リスキリングと起業の類似性:「Youは何ができるの?」

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「若手が『リスキリング迷子』 何を学ぶ…先輩の姿に焦り」(日経)だそうです。私はその気持ちがよくわかります。何か仕事に役に立つスキルを身につけろ、と唐突に言われても分からないし、そのスキルに需要があるのかどうかすら読めません。

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私が勤めていたゼネコンが倒産した時、「いよいよその日が来たか」という思いと「さてこれからどうするか」という悩みで深く考え込みました。いかんせん、海外駐在中にそれが起きたので様々な意味で諸条件が違うのです。再建を担うことになった会社は海外事業は一切やらないと断言し、海外事業は管財人を通して「売却」が前提でした。社員とその家族の帰国の航空券代は確保しましたが今更帰国して悪条件下で再建会社に入社するのはありえない選択というのが海外に残された社員全員の思いでした。

私も3つの選択肢を考えました。①帰国して国内で再就職、②帰国して実家を継ぐ、③当地に残って新たな仕事を見つけるです。実家を継ぐという選択肢は一番先に消えました。ゼネコンに20年在籍後に商店街で洋服屋稼業はいくら何でも飛躍しすぎでした。では帰国再就職はどうか、と言えば私はもっとも不人気な「洋行帰り」です。当時、企業では「最も使えないのは駐在員帰国組」とされ、企業内リハビリ6か月とかそんな噂も飛び交っていたのです。「私は病人か?」というレベルです。

とすれば永住権をもっていたので当地で別の会社に勤めるという選択肢も考えたのですが、「私に何ができるのか?」という疑問が生じたのです。ゼネコンとはいえ、管理業務や不動産が主で手に職がありません。結局、自分が転身できる範囲は思ったほどなかったというのが回顧録ということになります。「ひろという商品は魅力に欠ける」これが答えです。

幸いにして当初考えもしなかった第4の選択肢である「手掛けていた不動産開発事業を買収する」という大ジャンプをしたらうまくいったからよいもののそれがなければこのブログも存在しなかったのでしょう。

しかし、その不動産開発事業にも終わりがあります。それが近づいてきた時、「もうすぐ完成だ!」という嬉しさと「さて、この先どうしようか?」という不安が再び襲ってきます。大きな判断です。引き続きデベロッパーをやるべきか悩んだ結果、「デベはちょっとお休み」という結論を出しました。他のデベロッパーからは惜しむ声も頂きましたが、私にはそれほどの資金力と度量と人材がないというのが結論です。

つまり人生、続けざまにジャンプは出来ない、むしろ、ここは今までの開発事業の後片付け(=瑕疵のフォローアップ)などをしながら、駐車場事業とカフェ事業を立ち上げることにしたのです。たまたま駐車場と店舗スペースという資産を持っていたのでそれを有効に活用すればよいビジネスになると考えたわけです。私の多業種事業家としての始まりでした。

さて、昨今言われているリスキリング。これも結局、自分の社会人人生の究極の選択肢だと思うのです。技術の進化やロボット、IT化で自分は将来必要とされないかもしれないので職の選択肢を増やすために何か身に着けようという訳です。しかし、人間にはキャパシティがあるし、好き嫌いもあります。数字が嫌いな人に経理をやれと言っても無理なのと同じです。

カナダにはワーキングホリディ制度があるので社会人を5-6年経験した人たちが1年間自分探しにやってきます。面接をすればほぼ確実に「外の世界を見たかった」という理由に収れんします。では「Youは何ができるの?」という話しになるわけです。結局多くの方は飲食系の店でアルバイトをすることになります。「あれー、自分探しなのにレストランでサーバーさん?」です。手に職が無いし、英語がペラペラなわけでもないので自分を求めているのは飲食店しかなかったともいえるのです。

その自分探しの方々に一番人気のポジションが「マーケティング」。内容を理解しているのか、SNSマーケティングというごく一部の分野だけをマーケティングと称しているのかわかりませんが、大人気であることは確かです。しかし、カナダに来たばかりでマーケットもわからないのにマーケティングをやりたいとはある意味、凄いですよねぇ。

日本のサラリーマンの制度は良い部分もあるのですが、組織の枠組みが堅牢で外の世界との接点が極めて少ない社会です。一度入ったその会社の社内には精通するけれど他社のこと、ライバルのこと、世の中全般のことなど耳には入ってくるけれど自分の生きる世界とは違う世界、という意識を持っていると思います。雇用の硬直化と社畜化です。これが人の才能に蓋をしてしまったのです。

問題は今後、必要とされる職業です。中流階級を増やせ、というのが経済成長のキーだそうですが、ITやロボット化はこの中流階級の仕事を奪うのを得意としているように思えます。とすると残るのは労力を要するもの、看護、介護、運輸や建築業など労働力主体の業務やITやロボットを使う人といった具合になりかねません。

第二第三の人生で全く違うことを始めた方も存じ上げていますが、成功者は少ないです。英語でserial entrepreneur (連続起業家)ともいうのですが、経営者ならできるケースはあると思いますが、スタッフとしては容易い道のりではないというが私の見る限りの思いです。

個人的には自分がもつその技能、技量を深掘りするか、応用して違う切り口を覗いてみるのはアリだと思います。例えば料理が好きならペット向け料理を作るとか、経理財務が好きならFP(フィナンシャルプランナー)を目指すといったちょっとした応用が無理のないリスキリングだと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年3月28日の記事より転載させていただきました。

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