「花のある生活」って永遠の憧れだ。
仕事帰りに一本か二本、季節の花やら名前の分からないワイルドフラワー(南半球原産の力強く美しい花たちだ)やらを買って窓辺に飾りたいし、「これ似合うと思って」って誕生日でもなんでもない日にしゃれた花束を友達に贈ったりしたい。花屋の横を細い自転車で颯爽と通り抜けて鼻孔をくすぐる青く甘い香りに春の訪れを感じたりしたい!!
ところで、私の生活圏で一番身近な花売場といえば、スーパーだ。わくわく広場と名づけられたつくば産の野菜直売所にある、仏花コーナーである。
なんでおらが村には仏花しか売ってねえんだ
わくわく広場になじみがない方も、実家の近所にあるスーパーの生花コーナーを各々思い出してほしい。
しびれるような色合いの花束が、無造作にバケツに詰め込んで置かれているだけの簡素な花売場。あなたの瞼の裏に浮かんだのはこんな景色ではないだろうか。
花束には大概「仏花」とか、時には「和花」と記したラベルが貼られている。お墓やお仏壇にお供えする花々のことだ。
全国どこでも手に入り、比較的安価で、おそらく暮らしの中で最も身近な、素晴らしい花束であろう。どう飾ろうとしたって「仏壇の花」になってしまうという、ただひとつの致命的な問題を除けば。
もちろん仏花とされる花に罪はないとわかっている。野の花のような健気さを持つ小菊も、たくさん重なる花びらが凛として格好いい大きな一輪菊も、魅力的だと思う。
仏花をなんか…なんかいい感じにすることはできないのか……?!
そもそも仏花ってなんなのよ
ここはプロに聞くっきゃないと、お花屋さんの経歴を持つ、ライターのJUNERAYさんにお力添えをいただくこととなった。
3yk:まずは仏花ってなんぞやというところから、明らかにしていきたいのですが……
JUNERAY:いきなりコア(核心)の話からしていいでしょうか
3yk:ゴクリ。どうぞどうぞ…!
JUNERAY:まず、何を仏花とするかって、明確な根拠はないんですよ。
石川(担当編集):そうなんですか?!
JUNERAY:日本に昔からある花を和花と呼んで、仏花として使うことも多いですが、最近の仏花は明らかに日本産じゃない花も入ってますしね。ぶっちゃけ「とても長持ちする花だから」くらいだと思います。長持ち具合でいうと菊はぶっちぎりです。
3yk:スーパーの花屋さんも「慣習ですかね~」というぐらいのふんわりした認識でした…
3yk:お寺が出版している仏花の本も読んだのですが、お寺の仏花はかなり自由な印象でした!
JUNERAY:お寺こそなんでもありですよね!このままホテルのロビーにおいても似合いそう。
JUNERAY:菊は日本の花というイメージがあるけれど、私が花屋で働いていたときの菊は7割ベトナム産でしたね。
3yk:ベトナム!意外だなあ。
JUNERAY:アメリカだと菊の学名「マム」にかけて母の日のプレゼントとしてとても人気なんですよ。
石川:日本で母の日に菊をあげたら怒られちゃいそうですね
3yk:外国籍の人が多いエリアのスーパーの店員さんに聞いてみたら、仏花を中国やアジア圏の人が贈り物として買っていくことも多いと話していました。
石川:そもそも仏花っていう文化を知らないから気にならないんだ。
3yk:店員さんいわく、「亡くなった人にお供えする用のお花ですけど大丈夫ですか」と一応声をかけるんですが、大体の人は「かわいいからいいのよ!」とそのまま購入するんだそうです。
JUNERAY:もうお供え用ですって言わなくてもいいよね。かわいいと思って選んだんだから!仏花を仏花たらしめているのは、我々花屋たちなのかもしれない。
仏花が仏花に見えてしまうワケ
3yk:とはいえ、仏花として売られている花をただ花瓶に生けるだけだとやっぱり仏壇感があって。このズドーンていう縦長の感じが、いわゆるブーケとかアレンジメントとはちがいますよね。
先述した東本願寺の本では、花瓶から出ている部分が花瓶の2~3倍ぐらいの長さになるのが目安だという。
JUNERAY:お花を飾る場所とのバランスですよね。お墓やお仏壇が縦長だからバランスをとろうとしてこの形になったんでしょうね。
JUNERAY:あとは、仏花が仏花らしく見えてしまうのは色にも原因があると思います。
JUNERAY:色のイメージってどうしても引っ張られてしまうので、仏花はそのままのセットでは使わずに、花ごとに分けてみるといいかもしれませんね