USB PD対応のACアダプタが充実してきている。スマホもPCも、モバイルバッテリも同じアダプタ、同じケーブルで充電ができるのは想像以上に便利だ。アダプタの能力が出力ワット数というわかりやすい指針で示されるようになったのも大きい。
新しい当たり前としてのUSB PD充電
デジタル関連製品大手のAnkerが、全国の20~50代の会社員男女1,094名を対象に「コロナ禍における仕事環境の改善ニーズに関する調査」を実施した。その結果、約4割がコロナ禍において自宅などオフィス外で仕事をする機会が増えたといい、さらにその約7割がノートPCに付属する純正の充電器を不満を抱きながらも使っていることがわかったという。そして、その不満を解消するために求められているのは、軽量、コンパクト、充電速度の速さの3要素だったという。
スマホにはスマホの充電アダプタ、PCにはPCの充電アダプタを別途用意するというのがかつての当たり前だった。だが今は違う。新しい当たり前が浸透しつつある。スマホやPCのほとんどすべてがUSB PDによる充電を受け入れるようになり、ケーブルも両端がUSB Type-Cのものが使われる。今やこの原則から外れるのはiPhoneやiPadで使われているLightningプラグだけだが、それとて充電規格はUSB PDを頼る。
Ankerは、ACアダプタに次世代半導体「GaN」の採用に熱心なベンダーだ。以前よりも大きな電力を効率的、安全に供給でき、小型化も図れるということで、新しい世代の充電アダプタは、Ankerに限らず、こぞってこの素材を使うようになった。同社はGaNの採用のパイオニア的存在でもあるが、今回、電源ICと回路設計に大きく手を入れた「Anker GaN II」を開発し、スイッチング周波数を高めたり、熱やノイズの低減することに成功、さらなるACアダプタの小型化を実現した。
こうして「Anker Nano II」シリーズが完成、5月に45W版、7月に入って30W版の発売が開始、65W版も予約が開始された。おそらく小型化の追求の結果なのだろう、30W版だけ折りたたみ式プラグの採用は見送られている。
重量は、30W版が47g、45W版が68g、65W版が112gだ。nanoを名乗る同社製品としては、個人的にはスマホ用のACアダプタとして「Anker PowerPort III Nano(18W)」を愛用してきたが、その重量は30gだったし、この製品が20W対応したあとも重量は同じだ。30gを大きく切るアダプタはほぼ見かけないので当面は現役で使う。もっとも、市場に流通している製品群を見る限り、今回の「Anker Nano II」シリーズは、最小最軽量を狙っているわけではく、熱やノイズ、サイズと重量のバランスで製品が作られているように見える。
30Wは新定番
日常的に充電しなければならないデバイスとしては、スマホとPC、そして日によってモバイルバッテリがある。この3台が問題なく充電できれば何泊の出張でも平気だ。長期出張時は、複数台のスマホ、PCを携行するのだが、そういうケースは一般的ではないだろう。
ACアダプタの出力ワット数は、電圧×電流で計算できる。電圧は充電される側のデバイスの要求によって制御されるが、その組み合わせは定格として製品に記載されている。たとえば「Anker Nano II」の30W版は、5V/3A、9V/3A、15V/2A、20V/1.5A という4種類の電圧に対応していて、15Vと20Vで30Wを出力できるようになっている。電流は随時変動する。
一方、「Anker PowerPort III Nano(20W)」は5V/3Aと9V/2.22Aの対応で、9V時のみ20W出力となっている。18Wや20W出力のアダプタは、ほとんどの場合9Vまでの対応だ。
少なくとも手元で使っているデバイスを見る限り、スマホとモバイルバッテリは9V、PCが20Vまでの対応だ。ACアダプタは大は小を兼ねるので、スマホに出力の大きなアダプタを使っても問題ない。また、以前のPCはアダプタの出力が小さい場合、充電を拒むようなことが多かったが、最近では、小さな出力のアダプタでも充電できるようになっているのがトレンドだ。
ワット数は値が大きいほど出力が大きくわかりやすい指標だ。ただし、充電される側が受け入れることのできる電力は仕様によって異なる。ワット数の大きなアダプタですべてのデバイスをまかなうのは1つの手だが、手持ちのデバイスがそれぞれ受け入れることのできる電力を把握しないとオーバースペックになってしまい、重量やサイズが嵩むことになる。
一般的なノートPCの稼働時、仮に最大で65W程度の電力を消費するとしても、通常の稼働時には30W程度の電力を供給できれば十分ということも多い。もし足りなければ本体バッテリを消費することでつじつまをあわせる。もちろんその場合は、ACアダプタから電力を供給しているのにバッテリが減るということが起こるが、それが常時続くわけではない。当然、PCがスリープ状態やシャットダウンされた状態にあれば、時間はかかるかもしれないが満充電に導かれる。PC側は、本体内蔵のバッテリに充電が必要ない場合は、外部から供給されている電力だけを使う。
つまり、30Wのアダプタが1つあれば、たいていの用途には事足りるということになる。スマホだけならオーバースペックだがし、もちろん45Wならより安心で、60W超ならもっと心強い。とにかくでかけるときの装備を極限までコンパクトにして、オールマイティに近い装備を得たいなら30Wのアダプタというのは狙い目だ。まさに新定番といえそうだ。
さすがに20W出力ではPCの電力消費に追いつかなくて、バッテリ消費に対して焼け石に水的な可能性がある。18W出力アダプタは、電力、そして20Vをサポートすることがまずないことを考えると、オールマイティをかなえるためには30Wアダプタがよさそうだ。少なくとも、手元の第11世代Core搭載のモバイルノートPCに、30Wアダプタを接続して、ZoomやTeamsなどのオンラインミーティングを続けていても、バッテリの消費は多少進行するもののさほどでもない。YouTubeやNetflixでフルスクリーンで動画を楽しむくらいならむしろバッテリはゆっくりではあるが充電されていく。
ないものは作る
ここまでアダプタが小型化されると、複数のアダプタを併用する使い方も現実的になってくる。実際、30gの「Anker PowerPort III Nano(18W)」を3つ入手し、それを並べた3連アダプタはこの3年くらいの間の出張時に役立ってきた。
T-TR05-2300WHに並べて装着できるのでコンパクトにまとまる。総重量は156gだ。このタップのいいのは、アダプタを装着した状態で壁のコンセントに差し込んだとき、ケーブルプラグを装着するポートの口が下を向くことだ。意図せずケーブルが抜けてしまう可能性が低減できるし見た目もスッキリする。
冒頭の写真はタップにアダプタを装着(18W×2と30W)したもので、傍らに65W版(左)、45W版(右)、18W版(手前)を置いてみた。写真だけ見るとほとんどサイズ感が変わらないように見えるが、65W版は微妙に幅があって隣と干渉し、3連タップに並べて装着することはできなかった。
18Wアダプタをすべて「Anker Nano II」の30W版に置き換えれば無敵になるはずだが、一個あたり17gの重量差はさすがにインパクトが大きいので、一個だけを30Wアダプタに置き換えることにした。合計173gで18W+18W+30Wの3連アダプタのできあがりだ。156gが173gになったが、今のところ3連のUSB PDアダプタは既製品に見当たらないのでこれでよしとする。本当はもっと軽い3連タップがあればと思う。もっとも毎日の日常的な持ち歩きには45Wアダプタが1つあれば事が足りる。出先での充電は急速であることが求められる一方で、複数のポートが必要になることはまれだからだ。
よりスマートな仕様の複数連アダプタが登場するのも時間の問題だとは思うが、現在は、複数ポートでの電力分配がややこしい。現時点では既存製品を組み合わせて、望み通りの環境を作るのは悪くない解決方法だ。コロナ禍で、外出頻度が激減している昨今だが、このガジェットが役にたつ日が1日でも早くきますように。
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