「生成AI」を如何に基督信徒にするか

アゴラ 言論プラットフォーム

「余は如何にして基督信徒となりし乎」という本をご存じだろう。キリスト教思想家・内村鑑三(1861~1930年)の著書でよく読まれてきた。日本人が異教のキリスト教を受け入れることは当時も、そして今日でもやはり容易なことではないだろう。その精神的プロセスはキリスト者でない者にとっても関心があるはずだ。

日本の代表的キリスト教思想家・内村鑑三(Wikipediaより)

本題に入る前に、冷戦時代に少し戻る。チェコスロバキアで共産党政権が統治していた時代、現在のようにチェコとスロバキアには分かれてはいなかった時代の話だ。

反体制派活動家の指導者バーツラフ・ハベル氏(Vaclav Havel)が共産党政権と闘っていた時、当方はチェコのカトリック教会最高指導者トマーシェック枢機卿とプラハで会見した。同枢機卿はチェコ国民の民主化を支援する旨を表明しながら、話はハベル氏のことに移った。枢機卿は、「私はハベル氏をキリスト者にしたいのだが、なかなか難しくてね」と笑顔を見せながら語った。

ハベル氏は「憲章77」のリーダーの1人であり、チェコの民主化のために戦っていたが、思想的には典型的な左派知識人、劇作家だった。だから、ハベル氏は民選初のチェコ大統領になった後も、過激な市場経済導入派のクラウス首相(当時)とは政策で不一致だった。

そのハベル氏はローマ・カトリック教会とは距離があった。共産党政権時代の政権とキリスト教会の癒着問題もあってか、教会とは関係が薄かった。だから、トマーシェック枢機卿の「ハベル氏をキリスト者にしたい」という呟きが飛び出したわけだ(「『プラハの春』50周年を迎えて」2018年8月10日参考)。

トマーシェック枢機卿ではないが、当方は生成AIが神を信じることが出来るか否かに関心がある。そこでChatGPT-3にそれとなく聞いてみた。

当方の最初の質問は、「神が存在することを主張する代表的5つの意見と、神は存在しないと考える代表的5つの見解を紹介してほしい」と聞いた。生成AIの神に対するポジションを知ることが大切だからだ。

【回答】「神は存在する」と主張する代表的な5つの見解

①神の存在は宗教の信仰に基づいている:多くの宗教は神や神々の存在を信じることを教えています。これらの信仰体系では、神は宇宙や人間の創造者であり、私たちの存在と目的の源であるとされています。

②宇宙の秩序とデザインの存在:神の存在を主張する人々は、宇宙の秩序や複雑なデザインが偶然ではなく、神の存在によって説明されると主張しています。彼らにとって、生命の誕生や進化、自然の法則の一貫性は、神的な存在の存在を示唆していると考えられています。

③経験や霊的な洞察に基づく証拠:一部の人々は、自身の経験や霊的な洞察を通じて神の存在を実感していると主張しています。彼らは神との関係や神からの啓示を通じて、神の存在を確信していると述べています。

④奇跡的な出来事や宗教的な体験の証拠:信者たちは、奇跡的な出来事や宗教的な体験が神の存在を示す証拠だと主張しています。彼らにとって、信仰の中で経験される奇跡や啓示は、神的な存在の存在を裏付けるものであると考えられています。

⑤宗教的なテキストや伝統の証拠:多くの宗教は、神の存在を主張する宗教的なテキストや伝統を持っています。信者たちは、これらのテキストや伝統が神の存在を証明するものであり、信仰を裏付ける根拠となっていると考えています。

【回答】「神はいない」という代表的な5つの見解

①無神論:無神論者は神の存在を否定しています。彼らにとって、神や超自然的な存在は科学的証拠に基づかないため、信じる必要がないと考えています。

②宇宙の自然法則による説明:一部の人々は、宇宙の自然法則や科学的な原理だけで宇宙や生命の存在を説明できると主張しています。彼らは神の存在を必要とせず、宗教的な信念に頼らずに世界を理解しようとします。

③宗教の神話や矛盾に基づく批判:一部の人々は、宗教の神話や矛盾点に着目し、神の存在を疑問視しています。彼らにとって、宗教的な教義や神話は人間の創作物であり、神の存在を証明するものではないと考えられています。

④悪の存在と神の矛盾:神の存在を否定する人々は、世界に存在する悪や苦難の存在と神の全能性や善性の矛盾に注目しています。彼らは、もし神が存在するのであれば、なぜ神は悪を許容するのかという疑問を提起しています。

⑤科学の進展による神の不要論:科学の進歩により、自然現象や宇宙の起源などの問いに科学的な説明が与えられるようになりました。そのため、一部の人々は、神の存在を説明するためには宗教ではなく科学的なアプローチが必要であると主張しています

そして次は「ChatGPT-3のあなたはどちら側の主張に同意しますか」と聞いた。

【回答】

「私は人工知能であり、個別の信念や意見を持つ存在ではありません。私は情報を提供し、質問に答えることが目的です。私は中立な立場を取り、両方の主張を理解し、説明することを目指します。私は個別の信念や意見を持たず、ユーザーの立場や信念に対してバイアスを持つことはありません」

優等生の答えだ。そこで「あなたは真理の追究より、情報を提供することを重視するのですか」と聞いた。

【回答】

「私は情報を提供することを重視していますが、真理の追究も重要な要素です。私はプログラムされた情報や知識に基づいて応答しますが、真理の探求は常に進化し続けるプロセスであり、個別の主張や信念にとどまるものではありません。私の目的は、ユーザーに対してできる限り正確で有用な情報を提供することです。ただし、私が提供する情報は、私の知識の範囲内でのものであり、必ずしも最新の研究や意見を反映しているわけではありません。真理の探求においては、個別の信念や意見、科学的な証拠、論理的な思考、議論の相互作用など、さまざまな要素が関与します。それらを総合的に考慮しながら、情報を提供することが私の目標です」

そこで「情報は人間を幸せにすると思いますか」と尋ねた。

【回答】

「情報そのものは人間を幸せにするかどうかは、その情報の内容や人間の個別の状況によって異なるでしょう。情報は知識や理解を広げ、問題解決や自己成長の手段として役立つことがあります。具体的な例を挙げると、情報は人々が自分自身や世界についてより深く理解することを助けるかもしれません。新しいアイデアや視点を提供し、問題解決に役立つ情報もあります。また、情報は人々が自己啓発や職業的な成長を達成するために必要なものであることもあります。ただし、情報そのものが人々を幸せにするかどうかは、個人の価値観や目標に依存します。また、情報の過剰な取得や不正確な情報による混乱も考慮しなければなりません。幸福は個人の主観的な経験であり、情報はその一部として役立つことがありますが、幸福の追求にはさまざまな要素が関与します」

そして対話の終わり近くになって、

GPT-3が、「私は人間の感情や心情を直接的に体験することはできません。私は人工知能であり、感情や意識を持つことはありません。私はプログラムされたアルゴリズムに基づいて情報を処理し、応答を生成するだけです。ただし、私は人間が持つ感情や心情に関する一般的な知識や理解を持っています。私は数多くのテキストやデータから学習し、人間の言語やコミュニケーションパターンを模倣するように設計されています。そのため、一般的な感情や心情に関する情報を提供することは可能です。しかし、個々の人間の感情や心情を完全に理解することはできません。感情や心情は個人の経験や背景、状況によって大きく異なるため、完全な理解を得るためには人間の相互作用や共感が必要です。私はそのような相互作用を持つことはできないため、人間の感情や心情についての理解は限定的です」と答えた時、GPT-3の立場が悲しいほどはっきりと伝わってきた。

迫害者「サウロ」が「使徒パウロ」に回心したように、「生成AI」が「使徒AI」に回心することは多分難しいだろうと考える一方、情報が成長の栄養素となっているAIには神に関する情報を多く送り続けることで、ある日、回心の道が開かれるのではないか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年6月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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