキャナ保存することで、紙の書類も電子データも全て電子データに一本化できる。
また、2023年10月から「インボイス制度」が始まる。同制度におけるインボイスとは「適格請求書」のこと。現在は、支払額が3万円未満の場合、帳簿に記載していれば仕入税額控除が認められていた。
これに対してインボイス制度が開始されると、適格請求書などの保存が必要となり、莫大な量の書類が発生する。仮に3万円未満の課税仕入れを紙で保存することになった場合、「freeeのユーザーだけでも年間約8000万枚、縦に積むとスカイツリーの約11倍相当する」というほどの書類が発生する。そのため、改正電帳法をきっかけにペーパーレス化を進めておく必要がありそうだ。
改正電帳法は「性善説」。データ化にかかる手間は減るが、不正行為の重加算税は増
経産省の廣田氏は、改正電帳法について「性悪説からリスクアプローチ」という方向に改正されたとしている。
廣田氏は、「税制改正要望の担当をしていた」という人物。電帳法は「事業をしている人にはすごく大事な制度」として、「使い勝手をよくするために税制改正要望を行っていた」とした。
この税制改正要望をまとめていた時期はコロナ禍でもあり、経理のテレワークが課題になっていた。経理のテレワークにはペーパーレス化が必要で、「経産省からも手続きを緩和していく要望をした」という。
現行の電帳法では、内部統制がネックで、サインをして3営業日以内にスキャンを行い、経理が確認、第三者による定期検査時に紙原本と電子データの比較など、改ざんが入らないようにいろいろな手続きが入る「性悪説」を前提とした仕組みだった。
しかし、改正電帳法では、書類の受領者が経理に提出した場合、経理の担当者がスキャンを行い、タイムスタンプを付与すると紙原本は破棄できる。このタイムスタンプは、オンラインストレージのタイムスタンプでも認められる。
また、会計検査や監査は「リスクアプローチに舵を切っている」としている。会計検査や監査では、会計に関する書類を確認するが、全てに目を通すことは時間や人手が足りないため困難だ。そこで、会社の事業や世情などを判断材料に、特定の帳簿を重点的に調査する「リスクアプローチ」に進みつつある。
さらに改正電帳法は、「大部分の人は真っ当に税の手続きを行う。その代わりに、悪いことをしたことの重いペナルティを課す」という「性善説」の方向だ。訂正や削除の履歴が残る「優良な電子帳簿」を利用している場合、申告漏れがあった際に課せられる過少申告加算税が5%軽減される。
しかし、電子データの改ざんなどの不正は、重加算税にさらに10%加重されるという重いペナルティが課せられる。
改正電帳法でも「紙と電子データの混在」ができるが、生産性は下がる
税理士の菊池氏は、「改正電帳法がバックオフィスの現場に与えるインパクト」と題して、税理士の視点から、改正電帳法の現状や課題を述べた。
税理士として1つのメリットとして、「優良な電子帳簿」を採用すると、「企業を悩ましていた過少申告加算税が5%軽減される」ことを挙げた。
また、現行法は「タイムスタンプの要件が厳しい、2人以上が定期的に確認する必要がある――など、中小企業にとってハードルが高い」という。
現行法でも、電子化できる書類があるが、できない場合もあるため、電子と紙が混在している状態だ。この場合、全て紙に出力して統一するという管理方法も多いという。
しかし、改正電帳法では、電子データで書類を受け取ると、紙への出力はできない。その場合、電子データと書類の両方を保存するという選択肢もあるが、「紙と電子の混在は、生産性が下がる可能性もある」としている。そのため、紙の書類をスキャナで取り込み電子化を行う「スキャナ保存」を利用することで、書類は全て電子データのほうに一本化できる。
さらに、電子データで書類を送受信できるように検討したほうが、将来的に管理コストや人件費の削減につながるとした。
最後に、「システムの導入はハードルが高い。助成金や補助金、税制的な優遇措置を前向きに検討していただきたい」と要望した。