生成AIって環境に悪いの? 専門家がChatGPTのカーボンフットプリントを解説

GIZMODO

最新技術と環境問題は、切っても切れない関係。

仮想通貨のマイニングはコンピューターを酷使するので、膨大な電気喰いであることから、環境への影響を指摘されてきました。今、生成AIも同じ問題が指摘されています。答えを出力するサーバーを動かすためには、膨大な量の電力を必要としているのです。

世界中の仕事に大きな影響を与えるという生成AI、環境への影響はどれほどなのでしょうか?

以下、ボストン大学のコンピュータ科学アシスタント教授のKate Saenko氏が生成AIと環境について解説しているThe Conversationへの寄稿文(CCライセンス)を翻訳しました。


話題の「生成AI」をおさらい

生成(ジェネレーティブ)AIとは、チャットbotや画像ジェネレーターの裏にある、今話題の最新技術のことです。ホットな話題ですが、“ホット”なのは地球にとっても同じ。

ジェネレーティブ(生成)」とは、AIアルゴリズムが複雑なデータを生産する能力のことをいいます。他には「ディスクリミネーティブ(識別)」。こちらは一定の選択肢の中から1つを選ぶというものです。例えば、ローンの申請を許可するか否かの判定がこれにあたります。一方で、生成(ジェネレーティブ)AIは、文章や画像、ショート動画など、より複雑なアウトプットが可能なんです。

音声リプライを生成するスマートスピーカーや検索ワードの提案など、生成AI自体は以前から広く使用されてきました。しかし、人間の言葉のようなテキストリアルな画像を生成できるのようになったのは最近のことです。

AIリサーチャーとして、AIモデルを構築するのに必要なエネルギーコストは常に気にかけています。AIがパワフルであればあるほど、より多くのエネルギーが必要になるからです。

パワフルな生成AIモデルの出現は、社会の未来のカーボンフットプリントにどんな影響を及ぼすのでしょうか?

(カーボンフットプリント:排出する二酸化炭素の量が、地球の状態にどれだけ影響を与えるのかを示す指標)

今、AIが必要とするエネルギーは過去最大に

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1つのAIモデルに必要なエネルギーコスト(コンピュータ機材を製造するのに必要なエネルギーや、モデルを構築し運用するのに必要なエネルギーも含む)を正確に予測するのは非常に困難です。

2019年に研究者たちによって明らかにされたのは、1億1000万のパラメーターを持つ生成AIモデルBERTが消費するエネルギーは、大陸横断往復1人分の飛行機の消費エネルギーと同等であるということ。パラメーターとはAIモデルの大きさを表し、パラメーターが大きなモデルほどスキルが高いです。

OpenAIの大規模言語モデル、GPT-3のパラメーターは1750億と非常に大きく、研究員の予測では1287メガワット時の電力を消費し、552トンの二酸化炭素を排出しているそう。

552トンの二酸化炭素排出量は、ガソリン車123台分の1年分の排出量に当たります。ちなみに、この数字はAIモデルを構築する、準備段階での値

つまり、全世界のユーザーがChatGPTを使う前の話です。

効率のいい設計で改善はできる

サイズ(パラメーター数)だけで、炭素排出量が決まるわけではありません。例えば、フランスのBigScienceプロジェクトが開発したオープンアクセスのBLOOMモデルは、サイズこそGPT-3に近いですが、カーボンフットプリントは非常に低く、消費電力は433メガワット時、二酸化炭素排出量(Co2eq)は30トンです。

Googleの研究によれば、同サイズのモデルでも、より効率のいい設計、プロセッサ、グリーンなデータセンターを活用することで、カーボンフットプリンとは100倍から1000倍ほど減らすことができるといいます。

一方、GoogleやMicrosofが自社の検索エンジンにAI言語モデルを組み込むことでチャットbotや画像生成がより普及しており、日々のクエリ(回答を得るために送信される要求や質問)数が急激に増加する可能性があります。

そうした実践では、大きなモデルほど多くのエネルギーを消費します。生成AIクエリ1つに対するカーボンフットプリント、といったデータには限りがありますが、業界の予測では検索エンジンでの1クエリの4倍から5倍相当だと言われています。

生成AIを検索に使うということ

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ほんの数年前まで、BERTやGPTというモデルを使っていたのは主に研究所の人間でした。それが変わったのが2022年11月30日(現地時間)、OpenAIがChatGPTをリリースした日です。

公開されている最新データによれば、今年3月のChatGPTのアクセス数は15億回を超えています。MicrosoftはChatGPTを自社検索エンジンのBingに導入、2023年5月4日(現地時間)に公開しました。もし、チャットbotが今日の検索エンジンほど一般的な存在になれば、AIのエネルギーコストは増加していくでしょう。

AIアシスタントは、検索にとどまらず、ドキュメント作成、数学問題解答、マーケティングキャンペーン制作など、さまざまな用途に使用されることになります。

さらに考慮すべきなのは、AIモデルは継続的なアップデートが必要なこと。

例えば、ChatGPTは2021年までのデータでトレーニングされており、その後のことはインプットされていません(ウェブページをクロールし回答を導き出す機能はある)。

ChatGPT開発におけるカーボンフットプリントは公開されていませんが、GPT-3よりも大きい可能性が高いでしょう。これを定期的にアップデートするとなれば、エネルギーコストはまた増加します。

1つ利点としては、検索エンジンを使用するよりもチャットbotの方が直接的に情報を取得できること。検索結果ページのリンク一覧の代わりに、答えがでてきますからね(答えの正確性は上がっていくとして…)。より素早く情報にたどりつくことで、検索エンジンより高い消費エネルギーを相殺することはできるかもしれません。

生成AIの未来

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未来を予測するのは難しいですが、生成AIが今後も存在し続けること、そしてより多くの人が生成AIを利用することになるのは確かです。

例えば今、数学の問題につまづいたら、家庭教師や友達にきくか、教科書を見たりする人が多いと思います。これらが未来では、AIチャットbotに聞くことになると思います。法律や医療などの専門的分野でも、これは起きるでしょう。

1つの言語AIモデルが地球環境を破壊することはありませんが、もし1000社がそれぞれ自前かつ目的の異なるAIチャットbotをリリースし、それぞれのユーザー数が数百万人となれば、エネルギー問題は深刻になります。

AIを効率よく動かすには、まだ研究が必要です。希望としては、AIは再生可能エネルギーで運用できるということです。

例えば、システムに必要な計算をグリーンエネルギーが豊富な場所で行なったり、再生可能エネルギーを使いやすい時間帯に行うことで、化石燃料の電力使用と比較した場合、炭素排出量を1/30から1/40に減らすことができるでしょう。


最後に、すでに取り組んでいる企業もありますが、自社のAIモデルのカーボンフットプリントを公開するよう、企業や研究機関へ呼びかけることも助けになるかもしれません。

将来的には、消費者自身ががそれらの情報を見て“クリーン”で“グリーン”なAIチャットbotを選ぶことができるようになっているかもしれませんね。

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