実績を金で買う悪徳研究者による「ゴミ論文」が大量に生産されているという指摘

GIGAZINE
2022年05月01日 21時00分
メモ



「学術誌に論文が掲載される」ことだけを目的とし、あやふやな内容の論文を提出したり、悪意をもって論文間でデータを使い回したりといった悪質な行為が一部研究者の間で行われていることが昨今明らかになっています。これに類する行為として、校正段階にある論文に共著者として名を連ねる権利が有料で販売されているという実態も報告されています。このことについて、多くの製薬会社で活躍した有機化学者のデレク・ロウ氏が論じています。

More Fakery | Science | AAAS
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校正段階にある論文の共著者連名権を金で買うという行為は2013年にすでに確認されており、ロウ氏も当時この問題について論じています。この行為は中国から発生し、すでに何百何千もの事例が確認されているとのこと。今回、ロウ氏はロシアの事例を挙げ、この問題について考察しています。

学術誌に掲載された論文の撤回を報告・分析するRetraction Watchによると、中国で見られたような行為は他の国でも行われており、ロシアでは出版社であるInternational Publisher LLCで特筆すべき事例が見られたとのこと。2019年以来、International Publisher LLCが自社運営のサイトの中で、まもなく出版される科学論文の著者枠を公然と販売し、広告として掲載していることが確認されています。ロウ氏は「これは特に図々しいもので、基本的には著者の公募枠の広告を掲載し、顧客に対し、掲載したい著者リストの場所と論文が掲載される予定の雑誌の質によって料金が異なることを示しています」と指摘。著者枠は主に数百ドル(数万円)から5000ドル(約60万円)近くで販売されているそうです。

調査によると、2019年から2021年の間に出版された1009件の論文のうち、434件で広告枠への募集があった可能性が指摘されています。なお、そのうちのいくつかはほぼ同様の内容の論文が2回にわたって掲載された可能性もあるとのこと。推定では、この期間中に著者枠購入などの広告収入により600万ドル(約7億円)以上の利益がもたらされたとされています。


ロシアでは2012年、ウラジーミル・プーチン大統領による大統領令を受けて、学術文献データベースのWeb of Scienceに掲載される科学雑誌の総論文数のうち、ロシアの学者による論文の割合を2015年までに2.44%に到達させ、2020年までにロシアの大学が世界の主要大学トップ100に少なくとも5校ランクインするべきだという目標が掲げられました。

目標達成のため、大学の質を向上させる5-100プロジェクト(ロシア学術優秀校プロジェクト)が始まったほか、大学においては効果的な契約、昇進、あるいは経済的な利益を得るための新しい出版基準が導入されました。こうした施策によって、ロシアの研究者はこれまで以上に論文を執筆するようになりましたが、量だけを重視する方針は、質の低下を招くことになりました。

ロウ氏は「当局によるこの種の施策が、その後10年間の学術的展望を形作った」と指摘。論文をでっち上げる産業が形成され、目標を達成するために作られた「低品質なガラクタ論文」が学術誌に大量に出回る事態になったと述べています。

ロウ氏は「これらの偽造された著者の論文の一部は確かにひどいもので、論文の掲載先には人を食いものにする出版社も含まれます。しかし、上記からわかるように、ロシア当局などは本物の、評判の良い学術誌に掲載された論文を見たいと考えていたのは明らかです。当局の目算通りこれらの学術誌に多くの論文が掲載されるようになったものの、掲載されている論文の多くは質が低く、新たな調査ではエルゼビアやNature、ワイリー・ブラックウェル、T&F、OUPなど、主要な学術出版社すべてにそうした質の低い論文が掲載されていることが判明しています」

「これらの出版社はすべて、最新の『論文を掲載したい著者リスト』に対して警告を発しており、何らかの措置がとられることを強く望んでいます。実際、近年には論文が大量に撤回される事例が増加していますが、さらに多くの論文が撤回されるべきなのは明らかです」と指摘。

「しかし、この問題を調査したエリザベート・ビック氏の報告を読むと、撤回を実現するのがいかに難しいかが分かります。これらは偽著者の問題というより、古き良きデータの偽造の問題です。明らかな画像操作や重複の例を何度も目にしますが、論文編集者は警告を受けると著者に新しい図を提出させ、何事もなかったかのように物事を済ませてしまうのです。出版倫理監視団は、『この方法に問題はない』と言っていますが、違う方法でアプローチするべきなのは明らかです」と続けました。


ロウ氏は「うまくいかなかったり、仮説が破棄されたり、奇妙な変数によって再現が難しくなったりと、人は間違いを犯すものですが、これは正直者の過ちです。偽の雑誌、偽の論文、偽の著者リスト、偽のデータといった様々な組み合わせを排出し続けるのであれば、いずれ後悔することになるでしょう。2022年にどれだけの論文が撤回されるとしても、私はもっと多くの論文が撤回されるべきであると確信しています」と締めくくりました。

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