大阪市浪速区に大阪中華学校という学校がある。小学部、中学部、幼稚園部があって、主に中華民国(台湾)にルーツを持つ子どもたちの学びの場になっている。
この大阪中華学校の校庭では、中華圏の旧正月に「春節祭」が開催され、地域の名物イベントになっているという。誰でも参加できる催しだと聞いて行ってみたところ、これがすごく楽しかった。
大阪にも「春節祭」がある
春節とは、中国・中華圏の旧正月のこと。日本のお正月と同じく、春節は中国・中華圏において重要な節目で、盛大にお祝いされる。日本と中国の関わりは古いから、日本国内でも各地で春節祭が開かれている。
たとえば、横浜中華街や神戸の南京町では、盛大な春節祭が開催され、普段より一層賑やかな雰囲気になる。
と、いかにも知った風に書いてしまったが、私はこれまで春節というものをあまり意識したことがなかった。「中国のおめでたいお祭りなんだろうなー」というぐらいの浅い認識。
それが先日、大阪の天王寺という町を歩いていたら公園の広場で「2023大阪春節祭」というイベントが大々的に開催されていて、アジア各国の料理を出す屋台が出ており、すごく楽しかった。
ラム肉の入ったモンゴルのスープを買って食べて、台湾の臭豆腐の串焼きも食べて、どちらも美味しかった。日本にいながらにして様々な国の文化に触れることができる(ってまあ、美味しいものを食べているだけだが)、すごく楽しいイベントだ!と、買い食いしながら小躍りした。
「天王寺で春節祭っていうのをやっていて楽しかった」と、後日そのことを友人に話したところ、「大阪中華学校の春節祭もすごく面白いんですよ」と教えてもらった。20年近く前から開催されてきたイベントで、大阪市浪速区の大阪中華学校という学校で行われるそうだ。
その学校は中華民国(台湾)系の学校だから、春節祭も台湾式で、台湾料理の屋台がたくさん出るという。ここ数年はコロナの影響で休んでいたのが、今年、3年ぶりに行われるとのこと。そう聞けば行くしかない。
大阪中華学校の春節祭は朝から大賑わい
春節祭の当日、大阪メトロの大国町駅で下車してイベント会場である大阪中華学校へ向かう。たどり着いて驚いたことに、イベント開始時刻である10時よりだいぶ早めに来たのに、もうすごい人出なのである。
係員の方の指示に従って行列ができていて、並んでみてから分かったのだが、この春節祭の目玉は豪華賞品が当たる抽選会で、その抽選券を手に入れるための列ができているらしかった。
入口でもらったプログラムによると、大阪-台北間の往復航空券が当たったり、iPhoneの新しいモデルが当たったりするらしい。「こりゃあ並ぶべきだ!」と、そのまま列に並んでいることにした。
この列に並んでいると整理券が配布され、その整理券と引き換えに1枚500円で抽選券が購入できるというシステムになっているらしい。並んでいる間に、前方のステージで開会式が始まった。まず主賓の方々の挨拶があって、その後、鏡開きが行われたのだが、紹興酒の鏡開きだった。
びょーんと伸びる獅子舞とバキバキに踊りまくる三太子
それが終わったと思ったら、爆竹の音が会場に大きく鳴り響いた。春節は爆竹を鳴らしまくって盛大に祝うと聞いたことがある。
そしてそれを合図に、ステージ上に獅子舞が登場。太鼓に合わせて踊るのだが、太鼓も獅子舞も大阪中華学校の生徒たちが気合を入れて頑張っているようで、獅子舞の隙間からたまにちらっと学校のジャージが見える。
そしてその後に現れたのが華やかな着ぐるみたち。着ぐるみっていうか、人形っていうか、とにかく、サングラスをかけて派手な衣装を着た何者かである。
これは「三太子」という少年の姿をかたどったもので、台湾では縁起のいい神様として親しまれているのだとか。インドの神話にも由来を持つ神様で、三兄弟の三男なので「三太子」というらしい。
後で調べたところによると、この三太子は伝統的な神様なのだが、近年、なぜかエレクトリックなダンスミュージックに合わせて踊りまくるのが定番になっているそう。台湾では「電音三太子」と呼ばれ、お祭りやパレードにつきものの存在なんだとか。
この大阪中華学校の春節祭でも、その電音三太子スタイルで、BPM速めのダンスミュージックに乗ってガシガシ踊っていて、最高だった。
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学校の校庭で「振る舞い紹興酒」
三太子のダンスが終わったあたりで整理券の配布が終わり、抽選券を買うことができた。
ここまでの私は、あまり全容を知らぬまま会場に来て、何もわからぬまま列に並び、並んでいる間に目の前で色々なことが起き、気づけば抽選券を手にしている、という状況である。
これらのことが小1時間ほどの間に起きた。頭の処理が追いつかない。
とにかく、これでようやくゆっくりと会場を見て回ることができそうだ。校庭の周りをぐるりと囲むように屋台が並び、台湾の料理や飲み物、スイーツなどを販売している。
屋台は、台湾関連の組合の方がやっていたり、大阪中華学校のPTAの方がやっていたり、大阪にある台湾料理のお店が出店していたりするようだ。どこの料理も美味しそうである。
「選べない!」「決められない!」と途方に暮れてうろうろしていたら、「振る舞い紹興酒でーす!どうぞー!」と声が掛かった。先ほど鏡開きした紹興酒が無料で(もちろん20歳以上の方限定だが)配られているのである!
改めて周りを見渡せば、ここは学校の校庭なのだ。校庭で紹興酒をグッと飲み、あちこちから美味しい匂いが立ち込めている。夢のようだ。
食べて飲んでショーを見て
「大根餅いかがですかー!」という声が聞こえたので、列に並んで買ってみた。大根餅は台湾では「ルオボーガオ」と呼ばれ、朝ごはんの定番なんだという。
大根と米粉を練り合わせた生地で、モッチモチ。そこに甘じょっぱいタレがかかっていて、さっぱりしてるけど、滋味深い味わい。ボリュームもたっぷりで、小食な私はこれでもうお腹一杯になりかけるほどだ。
次に、別の屋台で「鶏排(ジーパイ)」が売られていたので買った。スパイシーな風味で、衣はサクサクですごく美味しい。
同じ屋台で台湾ビールも買った。「鶏排」と台湾ビール、合わないわけがない。
私は過去に一度だけ台湾に行ったことがあって、それがすごく楽しかったのだが、その記憶がダーッと蘇ってくる。気分はすっかり台湾である。
美味しいなー!と思っているとステージから大阪中華学校の子供たちによる伝統楽器の演奏が聴こえてきたり、台湾の雑技ショーが始まったり。ああ、目まぐるしい。
お参りしたら「飴ちゃん」をくれた
会場の一角には、教室を利用して「大阪佛光山寺」の祭壇が仮設されていた。「佛光山」は台湾の高尾にあるお寺で、その別院として兵庫県宝塚市に設置された大阪佛光山寺が、今日ここに出張している、ということらしい。
作法を教わってお参りすると、「はい。お土産です。みかんと飴ちゃんもどうぞ」と、色々いただいた。
その「大阪佛光山寺」の隣は、子ども向けのゲームコーナーになっていて、「マージャンBINGO」などで遊べるようだった。
再び屋台の周りをうろつき、パクチー入りの酸辣湯スープを飲んでいたら「みなさま、お待ちかねの抽選会です!」とアナウンスが響いた。
抽選会が始まって終わって
ステージ上にくじ引きマシーンが置かれ、一つ一つの賞品に対して当選番号が読み上げられる。私の抽選券の番号は17番で、「台湾旅行、17番当たれ!そしたらさらに台湾の料理が食べられる!頼む!」と祈り続けた。
結果的には台湾旅行もiPhoneの最新モデルも、商品券も食事券も私には当たらなかったのだが、しかし、「当たるかも!」と思いながら過ごすこのひとときが楽しくて仕方ないのだった。
それに、周りに「やったー!」と喜んでいる人がいて、その姿を見ているのもなんだかいいものだ。
抽選会が終わると、午前の部と午後の部にわかれたイベントの前半が終了となる。入場者が入れ替わるタイミングっぽかったのでそろそろ帰ろうかと思う。最後に「ダンザイミェン」を食べていくことにした。「担仔麺(タンツーめん)」とも呼ばれる台湾の麺料理である。
会場の端にテーブルと椅子が置かれた休憩スペースがあったのでそこで食べる。豚肉団子のプリプリした食感がいい。
目の前の壁に貼られている書は、大阪中華学校の子どもたちが書いたものらしかった。そうか、ここは学校だったな、と我に返り、そこでこんな風に楽しませてもらっていることがありがたく思える。
食べ終えて最後に会場を見回すと、何かを配っている人がいた。
大阪中華学校の春節祭、すごく楽しかったな。また来年もここに来よう。この春節祭のことを教えてくれた友人によると、例年は豚まんで有名な「551蓬莱」の屋台が出ていて(551蓬莱の創始者は台湾の方らしいのだ)、この春節祭でしか食べられないレアなメニューを出しているという。今度はそれを食べられるだろうか。
大阪住んで結構な年月が過ぎたが、台湾風の春節祭が行われていることを初めて知った。会場には様々な事情で台湾から日本に来ている方が多くいて(私のようにただこのイベントを楽しみに来ている人も多いようだったが)、このお祭りを心待ちにしていたようだった。
屋台の列に並んでいる時、「台湾にはもう3年も行けてないけど、ここなら飛行機代がかからないからいい」と話している声が聞こえてきた。そうか、このお祭り会場は飛行機代のいらない、束の間の台湾だったのだな。
家に帰って、抽選券を買った際にもらった景品の箱を開けてみた。
なんと読むのかわからない漢字が目立つ位置にドーンとあるボールペンだった。嬉しい。