幸せホルモン「セロトニン」を食事でブーストすることは可能?

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神経伝達物質の1つであるセロトニンは、他の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの働きを制御し精神を安定させることから、メディアでは「幸せホルモン」と紹介されることがあります。そんなセロトニンを食事や生活習慣で増やすというのは魅力的な考えですが、それが実際に可能かについて専門家が解説しました。

Can you actually ‘boost’ serotonin? | Live Science
https://www.livescience.com/can-you-boost-serotonin

・目次
◆1:そもそもセロトニンとはどんな物質?
◆2:セロトニンはどのように作用する?
◆3:セロトニンが不足するとどうなる?
◆4:セロトニンを「ブースト」するには?

◆1:そもそもセロトニンとはどんな物質?
アメリカ・イリノイ州の医療機関であるRelief Mental Healthで最高医療責任者を務めている神経精神科医のテレサ・ポプラウスキー氏によると、セロトニンは脳と腸から放出される化学物質で、細胞同士のコミュニケーションを担っているとのこと。

脳での働きが注目されることが多いセロトニンですが、体内にあるセロトニンのほとんどは腸に存在しており、脳に存在するセロトニンは1~2%程度とのこと。資料によっては10%としているものもありますが、いずれにせよ大半が腸で機能しています。

また、セロトニンはどこで作られるのかによっても作用を変えます。ポプラウスキー氏は「脳で作られたセロトニンは神経伝達物質として作用しますが、腸で作られたセロトニンはホルモンとして作用します」と話しました。


◆2:セロトニンはどのように作用する?
前述の通り、セロトニンは脳にあるかそれ以外の体組織にあるかで作用が異なります。まず、脳と脊髄からなる中枢神経系では、セロトニンは神経細胞と神経細胞をつなぐシナプスで分泌され、一方の神経細胞がセロトニンを放出してもう一方がそれを受け取ることで情報伝達が行われます。

セロトニンがニューロンに作用する方法について、ポプラウスキー氏は「セロトニンを分泌する神経細胞は、放出した神経伝達物質をもう一度取り込むことでシナプスの隙間にあるセロトニンの量を制御することが可能で、この働きは『セロトニン再取り込み』と呼ばれています。例えば、ある種の薬でこの再取り込みのペースを落とすと、セロトニンを受け取る側の神経細胞への影響を増やすことができます。抗うつ剤の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、この仕組みを利用して神経細胞に対するセロトニンの効果を延長させるのに用いられます」と説明しました。

こうして脳で作用するセロトニンは、気分のコントロールだけでなく睡眠、食欲、学習、記憶、性欲など中枢神経系の多くの機能の調節をつかさどっています。


医学界には、セロトニンの量の変動が人間の気分に直接影響するという考え方が長らく存在していました。しかし、最近の研究によりセロトニンと人間の精神や行動との間には、よりダイナミックな相互作用があることが分かってきています。

マサチューセッツ州・ボストンの神経科医であるシャヒーン・ラカン氏は「例えばスマートフォンでもハードウェアとソフトウェアが相互作用しているように、脳でも2つ以上の領域をつなぐ神経回路が気分、やる気、喜び、認知、記憶、言語といった複雑な機能を担っています。言い換えれば、そうした働きを単独で機能させている脳の部位や神経伝達物質は1つもないということです」と説明しています。

セロトニンは脳の他にも腸の働きに関わっているほか、血液中の血小板と結合して血液の凝固を調節し、けがを治癒させる過程で血が流れすぎないようにするといった働きがあります。また、セロトニンは脳と腸の両方で、体内時計や睡眠と覚醒のサイクルを調節するメラトニンというホルモンに合成されることもあります。


◆3:セロトニンが不足するとどうなる?
ポプラウスキー氏によると、セロトニンはトリプトファンというアミノ酸を使って合成されますが、このトリプトファンは体内で作れない必須アミノ酸なので、食事から摂取する必要があるとのこと。

そのため、セロトニンレベルが低い場合のほとんどは、トリプトファンの不足が原因です。ほかにも、ビタミンB6や葉酸、マグネシウムといった栄養素の欠乏や、アルコールの摂り過ぎ、糖分が多い食事、喫煙などでもセロトニン不足が発生します。

こうした原因でセロトニンが十分に作れなくなると不安、抑うつ、集中力の欠如、不眠、過食、体重の増加といった兆候が現れます。

◆4:セロトニンを「ブースト」するには?
では、肝心のセロトニンは増やせるのかどうかという質問について、ポプラウスキー氏は「少なくとも理論的には、トリプトファンを食事から摂取することで脳内のセロトニンの産生量を増やすことができます。しかし、セロトニン前駆体であるトリプトファンが脳に入る時には、他のアミノ酸も脳に運び込まれます。従って、実際のトリプトファンの血中濃度は、他のアミノ酸の濃度からも影響を受けます。つまり、たとえトリプトファンが血液中に入ったとしても、それが脳に吸収されてセロトニン合成に使われるとは限らないということです」と回答しました。

これはどういうことかというと、理論的にはトリプトファンが豊富な食事を摂取することでセロトニンの生成をブーストすることはできますが、せっかく取り込んだトリプトファンがセロトニンになるには、他のアミノ酸もバランスよく摂取している必要があるということです。

なお、トリプトファンは鶏肉、豚肉の赤身、牛肉の赤身、サケ、大豆、豆腐、卵、カボチャの種など、タンパク質が豊富な食品に多く含まれています。


さらに、セロトニンの合成をブーストできたとしても、その増加分を体が活用できるかどうかはまた別の話です。この点についてラカン氏は「運動や食事、サプリメントや医薬品でセロトニンが増えるという話を見聞きすることもあるかもしれませんが、それはスマートフォンに例えると利用可能なバッテリー容量が増えるようなもので、それ自体がなんらかの機能だというわけではないのです」と説明しました。

以上のように、単にセロトニンの元となるアミノ酸をたくさん摂取してセロトニンをブーストすればいいというものではないことから、科学系ニュースサイトのLive Scienceは「結局のところ、神経伝達物質の機能と生成の分野では、まだまだ研究が必要なのです」と結論付けました。

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