光ファイバーというと、インターネット通信のためのインフラというイメージが強い人が多いはず。光ファイバーを単なるケーブルとして使うのではなく、光ファイバーが伝える光の信号を分析することで火山活動や海の底の地殻変動、さらには道路の交通量やクジラの歌などを観測する研究が進められています。
Fiber optics take the pulse of the planet
https://doi.org/10.1146/knowable-112222-3
光ファイバーで自然現象を捉える研究を行っている研究者の1人に、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の地震学者であるアンドレアス・フィクトナー氏がいます。同氏によると、分散型音響計測(DAS)と呼ばれるこの技術を使うと、さながら地球の鼓動を感じるようにしてさまざまな出来事を察知することができるとのこと。フィクトナー氏らの研究チームは、この技術を使って噴火が危ぶまれている火山であるアイスランドのグリムスヴォトンを監視する研究を行っています。
DASの仕組みは次の通り。まず、光ファイバーの一端にあるレーザー光源から短いパルス状の光を発射します。すると、光の大部分は光ファイバーのもう一端に進みますが、一部は光ファイバー内の不純物などに当たって光源に跳ね返ってきます。光ファイバーが埋め込まれている地面の振動などで光ファイバーが変形すると、この反射光に変化が生じるので、それを分析することで地震などを検出することができます。
DASの研究者の1人であるスタンフォード大学のナサニエル・J・リンジー氏は「例えば車が走ったり、地震が起きたり、地殻変動が起きたりすると光ファイバーが揺れます。このような揺れによって反射光の信号が変化するので、ケーブルのどの部分がどのようにしなったのかなどの情報を得ることができるのです」と説明しました。
この技術は1メートル単位で揺れを検知できるので、10kmの光ファイバーを1万個のセンサーに変えることができます。また、同様の技術には地震計がありますが、1つの地震計は1カ所のデータしか収集できない上に、設置するにも維持するにも大きなコストがかかります。
DASは、もともと石油産業が油井の監視やガス検知のために開発した技術ですが、科学者たちはこの技術をさまざまな用途で使う研究をしています。例えば、地震の検知だけでなく、都市の地下にある地質の調査にも使えるので、大地震が発生した時にどの場所が危険かを知ることもできるとのこと。また、都市部での交通量や工事騒音のモニタリングにも活用することが可能なほか、ノルウェー近海の海底光ケーブルを使ってクジラの歌を聞くことができたという研究結果も報告されています。
いいことずくめなように思えるDASにも欠点はあります。例えば、ケーブルから戻ってきた反射光を分析する都合上、あまりに長い距離を移動すると信号が弱くなりすぎるので、100kmより長い光ファイバーから正確なデータを得ることは困難だとされています。
この弱点を克服すべく、光のパルスではなく連続したレーザー光を使用し、送信した光と戻ってきた光を比較することでより長距離でのセンシングを可能にする技術の研究も進められています。イギリス国立物理学研究所のジュゼッペ・マーラ氏らの研究チームは2018年の研究で、レーザーを使用することで従来のDASの限界である約100kmを大幅に更新し、最大535km離れた場所の地震を検知することができることを実証しました。
さらに、変わりつつある地球環境の実態を明らかにする研究も進められています。フィクトナー氏らの研究チームは、グリーンランドの氷床に深い穴を開けて光ファイバーを地下1500メートルまで下ろし、岩盤と氷床がこすれ合って発生する氷震を観測することに成功しました。この技術が確立されれば、氷河の上からは知ることができない氷床の形成プロセスや氷河が海へと向かう動きを調査することが可能になり、これまで知られていなかったメカニズムが明らかになるかもしれないと期待されています。
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