メタバースを特集した「情報通信政策研究」第6巻第1号、総務省情報通信政策研究所が刊行 政策研究の一環として、アバターのなりすまし問題を論じた寄稿などが集まる

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 総務省の研究機関である情報通信政策研究所が毎年度発行している学術雑誌「情報通信政策研究」第6巻第1号が、2022年12月に刊行されている。メタバースやデジタルツイン技術などについて取り上げた「仮想空間の今後の可能性ー社会・経済・法・倫理」特集が組まれており、無料でPDFを閲覧可能だ。

 総務省所属の政策研究・研修機関である同研究所では、情報通信政策に関する調査・研究や、情報通信行政にかかわる職員の研修を専門的に行っている。「情報通信研究」の刊行もその一環として、基礎的な調査や研究に資することを目的として行われており、有識者や研究所職員による寄稿で構成されている。

 同誌は2017年度に第1巻を刊行。翌年度の第2巻以降ではテーマを決めた特集も組まれており、2019年度の第3巻では「AI/IoT時代のプライバシー・個人情報保護」、2021年度の第5巻では「With/Afterコロナ時代におけるICTの役割と利活用」といったテーマが取り上げられた。

 今回刊行された第6巻第1号では、「仮想空間の今後の可能性ー社会・経済・法・倫理」をテーマに特集が組まれており、メタバース空間におけるアバターのなりすましや売買などの問題や、デジタルツイン技術の医療・健康分野における活用について扱っている論文が掲載されている。よく話題になるサービスや中心となる技術だけでなく、より広い視野から捉えたシステムや社会への影響などを論じたものが多く、参考になる読者も多いだろう。

「アバターの人格も本人の人格の一側面となる」

 例えば、石井夏生利氏(中央大学国際情報学部教授)の寄稿「アバターのなりすましを巡る法的課題―プライバシー保護の観点から」では、アバターと本人の同一性について、VTuberに対する批判が、いわゆる「中の人」である「本人」への名誉棄損に当たるか否かが争われた裁判の例を取り上げるなどして、「アバターの表す人格が現実世界の本人と乖離していたとしても、それもまた本人の人格の一側面となる」と論を導いている。さらに、アバターのなりすましによる問題点を整理し、対策を論じている。

 佐藤一郎氏(国立情報学研究所情報社会相関研究系教授)の寄稿「メタバースのシステム構成論的な考察―プラットフォーム化が進むメタバースの特性と課題」では、メタバースのシステム構成は、三次元仮想世界上で多数ユーザーがそれぞれのアバターを操作する点などからMMOゲームに似ているとして、サーバーなどのシステム構成について論じる。その上で、技術的問題から起こる「世界の異常」と言える現象を紹介。負荷対策のため世界に人数制限が生じる、通信遅延によるアイテム取得の有利不利が発生するといった問題を取り上げた上で、システムとルールの両面から、プラットフォームのあり方について論じている。

 また、メタバースで発生している問題の多くはすでにMMOゲームにも現れているともいえるため、多くは既存の法制度ですでに対処できているとし、メタバースのために新しい法制度を作ることが妥当であるかは議論が必要だとしている。

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