【上皇ご夫妻も宿泊】奈良ホテル / 死ぬまでに1度は泊まった方が良い

ロケットニュース24

うぉぉぉおおおおおお! マジでやべぇぞ!!! この宿泊体験は、もはやある種の高等教育……!! 宿泊の前と後で、所属するヒエラルキーのランクが上がった気すらする。

開業から100年以上。皇族や各国のVIPが奈良県を訪れた際の利用率の高さはぶっちぎりな、宿泊業界のレジェンド。それが奈良ホテル。実は先日、本館に1泊してきたので、どんな感じかお伝えするぞ!

・いざいざ奈良

JR東海の「いざいざ奈良」。春日大社・高畑編のCMで、ラストに鈴木亮平さんが入っていく古風な建物。それが今回紹介する奈良ホテルだ。

私はこのキャンペーンのPRのためにJR東海の提供で宿泊させて頂いた。ちなみに奈良ホテルはJR西日本の子会社。


死ぬまでに1度は泊まりたい憧れの場所だという方も多いことだろう。特に年配の方。私などは生涯無縁だと思っていた

凄まじい知名度ゆえに今さら紹介など不要かもしれないが、簡単にホテルの歴史に触れておこう。


・歴史

開業は1909年。日露戦争に勝利したことで海外からの注目度が高まり、急増した旅行客を迎えるための政府の施策が切っ掛けとなって建てられた。

しかし開業からすぐに経営難に陥り、それまで運営していた大日本ホテル株式会社は撤退。以後は大日本帝国の鉄道院という機関の管轄に。

国営になったことで利益度外視の運営が可能になり、真に高い身分を有するVIPのための施設として栄華を極めていく奈良ホテル。

ぶっちゃけ皇室と国賓、そしてそれに準じる要人専用のようなものだ。実態としては迎賓館である。大正から昭和初期だったら、私のような低級庶民が泊まるなど不可能だったろう。

奈良ホテル館内には、これまでの歴史がつづられたパネルが展示されている。そこには歴代の著名な宿泊者についての記載があるが、これがヤバい。まず、それぞれの時代における天皇皇后両陛下の宿泊はデフォ

各国首相や大統領、王族も、来日して奈良に来たらここに泊まっている。その他の日本の皇族の利用も多い。私が宿泊した時には、佳子内親王殿下がお泊りになられた際の写真が最新のものだった。


つい先日、4年ぶりの地方への旅行で京都・奈良を訪れた上皇ご夫妻も奈良ホテルに宿泊されたもよう。ホテルのHPには全館休業のお知らせが掲載されていたが、セキュリティのため貸し切りだったのだろう。現役でジャパニーズロイヤル御用達

外国の国家元首や王侯貴族ではない宿泊者も凄い。第二次世界大戦の前はバートランド・ラッセル(ノーベル文学賞、反核運動のシンボルにピースマークを選んだ人)、アインシュタイン、ヘレン・ケラー、チャップリンといった各界の偉人が宿泊。

戦後はオードリー・ヘップバーン、ユル・ブリンナー、アラン・ドロンといった、庶民に人気の大スターたちも利用している。

そんな彼らが宿泊したのはインペリアルスイート。見学させて頂いたが、映画に出てくる昔の貴族の屋敷みたいな感じだった。内部の写真の公開は禁止しているとのことで、扉だけ見せよう。


・当時のまま

単に開業が古く、ガチなセレブ達をもてなしてきたという経歴だけであれば、東京の帝国ホテルや京都の都ホテルも同様。しかし奈良ホテルは、建物が開業当時からほぼ変わっていないという唯一無二の強みを持っている……!

いや、正確には、開業時は各部屋の暖房が暖炉だったが、それを埋めて蒸気式のセントラルヒーティングシステムに変え、それが今では電動のエアコンになったり。あるいは、戦時中の金属類回収令で、館内の一部装飾が陶器になるといった変化はある。


安全のための耐震工事などもちゃんと済ませている。しかし多くの不可避な近代化改修は、外見に影響を与えないよう行ったそう。そのため多くの目に見える場所の資材や構造、デザインは、だいたい1909年の開業当時のままだという。


・泊まった

これが宿泊者だけが手にできる奈良ホテルの鍵。我々のグループ向けに一括で鍵が出てきたお陰で偶然見比べることができたが、色の薄いのが新館で濃いのが本館の鍵なもよう。


これが私が泊った本館の239号室の鍵。スタンダードツイン。


2階ということで、ロビー前の階段を昇り……


こんな感じの廊下を進んで到着。


これが扉。ドアノブの位置がやたらと低く見える。これはドアノブが低いのではなく、ドアが上に長い


中はこんな感じ。後で解説を聞いて知ったが、本館の部屋は全て間取りが微妙に違う仕様だそう。


ちなみに同じグレードでも新館の方が広くて近代的だ。本館の強みは、やはりいたるところで時代を感じられる点だろう。

天井がとても高い。


古い造りの上げ下げ窓。ガラスも、今のように平らに作ることができなかった時代の波打っているタイプ。


現在の窓と比べると気密性が低いため、小さい虫などの侵入を許してしまいそうだが、外側に目立たないよう近代的な窓が備え付けられて2重になっていた。

耐震性や火災探知機などといった安全面だけでなく、快適性に直結する部分も目立たないようにテコ入れしているようだ。


ベッドから見上げた天井はこんな感じ。随分と特徴のあるデザイン。


部屋の床面積そのものは、昨今のホテルと比べて特別広いわけではない。だが、圧倒的に天井が高いため解放感はダンチ!

100年以上の歴史を持ち、時代が時代であれば相当な身分でないと泊まれなかったであろう部屋でゴロゴロしていると思うと、それだけで謎の満足感がある


・創業当時からある部屋

後で一部の部屋は1970年(昭和45年)の改装でできたものだと気付いたので、その点にも触れておこう。

外観を眺めていた際に、屋根に気になる構造物があったのだ。外から見た感じ、明らかに何かがある


あれは何なのですか? とホテルの方に聞いたところ、詳しくはわからないと断りつつも、かつて存在した共同の浴場やトイレに関連する構造だったのではないか……というではないか。

アップでよく見ると、通気性を重視しまくった感がある構造。


実は建造当時の奈良ホテルは今よりも部屋数が少なく、風呂やトイレが共同だったのだそう。

そして本館の共同浴場とトイレは、1970年(昭和45年)に客室へと改造されたと公式HPの「奈良ホテルヒストリー」のページに書かれていた。

より具体的に知るべく「奈良ホテル 竣工時 図面」でググったところ、TOTO株式会社がPDFで図面を公開しているのを発見。


このファイルを見ると、私が気になった屋根の構造物の真下は1階も2階もほぼ共用のトイレと浴場で占められたエリアだったことが発覚。

現在この部分は、廊下の両サイドに広めな部屋がある構造となっている。恐らく「デラックス」系のグレードのどれかだと思われる。それらの部屋は1970年製と比較的新しいはずだ。

対して「スタンダード」系は、多くが創業当時からある部屋だと考えられる。公式HPにも “多くのお部屋に創業当時のマントルピース(暖炉)が設えられております” と書かれている。

とにかく古い部屋に泊まりたいという方はスタンダードを選ぶのが良いのかもしれない。


・散策

さてそれでは館内に戻り、散策していこう。まずは本館1階の「桜の間」だ。ラウンジみたいなスペースで、宿泊者は普通に好きに寛いでいい。


ここには、あのアインシュタインが弾いたピアノが置かれている。当時の写真があるが、かの天才が、まさにここに座ったようだ。


ピアノは長らく行方不明だったという。交通科学博物館で保管されていたことが明らかになり、2009年に奈良ホテルに戻ってきたそう。脚部に鉄道の動輪がデザインされているのが特徴とのこと。


驚くべきことにピアノはまだ現役で、コロナ前は定期的に演奏会を開いていたらしい。


「桜の間」の隣には「ザ・バー」。その名の通りバーがある。


私は深夜に人生初の奈良の鹿を見に行ったため利用する機会を逃してしまったのだが、満州国皇帝の愛新覚羅溥儀が1935年に宿泊した際に新調したグラスを、今でも使っているという。


さすが奈良ホテル。出てくるストーリーのスケールが半端ねぇ……! 今思えば鹿よりもバーを選ぶべきだった。

その他にも、1階の廊下にはこれまでのヒストリーが分かる展示品やパネルが多数。もはや博物館だ。


・朝食

こうして大いに館内を楽しみつつ1泊。朝食も素晴らしかったので紹介しよう。こちらが会場となるメインダイニングルーム「三笠」。


昔の各国のセレブや皇族らもここで食事をしたのかと聞くと、記録は無いが、恐らくそうだという。創業当時は宿泊者が全員VIPであり、当時はルームサービスという発想が無かったという。必然的にここで食べるわけだ。

ちなみに私が食べた朝食はこんな感じ。


ボリュームも凄いが、ウマさもガチだった。たぶんここ40年くらいで食べた朝食の中でトップ3に入ると思う。

ということで、奈良のレジェンド級宿泊施設「奈良ホテル」に1泊しての体験記は以上。常々思うが、単に値段が高くて豪華なホテルというのは、ぶっちゃけどこにでもある

豪華さが極まってくると、収斂(しゅうれん)進化のごとく、だいたいが似たようなものになりがちだ。そうなってくると、記憶への残り方としては、何か強いオリジナリティを持つサービスの有無や、ホテルそのものが持つストーリーの印象深さが重要になってくる。

その点、奈良ホテルは別格だと言って良いだろう。この建物と、そこに刻まれた歴史の厚みは圧倒的だ。床や階段の木材がきしむ音にすらもドラマを感じる。

スペシャルな場でスペシャルな時間を過ごしたという感覚の強さはぶっちぎりだ! 奈良にお越しの際は、思い切って泊まってみてはどうだろう。


参考リンク:いざいざ奈良奈良ホテルTOTO通信
執筆&写真:江川資具

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