DPZがどういうサイトで何が目的なのか、前回ヒアリングさせてもらいました。今後、どこを伸ばしたいのかを確認しましたね。
はい。はげます会会員(有料会員)を増やすという話でしたよね。早速何をすればいいか教えてください!
前のめりですね(笑)。もちろん、目的が決まったので課題を見つけて解決策を打っていきますが、その前にやることがあります! それは、今自分たちのサイトがどうなっているのかを知っておくことです。
目標達成のための公式を理解しよう
井水:まず、はげます会の会員を増やすための公式を準備しましたので下の図を見てください。
簡単に書くと、それぞれ以下の通りです。
- 来る人がどれだけいるのか(訪問者数)
- 1人の人が何回来るのか(平均訪問回数)
- 1人の人が来たときに何ページ見ているのか(平均PV数)
- 目的のページはどれくらいクリック(遷移)されているのか(クリック率)
メディアサイトのCVは、4つの数値の掛け合わせで決まります。特に、クリック率(もしくは遷移率)が重要です。これによって、サイトに来てくれた人のうち、どのくらいの人がはげます会の案内ページを見たのかがわかります。
そして、はげます会の案内ページを見てくれる人を増やすには、公式の4つの数値のうちどれか1つを増やせば良いんです。
林:なるほど、掛け算なのでどれか1つ増やせば、はげます会の会員を増やせるんですね。
井水:そうですね。この4つの数値のどこを増やしていくべきか、Google アナリティクスで実際の数字を見てみましょう。
サイトに来ている人がどのくらいいるのかを知ろう
井水:今回は2021年5月1日~5月31日の期間で、サイト全体がどのくらい見られていたのかを確認しましょう。Google アナリティクスの「ユーザー>概要」で「ユーザーサマリー」を見ます。
ユーザー(訪問者数)が1,926,367。ユーザー当たりのセッション数(平均訪問回数)が1.67、ページ/セッション(平均PV数)が1.95です。まず訪問者数から詳しく見ていきましょう。
林:訪問者数を見るときに、何を見ればいいかわからないんですがポイントとかありますか?
井水:以下の3つがポイントです。
- どこから(流入元)
- 何で(デバイス)
- どんなニーズで(検索キーワード)
これらの視点で現状を知っていきましょう。
ユーザーがどこから来ているのかを知ろう
井水:まずは、ユーザーがどこから来ているのかを確認しましょう。DPZに来ている人は、検索、SNS、直接リンク、広告など、どこから来ている人が多いと思いますか?
林:うーん。検索だと思いますが……。普段Google アナリティクスを見ていないのがバレちゃいますね(笑)。
井水:むしろ、正解されると「わかってますね」で終わっちゃうので大丈夫です! それでは答え合わせをしましょう。5月のデータで「集客>すべてのトラフィック>チャネル」を見ます。
順位は以下でした。
- 1位 Organic Search(検索) 48.08%
- 2位 Direct(ダイレクト) 30.31%
- 3位 Social(ソーシャル) 16.49%
- 4位 Referral(リファラ) 5.08%
- 5位 Other(その他) 0.04%
林:半分近くが検索ですね。検索で来てるなーと思ってました(笑)。
井水:検索が多いとサイト全体のPV数などは比較的安定します。たくさん記事があるので、検索から来る人が増えて行って、安定的にPVを増やせるのが理想的ですね。2位のダイレクトは3割くらいですが、これはどこから来たかわからない指標です。
林:ダイレクトはやっぱり、どこから来たかわからないと捉えるべきなんですね?
井水:そうですね。URLを直接入力した人や、メール・アプリのリンクから来た人、ブックマークしている人などが含まれます。何らかのきっかけで知って、サイトに訪れてくれるわけですから、ダイレクトが増えるのは、良いことです。ただ、ダイレクトで来ている人たちには、施策を打ちにくいという面はあります。3位のソーシャルは中身も見てみましょう。
多いのは断トツでTwitterですね。そしてFacebook、はてなブックマークと続いています。Twitterはシェアが上手く回るようにしたり、投稿を工夫したりしているのかもしれませんが、もっと増やせる可能性あるので、探ってみたいですね。
林:5月はゴールデンウィークに、ふざけた短い記事の本数を増やすという企画をやっていて、それでユーザー数が増えたんだと思います。でもソーシャルの流入はあんまり関係ないみたいですね。5月13日、21日、27日とバズった記事が多い日に流入が多くなっています。記事の数を増やす作戦はソーシャルにあんまり効かなかったんだなぁ。
井水:記事本数を増やしたのにソーシャルの反応が伸びなかったんですね。「もうちょっと増やせると思った」のであれば、「なぜ増えなかったのか」の理由を探ることが大切です。
林:あー! なるほど!
井水:想像とギャップがあったのなら、そこが課題です! 「もっと何かできることがなかったのか」「なぜ、理想と異なるのか」を深掘りしていくのがポイントです。ソーシャルの場合はこのデータだけでなく、シェアの様子も実際に見るといいですね。
4位のリファラですが、これはリンクや、どこからか紹介されて来たかを示すものです。外部サイトからの流入が主なので、これに対して何かできることはあまりないんです。ただ、中を見て「ここからはいっぱい来ているけど、紹介のされ方が違うのかな?」とかは見ておくのはいいと思います。DPZだと検索とソーシャル、そしてダイレクトに含まれているであろうメルマガがポイントになると思います。
何のデバイスで見られているのかを知ろう
井水:どのデバイスで見られているのかも、サイトを改善するうえで重要です。DPZはパソコンとモバイル、どっちが多いと思いますか?
林:モバイルだと思います!
井水:最近はもうモバイルが主流ですよね。何割くらいだと思いますか?
林:7割くらいですかね。
井水:「ユーザー>モバイル>概要」から確認してみましょう。全体の約78%がモバイルでした。
林:うわあ。もっとだった。
井水:ただ、はげます会に入会している人はパソコンから見ている人の方が多いんです。
林&石川:おおー。
井水:理由はいろいろあると思うのですが、モバイルからのはげます会の案内がわかりづらい可能性もあります。あとは、直帰率はモバイルの方がパソコンより高い、ページセッションや平均セッション時間を見るとパソコンの方が数値が良いというのもわかりますね。
この点は当初のターゲットイメージと合っているので、パソコンで見ている方にはげます会への誘導をもっと促す施策を考えたいところですね。
どんなキーワードで検索して来ているのかを知ろう
井水:「検索」から来ている人が一番多かったので、どんな検索ワードで来ているかを見てみましょう。これはGoogle アナリティクスでは見られません。Google Search Console(グーグルサーチコンソール)で見るんですが、ここで質問です。ユーザーはどんなキーワードで検索して来ていると思いますか?
林:1回見たことがあるので答えられると思います! 「足の小指 骨折」がすごく多いんじゃないですかね。
一同:wwwwww
林:あとはライター名ですかね。「平坂」とか。
石川:魚の名前も多いですよね。
井水:では実際に見てみましょう。一番多いのは「デイリーポータル」でした。次に「DPZ」「デイリーポータルZ」が続いています。指名検索が多いということは、ファンが多いサイトなんだなという第一印象です。
林:そっかあ。検索ワードで「デイリーポータル」が多いのは何となく見ていましたけど、「ファンが多い」と解釈できるんですね(嬉しそう)。
井水:次の検索キーワードを見てみましょう。「へびいちご」ですね。
林:「へびいちご」?
井水:なんと検索順位1.3位!
林:すごい。
石川:いちご狩りシーズンなんですかね?
井水:よくわからないので実際の検索結果を見てみましょう(笑)。DPZさんの検索キーワード見てるとおもしろすぎて、「何のサイト見てるんだっけ?」ってなっちゃうんですよねw
一同:wwwww
井水:この「ヘビイチゴを食べてみる」という記事ですね
林:ああ、ヘビイチゴ食べてますねぇ。
井水:2017年の記事ですね。この記事が、直近3か月の間で検索されて1万回以上クリックされてますね。すごいですね。こういう固有名詞で検索上位に上がる記事が多いと流入数が増えます。「へびいちご」の下の「オロポ」もそうですね。検索順位1位でクリック率も41.2%と高いです。(オロポって何だ……)
林:検索クリック率は、検索結果一覧からクリックした人の率ですか?
井水:あくまでGoogleの検索エンジンの中でですが、検索されて表示された回数と、クリックされた数でクリック率が決まります。あとは掲載順位が何位だったかもわかります。さっき言っていた「平坂寛」さんが9位に出てきました。
林:人気のライターなんです。
井水:表示回数もクリック率も良いですね。たとえば、平坂さんが「はげます会に入ってください」とお願いをしたら、ある程度入ってくれる人いるんじゃないかと考えてしまいますね。
林:すぐやろう(即決)。
井水:さて、検索結果のパフォーマンスで見るべきものは他にもあります。「表示されていてもあまりクリックされていない」ものを探してみましょう。表示回数が多い順に並べ替えてみます。たとえば「ビリヤニ」を見てみましょう。
井水:表示回数は129,238回と多いですが、クリック回数は1,811回、クリック率は1.4%、掲載順位は8.1位です。掲載順位が上がれば「へびいちご」に匹敵する記事になりそうですね。表示回数が多いということは、記事がおもしろいだけではなく、ユーザーの悩みを解決する内容が何かしら入っているということです。役に立っていることがあるはずなんです。
林:そういう視点はなかったなあ……。
井水:なかったんですね(笑)。おもしろい記事をたくさん書いているなかでも、「実は意外と世の中の役に立っているじゃん。もうちょっと役に立ってみよう」という視点で記事を作ると、検索順位が上がるかもしれません。
林:「役に立つ」という視点は大事なんですが、ありきたりになっちゃうので抵抗があるんです。ただ、「栓抜き 代用」って調べる人がこんなにいると思うと、役立つ記事を書きたいですね(笑)。
「平均訪問回数」を分析してみよう
井水:次に、平均訪問回数を分析してみます。ポイントは3つです。
- 新規とリピート
- 1ユーザーあたりの訪問回数
- リピートの間隔
まずサイトには新規の人とリピーターの人がいるので、これを把握しましょう。「ユーザー行動>新規顧客とリピーター」から確認できます。新規が81%ですね。ただ、直帰率やページセッション、平均セッション時間を見るとリピーターの方がサイトを読んでいますよね。
林:めちゃめちゃ読んでくれてますね。4分もいてくれるんだ……。
井水:データを見るほどDPZさん好きな人が多いんだなあと感じますね。はげます会の入会を見てもそうですね。リピーターの方が多いです。
石川:むしろ新規なのに、はげます会に入会完了している人が4人もいるんですか?
井水:「新規」の定義が関係しているんです。たとえば、私が普段スマホでDPZを見ているけれど、「はげます会入りたいな」と思ってPCから初めて見たらこれは新規の扱いになります。ブラウザもそうですね。普段Safariを使っているけど、初めてGoogle Chromeで見たらこれも新規にカウントされることがあります。
石川:なるほど。
井水:5月は新規が4人いましたが、ほかの月もみたところはげます会の申込みはほとんどがリピーターでしたので、新規の方をリピーターにする施策も考えていきたいですね。また、リピーターの人たちがどのくらい来ているのかを見てみましょう。「ユーザー>行動>リピートの回数や間隔」から確認します。
井水:新規が多いので1回の人が一番多くて、どんどん下がっていくのは予想通りですが……。51回以上訪問されているセッションから10万を超えて特に201回以上のところ42万ってすごいですね!
林:これは1か月の間ですか?
井水:そうです。このひと月に訪れた方のこれまでのセッション(リピート)回数です。
井水:またリピートする人がどれくらいの間隔(日数)でリピートしているかを「セッションの間隔(日数)」でみてみましょう。
井水:初回訪問も含みますが、※リピートしているセッションが250万を超えてますね! めちゃくちゃ見られていますね。
林:見過ぎですねこれ(笑)。
井水:こういった数値からも新着記事を毎日心待ちにし、何年も記事を読み続けている人がいるだろうなというのが伺えますね。
林:それを聞いて申し訳ない気持ちになるのは何ででしょうね(笑)。「なんか悪いなあ」という気分になる。
一同:wwwww
井水:最後にもう1つCVに至ったユーザー、つまりはげます会に申し込んだユーザーに限定したリピート回数をセグメントという機能で見ることができるので確認しておきましょう。
これを見るとボリュームゾーンが51回以上〜にできているので、会員に申し込んでもらうためにはリピート回数が重要という点も確認できました。
「平均PV数」を分析してみよう
井水:リピーターが増えるともちろんセッション数やPV数が上がっていきます。そこで、平均PV数を分析するポイントを紹介します。これも2点です。
- よく見られている記事
- 離脱率・直帰率
まずはよく読まれている記事を見てみましょう。「行動>サイトコンテンツ>すべてのページ」を開きます。そのままだとURLが表示されているだけでわかりにくいので、「ページタイトル」をクリックして表示を切り替えます。
トップページが1番ですね。本当にDPZの新着記事を求めている人が多いんですね。
林:ああー。丸亀製麺とかミョウガエールの記事が入ってる。
井水:これを見ると、人気なのは納得できる記事が多いですか?
林:そうですね。8位のミョウガエールはジンジャエール的なものを作って成功した記事なので、情報がある記事です。2位の丸亀製麺も広報の人が協力してくれて割と情報が入っています。7位のビッグマックの記事はタイトルで「えっ! ビッグマックなくなるの!?」と思った人が多かったのかもしれませんが、編集部の人が年取ってビッグマックを食えなくなったというエッセイみたいな記事です。このPVが多いのは心が痛みますね。
井水:なるほど(笑)。さて、先ほど説明した通り、見るべきポイントの2つ目は離脱率と直帰率です。記事を読んだ後にすぐサイトから去ったのか、他の記事も読んだのかがわかる指標が直帰率です。たとえば、3位の丸亀製麺の記事は直帰率92%なので、10人来たら9人以上が帰っています。でも、4位のラーメンの記事は56%なので、2人に1人くらいは他の記事を読んでいます。
林:あ。4位のラーメンの記事、ページ分割して表示するようにしています。直帰率が低いのはそのせいでしょうか?
井水:いわゆるページネーションですね。5位の第二海堡もページネーションしていますか?
林:しています。
井水:ページネーションすると直帰率が低くなる傾向があるので、「あれ? ここの直帰率だけすごく低いな」と思ったら確認をおすすめします。
井水:メディアサイトだと直帰率85%は普通なんですが、70%台だと数値は良い方ですね。また記事別に見たときに「何%くらいにするとよいですか?」という質問をよく受けますが、正解はありません。
考え方としては、直帰率や離脱率の悪い記事を良い記事の数値に近づけるということです。
そのために直帰率の低い記事の特徴を探して、直帰率の悪い記事に反映できそうなことは随時反映させていくことで全体の数値がよくなっていきます。
クリック率を分析しよう
井水:最後、クリック率を分析するうえでのポイントは「クリックされたページや場所です。はげます会へのリンクがどれだけクリックされたのか、どの記事からの流入が多いのかが分析するポイントです。
ただし、特定のボタンがクリックされたかをデータとして取得するにはGoogle アナリティクスで「イベント」という設定を行う必要があるので、イベントが設定されていなければページ遷移率で見ていくこともできます。
びっくりしたのですが、すでにいくつかのイベントがしっかり設定されていました!「ちゃんと分析している人たちがしている設定だー!」と思いました(笑)。
「行動>イベント>上位のイベント」から確認します。
石川:これはですね……。作るだけ作ったパターンですね。
井水:素晴らしいです!
石川:タグマネージャーを設置するときに、こういうの作ったら便利かなーと思って練習がてら作ったやつですね。で、作って終わりという。
井水:今日のために作ってあったということにしましょう(笑)。今回関係ありそうなのは「hagemasukaiGoannnai」ですね。クリックしてみましょう。
これはどこのボタンをクリックしたかですかね?
石川:そうですね。これはリンクの文字を単純に入れているだけだったと思います。
井水:えっ。ページ内にこんなにたくさんあるんですか。
林&石川:(笑)
石川:[ST_BT]ってなんだ……下のほうにもあるな。
井水:ここは設定したときにラベル名のルールを覚えておかないと分析がとても手間取ります(笑)! ただ現状でもわかることとしては、はげます会ページへのリンクは特定のボタンに集中しているということですね。
どういうところから「ごあんない」ページに誘導できているのかがわかれば、特定の記事からの流入が多かった場合、内容が良いのか、その記事だけリンクボタンの場所が違うのかとか、他のページと何が違うのかを比較することによって、他の記事にも当てはめられます。
林:生存に適したものだけを広げていくんですね。進化論みたい。
井水:そうですね(笑)。ここまで、「はげます会のページに行った人」について話をしました。申し込んでもらうには、入会するまでのフローの見直しも必要になります。次回は、フローの話をしましょう!
今回のポイントと解説
今回は、「はげます会の会員数を増やす」という目的のためには何が必要かという公式を理解することからはじめました。会員数を増やすには、まず案内ページを見る人を増やす必要があります。
【公式】
訪問者数×平均訪問回数×平均PV数×クリック率=はげます会の案内ページを見る人の数
はげます会の案内ページを見る人は、訪問者数・平均訪問回数・平均PV数・クリック率のどれか1つでも改善できれば増えます。
ここで重要なのが、詳細な分析や具体的な施策を考える前に、まず自分のサイトがどういう状態なのか、現状を確認することです。
そこで、今回はGoogle アナリティクスやGoogle Search Consoleを使って、サイトの現状がどうなっているのかをデータで見て、現在地を確認しました。
多くの場合はリソースが限られているので、すべての項目を詳細に分析して、数多く施策を実施することは難しいでしょう。そのために現状の確認をしながら分析の深掘りをしたほうが良さそうな箇所や、改善してインパクトが出そうな箇所もイメージしておきます。
次回は、「はげます会への案内ページへ行った後、ユーザーがどんな動きをしているのか」を確認します。果たして、案内ページへ行ってから実際に会員に申し込んでくれた人はどのくらいいるのでしょうか?