オプト(Opte)は、パンデミック最盛期にP&Gベンチャーズ(P&G Ventures)からローンチされた「精密スキンケア」デバイスであり、スキンケアとメイクアップをインクジェットのような技術デバイスに統合するものだった。ブルームバーグが今月初めに報じたように、オプトは1月に静かに解体した。社歴3年だった。現在、数十台のスキンケアデバイスが存在しているが、オプトはクラリソニック(Clarisonic)と共に美容愛好家の引き出しの奥という墓場に眠ることになった。
オプトの終焉
P&Gのスポークスパーソンであるエリカ・ノーブル氏はオプトの終焉を確認した。同氏によると、その決断に関連したレイオフはないという。オプトは新製品や詰め替えの注文には対応していないが、ヘルプラインを通じて技術サポートと保証サポートを提供し続けている。
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ノーブル氏は次のように語った。「オプトはP&Gベンチャーズから運営されていたが、P&Gベンチャーズはスタートアップのように高速な学習サイクルで運営することを目的としている。ベンチャー企業というのは、満たされていない消費者のニーズを解決するために最大の影響を与えられるところを定期的に選択している。(害虫駆除ブランドの)ゼヴォ(Zevo)や(スキンケアブランドの)ボウドウェル(Bodewell)など現在市場に出回っているブランドが(P&Gベンチャーズの現時点の)フォーカスとなっている」。
オプトが2020年にローンチしたとき、599ドル(約8万円)のデバイスを購入するために2万人がウェイティングリストに載っていた。この機器は肌のシミを隠しかつ薄くすることを謳っており、ユーザーは顔色を整える化粧をしなくてよいというものだった。90日間分のセラムは129ドル(約1.7万円)だった。しかし、ローンチ関連の話題や2021年の製品レビューに関するいくつかの話題、2019年のCESでプロトタイプが登場したことなどを除いて、製品は注目や話題を維持することはできなかった。ソーシャルメディアアカウントを見てみると、オプトは3000人のFacebookフォロワーと3万人のインスタグラムフォロワーに向けての投稿を2022年1月に停止している。これは、実際に閉鎖する1年も前だ。詩人ディラン・トーマスの詩「穏やかな夜に身を任せるな」のごとく、オプトは延々とうめき声をあげながら終わりを迎えた。
クラリソニックの没落
一方、ロレアルが2020年、クラリソニックを終了したとき、衝撃はもっと大きかった。このニュースは、ニューヨーク・タイムズ紙、ニューヨーク誌、CNNをはじめとするメディアに取り上げられ、当時社歴19年だったクラリソニックが2000年代後半に美容業界に与えた影響が追跡された。その間、愛用者らは残りのブラシヘッドを特売セールで購入しようと殺到した。しかし、当時(事業停止のニュースは)業界にショックを与えたものの、同社の没落は予見されていた。2016年、ロレアルはクラリソニックで約2億6300万ドル(約350億円)の損失を被り、チームの120人が解雇され、期待された売上を達成していないことが示された。2010年に売上高が1億ドル(約133億円)を超え、2011年にロレアルによって買収されてからのクラリソニックの失墜は速かった。クラリソニックは、依然、美容コングロマリットに買収された唯一の独立フェイシャルデバイスブランドである。クラリソニックの例は、オプトと共に、美容デバイスについて、そしてその成功と失敗の理由についての教訓となるだろう。
ファンダメンタルズに「楽しさ」を加える
「(購入の障壁の)最初のものは常に価格であり、2番目のものは『これは必要だろうか、使うだろうか』ということだ」と述べているのは、ニューフェイス(NuFace)のCEO、ジェシカ・ハンソン氏だ。「(デバイスの場合)障壁への対応のハードルはほかの多くの美容製品とは異なる。 なぜなら、ラグジュアリー製品は価格が障壁になるかもしれないが、使われるかどうかは問題にならない。必ず使われるからだ。(そのような確実性を提供することは)どのようなデバイス企業にとっても根本的な課題のひとつである」。
ハンソン氏はインフォーメション・リソーシーズ社(Information Resources, Inc.)とNPDグループ(NPD Group)が設立したサーカナ(Circana) からのデータを引用し、ニューフェイスはプレミアム美容デバイスとツール分野で30%の市場シェアを持つと述べている。また、ニューフェイスはこれまでに500万台以上のデバイスを売り上げたと付け加える。Glossyの以前のレポートでは、ニューフェイスの2021年の年間小売売上高が1億5000万ドル(約200億円)を超えたと報告されている。ハンソン氏によると、2022年の卸売小売売上高は8%成長し、D2Ceコマースは「2桁」成長だったという。この継続的な成長は、デバイスを超えたブランドになること、信頼性と有効性を維持すること、ビジネス全面においてブランド戦略を絶えず進化させることの3点に起因するとハンソン氏は考えている。
一方、クラリソニックの共同創設者で、オピュラス・ビューティ・ラボ(Opulus Beauty Labs)の創業者兼CEOのロブ・アクリッジ博士は、数十年にわたるキャリアを通して、デバイスの成功に不可欠な特性を特定している。たとえば、デバイスは使う人が既に行っている習慣に無理なく取り入れられるものでなくてはならない。複数のステップを新たに実行しなければならないようなデバイスを作成することはできないとアクリッジ博士は言う。また、シンプルであり、科学や技術が多すぎてユーザーがたじろいだり混乱するものであってもいけない。とはいえ、付加価値と見なされるという点では見た目がハイテクである必要もある。さらに頻繁に使ってもらうためには、楽しくてやみつきになるようなものでなければならない。クラリソニックの衰退についての2020年のニューヨーク・タイムズ紙の記事では、冒頭にこのデバイスの常習性についての2009年のグラマー(Glamour)誌のレビューを取り上げていた。最後に、デバイスには効果がなければならず、同時に消費者は新しいイノベーションを受け入れる準備ができていなければならないという点がある。
アクリッジ博士は次のように述べている。「適切な(消費者)意識は10年前とはまったく異なるものに影響されている。(過去数十年間には)消費者に情報を提供する印刷広告、無料のプロモのための美容担当エディター、製品について語るセレブリティが存在していた。しかし、いまでは、(刹那的な)デジタルマガジン広告、デジタルメンション、ブロガー、デジタル広告主、インフルエンサーもいる。コミュニケーションチェーン全体が断片化している」。
アクリッジ博士は、自分が定義した重要な特性を2020年にローンチした2番目のプレステージ美容デバイス、オピュラスに統合しようと試みた。オピュラスは、Glossyの以前のレポートによると「使い捨てコーヒーポッドのネスプレッソ(Nespresso)とキューリグ(Keurig)のビジネスモデルを美容に」適用した機器だという。オピュラスは固体の「オポールス(opoules)」を溶かしてブレンドして1回分のクリームを作り、ユーザーはすぐにそれを顔につける。機器は完成したクリームの容器の役割も果たす。オピュラスは、自社D2C eコマースサイトのほか、サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)やニーマン・マーカス(Neiman Marcus)でも販売されている。この機器には同社のレチノールが1カ月分付いており、小売価格は395ドル(約5.3万円)。ほかのスキンケア製品には、165ドル(約2.2万円)の1カ月分のオーバーナイトマスク、7日間分で各105ドル(約1.4万円)の「グロウ」製品3点などがある。オピュラスは流通を担当している20カ所のスパでの販売機会も模索している。さらに、4月にはQVCでデビューした。アクリッジ博士からは具体的な収益は共有されなかったが、オピュラスは2021年から2022年の間に売上が倍増したと述べている。
「真に革新するにはリスクを負わなければならない。大企業はリスクを負いたくはない。失敗すると株価に影響があるからだ。また、取り組んでいる製品は究極なものでなければならない。つまり、色を変えたりするだけでは無意味だ。また、製品には常習性がなければならない。それがなければ、つまり愛されなければ、製品が使われることはないからだ」とアクリッジ博士は述べている。
回復力のあるビジネスの構築
オピュラスのビジネスは垂直統合されており、製造はワシントン州で行われている。アクリッジ博士はフルタイムの7人からなるチームを率いており、メンバーの多くは過去にクラリソニックやソニッケアー(Sonicare) オーラルケアで博士と共に働いた経験を持つ。2011年のロレアルによるクラリソニックの買収以前は、(クラリソニック)デバイスは米国内で600のアセンブラーにより製造されていた。のちに製造と組み立ては海外に移された。市場に同じようなものは存在していないオピュラスの独自性を考えると、知的財産管理を維持することは垂直統合の大きな利点である。メーカーレベルでのIPの盗難は蔓延している問題であり、美容機器は偽造者の主な標的になっている。しかし、企業によるIP盗用はなくとも、模倣した製品はしばしば製造されている。クラリソニックが終了する前には、オレイ(Olay)とクリニーク(Clinique)のソニックフェイスブラシデバイスが、195ドル(約2.6万円)のクラリソニック製品の何分の1という価格で入手できた。クリニークはもうそのブラシを販売していなようであるが、ブラシヘッドのリフィルは売られている。オレイの製品は元の27.49ドル(約3700円)から値引きされ、ウェブサイトで12.99ドル(約1700円)で入手できる。
このような製品によりクラリソニックの終焉が早まった可能性はあるが、非公開の金額でロレアルに売却されたのは、そのデバイスの独自性と、設計と技術の両方で40以上の特許があったからだったとアクリッジ博士は述べている。オピュラスは現在3つの特許を持っている。(米国の法律情報サイト)ジャスティア(Justia)の特許ページによると、米国ではニューフェイスは23件の特許を持っており、マイクロイクロカレントデバイスの同業者であるジップ(ZIIP)は4件。クレンジング機器のフォレオ(Foreo)のサイトには30件を超える特許が表示されているが、その大部分は発明や実用性ではなく、意匠特許に関するものである。
「(大規模な)企業はそのようなデバイスが本当に独自なものではないため、デバイスのブランドを積極的に買収しない。ある意味、デバイス企業は知的財産を保護している」とアクリッジ博士。「大企業がデバイス企業を買収するときにはリスクを負う。なぜなら、他社がもっと魅力的な別バージョンの製品を売り出す可能性があるからだ」
2022年にニューフェイスに入社したハンソン氏は、ロレアル所有下のクラリソニックに勤務していた経験がある。同氏の視点によると、デバイス企業の中には、デバイス会社としての基本的な前提を克服できずに、バランスのとれたブランドへの移行ができていないところもあるという。
ニューフェイスは2003年の創業以来、スキンケア製品を販売してきてはいるものの、スキンケアをコア製品として重視したのは2019年以降である。現在、スキンケアは売上の20%を占めている。ニューフェイスは、デバイスを超えて美容業界でのポジションを確立するために2022年に改革を行った。これには、パッケージとクリエイティブ広告の刷新、自社処方によるスキンケア製品の再構成などがあった。同社はまた、Bluetooth対応のインタラクティブなアプリも展開している。アプリ限定のトリートメントによりこれまで提供されていなかった異なる深さのマイクロカレントが可能になる。トリニティプラス(Trinity+)と呼ばれる最新デバイスには、マイクロカレントを25%多く供給する「ブースト」ボタンも付いている。だが、ニューフェイスのもっとも効果的な戦略はおそらく、ソーシャルメディアのインフルエンサーだろうと、デパートの買い物客だろうと、誰かにデバイスを使ってもらい、リフトした顔半分と通常の部分を比較して、即時の効果を実証することだろう。
話題性を維持する
企業が成長するためには、進化しなければならない。
アクリッジ博士はロレアルのもとでクラリソニックを6年間担当した際、大企業の運営方法を目撃する機会があった。博士はその知識をオピュラスの事業に取り入れて、消費者を新製品のローンチに関与させ続けて売上を促進している。ロレアルでは、製品の年間発売スケジュールは年に2〜3回の製品などの大型ローンチに依存していた。また、特別なキットや既存製品の異なるサイズなどの小規模なローンチも3回あった。これを新バージョンのデバイスで再現するのは事実上不可能である。しかし、オピュラスにはオポールスの新しいスキンケア製品に加えて、既存製品の再構成バージョンをローンチする予定がある。つまり、現在はロレアルのような(ローンチ)頻度に増加している。
「(このリズムでは)PRの話題性が維持される。だが、年に新しいデバイスを2回発売することはできない」とアクリッジ博士は語る。
一方、ニューフェイスは現在エステティシャンにフォーカスしたアンバサダープログラムを構築しており、デバイスの有効性を宣伝して、ほかの美容トリートメントや製品との相性が良いことをアピールしている。1200カ所を超えるスパでニューフェイスのデバイスは使われており、ハンソン氏はアンバサダープログラムには年末までに500人のエステティシャンが参加すると予想している。また、ニューフェイスは2022年9月のニューヨーク・ファッション・ウィークで複数のブランドと提携して、舞台裏でモデルや招待客にマイクロカレント・リフティングのセッションを提供した。ニューフェイスは2023年もこのマーケティング活動を継続するという。
だが、ハンソン氏は、患者が受けられる治療のレベルを高めて、医療機器のカテゴリーをさらに前進させられる機会があると考えている。その一例にはハイドラフェイシャル(Hydrafacial)パートナーシップがある。このパートナーシップでは、スパでニューフェイスのリフティングトリートメントを受けると、クレンジングと角質除去サービスが無料で受けられるようになる可能性がある。
「私の目標はニューフェイスを次のレベルに引き上げることだけではなく、(ニューフェイスが美容デバイス)カテゴリーのリーダーのようになることでもある。市場シェアを占めるだけではなく、(全体的な)市場を拡大することが重要だ」とハンソン氏は語った。
[原文:Beauty & Wellness Briefing: Why some beauty devices fail]
EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)