ファーストパーティデータ 戦略 、2022年に採るべき道とは?:LiveRamp 鳥井武志氏に訊く

DIGIDAY

ターゲティング広告やリターゲティング広告はすでに効率が低下している。

ChromeこそサードパーティCookieのサポートを2023年後半まで続けるとしているものの、すでにSafari、Edge、FirefoxではサードパーティCookieが廃止されている。Chromeと同程度のシェアを持つ3ブラウザで、サードパーティCookieに依存したターゲティングやトラッキングは使えないのだ。2022年4月には改正個人情報保護法案も施行され、データプライバシー規制はさらに進む。精緻なマーケティングを実現するにはファーストパーティデータ活用が不可欠となるだろう。

しかし、ユーザーのプライバシー保護に配慮しつつ、マーケティングに利用できる質の高いファーストパーティデータを収集・活用することは容易ではない。こうしたなか、パブリッシャーと広告主に対し、ポストCookieソリューションを提供するLiveRamp(ライブランプ)が提案するのが、人ベースのIDソリューションであるRampIDだ。RampIDは、企業がオンライン・オフラインを問わず取得し、保有するファーストパーティデータから個人を識別できるデータを不可逆的にハッシュ化し、独自のアルゴリズムを用いてRampIDという固有IDを作成する。

LiveRampの営業責任者である鳥井武志氏は、「セキュアなデータであるRampIDを用いることで、サードパーティCookie代替から企業間のデータコラボレーションまで、ファーストパーティデータの活用の幅を大きく広げることができる」とし、こう続ける。「小売とメーカー、金融機関とゲーム企業など、RampIDを介したデータエコシステム構築も不可能ではない」。

2022年を見据えブランドが取るべきアクション、ファーストパーティデータ戦略のあり方はどうあるべきなのか。鳥井氏に話を聞いた。

すでに現れつつあるCookie廃止の影響

GoogleがChromeにおけるサードパーティCookieのサポート終了期限を、当初予定していた2022年1月から2023年後半まで延長した。Cookie規制への対応期限が、2年間ほど先送りされたことで、多くの広告主はほっと胸をなで下ろしているかもしれない。

しかし、鳥井氏は「Cookie規制の影響はすでに多くのサイトで出始めており、ユーザーの獲得効率、コンバージョン効率がかなり落ちている」と指摘する。実際、SafariとEdge、Firefoxといったブラウザでは、すでにサードパーティCookieは使えない。シェアを考えれば大した影響はないと感じるかもしれないが、Chromeを含む4ブラウザの国内シェアは、Chromeが45%、Safariが36%、Edgeが8%、Firefoxが3%。つまり、Chromeと同程度の割合を占める3ブラウザで、サードパーティCookieを利用したターゲティングやトラッキングはすでに使えないのだ。そこで、LiveRampがパブリッシャーに対し、ATS(Authenticated Traffic Solution/認証トラフィックソリューション)というRampIDを活用した在庫を識別可能にするソリューションを提供することで、この問題を解決することが可能になる。

「大多数の広告主は、サードパーティCookieの規制が始まって以降、規制対象のブラウザでの広告予算をほかのブラウザでのプロモーションや広告、スマホアプリなどにシフトし、新規ユーザーの獲得効率向上や、既存ユーザーからの売上改善でしのげなくもなく、規制対象ブラウザへの本格的な対応は後回しになっていたのだろう」と、鳥井氏は推測する。「しかし、最大シェアであるChromeの規制開始が間近に迫っている。本気で取り組まなければいけない状況だ」。

Cookie廃止に加え、2022年4月1日に施行される「改正個人情報保護法」の存在も無視できない。同法には現行法からさまざまな変更点が盛り込まれているが、なかでも注目されているのが、「個人関連情報」の第三者提供の制限だ。個人関連情報とは、生存する個人に関する情報のうち、個人情報、仮名加工情報および匿名加工情報のいずれにも該当しないものをいう。

つまり、ある個人に関してCookieなどを通じて収集されたWebサイトの閲覧履歴や、メールアドレスに紐付いた年齢・性別・家族構成、商品購買履歴・サービス利用履歴、位置情報、興味・関心を示す情報などは、すべて個人関連情報にあたる。こうしたデータは、提供元の記録保存と本人確認が必要となるため、今後サードパーティデータに関しては、さらに厳しい規制が課せられることになるのだ。

ファーストパーティデータに求められる「質」

「ユーザーからの同意が取れないと、改正個人情報保護法以前に行っていたような精緻なマーケティングはできなくなる。そうした観点からも、これからはファーストパーティデータの活用が重要になるのは間違いない」と鳥井氏は語る。

こうした状況を受けて、すでに大量に保有しているファーストパーティデータを活用して、従来通りの施策を維持したいと希望する広告主は多いが、そのデータがただちにサードパーティCookieの代替になり得る質であることは多くない。なぜなら、正当な手続きを経て取得したデータかどうかが不明だったり、マーケティングに有効なデータではないものが多いからだ。「今後は、あらかじめ利用目的を想定、明示し、ユーザーからの明確な許諾を取った上で、デジタルで使えるような情報を収集して質の高いファーストパーティデータを蓄積するということが求められていく」。

ファーストパーティデータを収集・活用するためのソリューションとしてまず俎上にのるのは、CDPだろう。とはいえ、その導入・運用費用は高額であり、どの会社でも導入できるものではない。一方、「LiveRampのソリューションであるLSHは、莫大なコストをかけなくても、サードパーティCookieの代替とファーストパーティデータの活用の両方に使える」と鳥井氏は言う。

LSHとは、「LiveRamp Safe Haven」の略で、LiveRampが提供するデータ接続ソリューションだ。LSHを導入した広告主が保有するファーストパーティデータから個人を識別できるデータ(メールアドレスや住所と氏名のデータセットなど)を不可逆的にハッシュ化し、独自のアルゴリズムを用いてRampIDという固有のIDを作成し、それをキーにしてデータ連携(データコラボレーション)を行うためのソリューションである。

鳥井氏はファーストパーティデータの質の重要性を指摘する

プライバシーに配慮したRampIDを導入する意味

RampIDは、個人情報を基にしながらも独自のアルゴリズムでIDに変換しているため、圧倒的にセキュアなデータであることが最大の特徴である。また、RampIDは企業やドメインごとにユニークIDとして生成されるため、単純に「自社RampIDと他社RampIDを接続してデータ連携を行う」ということは不可能だ。

LiveRampを介してマッチング処理を行うことで、初めてデータコラボレーションができる仕組みになっている。仮にある企業からデータが流出しても個人は特定できず、どこともつながらない。ユーザーの同意なしに企業同士が勝手にデータシンクすることも、技術上ありえない。徹底的にプライバシーバイデザインにこだわったソリューションでもあるのだ。

急速に進みつつあるCookieレスという状況にどう対処するべきか、多くの企業が右往左往しているが、この変化の根源にあるのはユーザーのプライバシー保護強化の潮流だ。現在のサードパーティCookieの制限も、元をたどれば、2016年に発効された一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)から始まった。2020年にはカリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)が適用され、日本でも2003年に個人情報保護法が施行。3年ごとに改正されているが、その度に個人情報保護が強化されている。

こうした流れを踏まえて、「プライバシーの保護に関する考え方は、年々厳格化していくと想定しておくべきだ」と鳥井氏は指摘する。改正されるたびに場当たり的に対応し、その都度慌てていては、企業のサステナビリティの観点からも不適切だ。「プライバシー保護の観点から厳格に設計されている技術であれば、一度導入することによって今後のプライバシー保護が重視されていく流れにも対応できる。毎回あたふたせずに済むという考え方は、今後ブランドのマーケティング戦略において重要になる」。

企業間のデータコラボレーションへの活用

RampIDのもうひとつの特徴が、企業間でのデータの接続だ。RampIDを媒介することによって、自社が保有するデータを他社と共有することができる。「実は、LiveRampに興味を持つ企業の半分は、データコラボレーションに惹かれてお問い合わせいただいている」と鳥井氏が自負するほど、サードパーティCookie代替にとどまらない大きな柱となる機能だ。

先述した通り、RampIDは企業ごとに固有のIDを生成すると言う特徴を持つ。データ接続に際しても同様で、事業者ごとに個別のRampIDを生成するため、生のデータをダイレクトにつなぐと言うことは決してない。あくまでセグメントデータとしてシェアする点が特徴であり、このセキュアさがRampIDならではの大きな価値だといえる。これによって自社グループ内のデータ接続はもちろん、異なるCDP同士を使っている企業間のデータコラボレーションも実施することができる。

企業間のデータ接続の最大のメリットは、一見利用価値が見えないデータにも、新たな価値を付加できる点にある。たとえば、2020年の金融法改正により、金融機関でも決済データの利活用が容易になったことを受けて、ある金融機関がグループ内の子会社であるスマホアプリ会社とデータコラボレーションを行った。

金融機関には購買データはないが、様々なファーストパーティデータを保有している。口座所有者の氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報に加えて、給料振込、ローンの支払い状況など、保有データの項目は多岐にわたる。一方、スマホアプリ会社には、ユーザーごとの課金データという購買データがある。預金残高データとアプリ課金データを、RampIDを介して掛け合わせ、金融機関は対象者向けに新しい金融商品を、CookieやデバイスIDを使わず広告配信できるようになる。このように一見「商品価値」のないデータでも、組み合わせによって新たな価値が付加される可能性が出てくる。これをセキュアに行うことができるのが、RampIDによるデータコラボレーションの大きな魅力だ。

「データコラボレーションはRampIDの大きな強みのひとつ」と語る鳥井氏

データエコシステム構築も夢ではない

こうした企業間のデータコラボレーションは、特に海外では幅広く行われているという。その最たる例が、フランスに本社を置き、世界各地に事業を展開する小売である、カルフール(Carrefour)が2021年6月に立ち上げた、広告主向けの広告配信プラットフォーム、カルフールリンクス(Carrefour Links)だ。

広告主はカルフールが持つ顧客の属性・購買データを活用して、ウォルマートの店舗、ウェブサイトやアプリにデジタル広告を配信できる。広告主は、カルフールのデータと自社ファーストパーティデータをRampIDで接続して分析した上で、独自にカスタムセグメントを作り、それに向けて広告配信を行う。また、カルフールが持つデータだけでなく、自社のファーストパーティデータと掛け合わせて広告配信することで、DMPやCDPを介さずともきめ細やかな広告配信を行うことができ、最終的にはユーザーの獲得効率や売上が向上に繋がっているという。

「小売とメーカーによるデータ連係へのニーズは非常に高いが、プライバシー面での課題がクリアできずなかなか実現してこなかった。この壁を乗り越えて実現できたのは、RampIDだからこそ」と鳥井氏も自信をのぞかせる。同様の仕組みは、アメリカの大手流通企業ウォルマート(Walmart)や、ターゲット(Target)、CVSなどでも実施されている。こうした大手小売企業のメディア化の流れとメーカーとのデータ接続のパターンは、「日本でも始まりつつある」という。

データコラボレーションを目的にRampIDを導入した企業には、LiveRampが接続相手をコンサル的につなぐといた提案も行なっている。実際に紹介した企業同士でのコラボレーションの結果、成果を出す事例もあったという。鳥井氏は、こう話す。「今後は、我々を介さずとも企業間でデータコラボレーションが広がっていくような、RampIDによるデータエコシステムを日本で実現したい」。

▼鳥井武志
LiveRamp 日本営業責任者
2002年からインターネットビジネスに従事し、検索連動型広告最大手のオーバーチュアにて、ビジネスディベロップメント部門において主要パブリッシャーとのリスティング広告事業の拡大に寄与。Yahoo! JAPANによる買収後には、ディスプレイアドネットワーク事業ならびにアドエクスチェンジ事業も担当。その後、AudienceScience Japanを経た後、デバイス推定技術「AdTruth」の日本とアジア全体における事業責任者や、韓国最大のDSP/DMP企業Wider Planet Inc.の日本法人代表を経て、2019年よりLiveRamp Japanに日本営業責任者として参画。

Sponsored by LiveRamp

Written by Written by DIGIDAY Brand STUDIO(内藤貴志)
Photo by 渡部幸和

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