映画業界ってどうやって入り込めば良いんでしょう?
私は子どもの頃からハリウッドに憧れていました。アーノルド・シュワルツェネッガーに本気の恋をしていたから、とにかくハリウッドの映画に関係できる仕事がしたかったんですよね。
でも、どうすれば良いかわからなかったので、思いつくことは全部やりました。映画学校に通ったり、脚本を書いて現地で知り合ったプロデューサーに持ち込んだり、エキストラ出演したり、撮影現場に入り込んでアシスタントにしてほしいと売り込んだり……。
うまくいきかけたこともあれば、通用しなかったこともありました。ただ、業界に入りたくて必死な人を温かい目で見てくれる環境があるとは感じていました。
その理由は、映画『バビロン』を観れば何となくわかるかも。『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼル最新作『バビロン』は、そんな映画業界にどうにか潜り込みたくて必死だった人たちのお話なんですよ。
あ、ネタバレ注意です。
映画業界に入るためならゾウのウンコもかぶる
1920年代から30年代にかけてのハリウッドの狂騒を描いた映画『バビロン』。『ラ・ラ・ランド』や『ファーストマン』のデミアン・チャゼル監督が、15年間温めていた企画なんです。
物語は、見渡す限り砂漠のロサンゼルスから始まります。LAは、年間降雨量が極めて低くて気候が安定しているから映画撮影に最適という理由で開発が進んで行った場所。『バビロン』の時代は、これからLAが発展していこうって段階だったので、まだまだ砂漠だらけでした。
ちょっと話が逸れました。砂漠に佇む男性は、メキシコにルーツを持つマニー・トレス(演:ディエゴ・カルバ)。その夜に行なわれるハリウッド俳優らのパーティのフィナーレを飾るゾウの配達を頼まれていました。
ゾウの世話役として豪華絢爛なパーティに潜り込むマニーは、どうにかして映画界の大物らと繋がりたくて目をギラギラ。ゾウの運搬途中で盛大にウンコを被っても心は全くめげていません。
カオスが繰り広げられるパーティの中、大物俳優ジャック・コンラッド(演:ブラッド・ピット)の周りをウロウロしていると、運良くチャンスが舞い込んできて映画業界に出入りできるようになりました。それ以来、与えられたチャンスは全部いかす。どんな無茶振りだろうと、とにかく体当たりしてのし上がっていきます。
映画界は人を探している。とにかく懐に入り込むべし
マニーが業界に入りたくてゾウのウンコを被った日、未来のスターを夢見るネリー・ラロイ(演:マーゴット・ロビー)も、どうにか業界人の目にとまりたくてパーティに忍び込もうとしていました。彼女には天性のカリスマ性があり、それを本人が自覚していました。自分の存在を見てもらえたら、必ずやスターになれる日が来ると信じていました。
そのパーティではちょっとしたアクシデントがあり、次の日の撮影に欠員が出てしまいます。そこでパーティ会場で踊っていたネリーに白羽の矢が立ち、急遽代役を言い渡されるのです。
地元では鼻つまみ者ですが、映画界ではそんなとんがった部分が重宝され、才能を見出されてスターになっていきます。
ラッキーで業界入りするのは映画中の話だけじゃない
マニーもネリーもうまいこと映画業界に入っていきますが、こういうのは映画だから都合よく書かれているわけではないと思います。
たとえば、映画監督として有名なスティーブン・スピルバーグは、学生時代に家族で訪れたユニバーサルスタジオのツアーでスタジオ幹部と知り合いになり、3日間のスタジオパスを貰いました。そのパスを最大限活用して3日間通い、関係者としっかり顔見知りになってその後も出入りできるようになりました。
また、ネリーがパーティで急に役をもらえたのも、現実であり得ないことではないんです。2006年の大ヒット映画『プラダを着た悪魔』では、ファッションショーのモデル役が足りなくて、アシスタント・ディレクターが犬の散歩をしていた元モデルの女性を見つけて、スカウトしてきました。いきなり「メリル・ストリープの映画に出ない?」なんて声をかけられてすんなり信じるのは難しいですよね。
私がとあるハリウッド映画のエキストラ撮影に参加したときにも、大人数の中から比較的目立った人たちが集められてカメラに映る場所に移動させられるのを見ました。
日本でも、映画のエキストラに参加していた鈴鹿央士さんを、広瀬すずさんがスカウトしたという話があって話題になりましたよね。
入れても生き残るのは大変
運良く入ることはできても生き残るのが大変なハリウッド。『バビロン』では、サイレント映画で一世を風靡したスターたちが、トーキー映画の波に乗れずに時代から取り残されていく様子も描かれています。実際同じような事は多少の差はあれど何度も繰り返されているんです。
例えば『ジュラシック・パーク』では、恐竜の撮影がそれまでのスタンダードだったストップモーション・アニメーションから、CGに変わりました。そのため、作品に参加していたストップモーション・アニメーターの仕事が激減し、スティーブン・スピルバーグに対して「絶滅した気分だ」と口にし、それがそのまま映画のセリフとして採用されたことはあまりにも有名です。
『バビロン』はとにかく派手で、豪華で、ジェットコースターに乗っているような錯覚を覚える作品です。でも、劇場を後にする頃には、その狂乱が決して遠い世界の話ではなく、意外にも自分の人生にもあるのだと感じさせてくれると思いますよ。
映画『バビロン』は全国の映画館で絶賛上映中です。
Source: 映画『バビロン』公式サイト