おしえて、おじいさん(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

一番左が母方の祖父、らしい。たぶん。

僕には生きている祖父の記憶がまったく無い。父方の祖父は兄が生まれる少し前に亡くなってしまった。祖父は戦争に行ってシベリアに抑留され、強制労働をさせられたが生きて帰ってきた。帰ってきてからは酒に溺れ、肝臓を壊して亡くなったという。

母方の祖父についてはほとんど知らない。僕が生まれる随分前に亡くなったと聞いている。丸の内のビジネスマンだったとか、捕まえてきたナマズを家族に振る舞って嫌がられ、キレたとか、そういう断片的な事しか知らない。

おじいさんって、どういう生き方をしてきたのだろう。おじいさんたちが生きてきたのはどういう世の中だったんだろう。今を、昔を、どう思っているのだろう。

だから、おじいさん達の話を聞くために上野公園に行った。

2007年4月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

あばよ涙、よろしく勇気、こんにちは松本です。

1976年千葉県鴨川市(内浦)生まれ。システムエンジニアなどやってましたが、2010年にライター兼アプリ作家として自由業化。iPhoneアプリはDIY GPS、速攻乗換案内、立体録音部、Here.info、雨かしら?などを開発しました。著書は「チェーン店B級グルメ メニュー別ガチンコ食べ比べ」「30日間マクドナルド生活」の2冊。買ってくだされ。(動画インタビュー)

前の記事:雨降って地固まるのか、山に登って確かめてきた

> 個人サイト keiziweb DIY GPS 速攻乗換案内

断られまくるの巻

白状するが取材の方法がよくわからない。取材なんてしたこと無い。グーグル先生で調べても取材のノウハウなんて判らない。だから、無い知恵を絞って企画書を書いた。企画書片手に上野公園でおじいさんに話を聞いてみることにした。

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なんとなく上野公園なら話を聞ける気がした。

「こんにちは!ライターの松本と申します!今までの人生についてお話を聞かせていただいてよろしいでしょうか?」

「断る。」

「あ、ありがとうございました!!」

最初から断られた。ガーン。しかもキッパリと断られた。断られるのは覚悟の上だったが見事に断られた。企画書なんて見せる間も無かった。正直凹んだが、こんな事くらいで凹んでいたら取材なんて出来ない。林さんだって3年前に頑張っていたじゃないか。めげそうになるが頑張ることにした。

「こんにちは!ライターの松本と申します!お話(以下同文」
「いや、ダメ。」
「すみませんでした。」

「こんにちは!ライターの(以下同文」
「いまそういう状態じゃない。」
「申し訳ありませんでした。」

「こんにちは!ラ(以下同文」
「……(無言)」 手を振って追い払われ
「ありがとうございました。」

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休日の上野公園は散歩をする人がたくさんいる。

ここまで全敗。泣きそうだ

……ダメだ。

10人ほどに声を掛けて勝率0%だ。このままじゃ記事ならない。いきなりこういう取材は荷が重かったのか?いや、でもみんなきっともっと辛い取材を続けて続けて記事を書いてるんだ。ここで諦めちゃならない。まだまだだ、まだまだ終わらんよー!!

「こんにちは!ライターの松本と申します!今、人生の先輩に人生についてお話を伺っています。長い人生、きっと凄いネタをお持ちと思います。そういう話を記事として紹介出来たらと思っています!」

「そうだね、ドラマっぽい話もあるだろうね。でも世に出したいとは思わない。」

「え、あ、そ、そうですね。でもとりあえず聞かせていただく事は可能でしょうか?」

「話すほどの事じゃないな。じゃあ。」

この後も無言で追っ払われたり、無視されたりが続いた。つれぇ。辞めちゃおうかな、と思った。どうにもおじいさんたちはガードが堅い。

きっと僕の聞き方も悪いのだろう。記事にしたいという野次馬根性を見透かされているのかもしれない。自分のあらゆる欠点までもが見透かされているようで、泣きそうになった。そして申し訳無い気分になってきた。声を掛けた全ての人に。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

そんなとき、パンダまんの看板が見えた。

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僕がもしパンダだったら話をしてくれるだろうか?

……パンダメイクとかしてみるか?

なんか変なことをして心のガードを下げる試みを記事にしようかな・・・。

・・・。

・・・・。

・・・・・。

いや、ダメだ。ちゃんと取材しなきゃダメだ。

もう少し頑張ることにした。

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取材方法を顧みることにした

いきなり話を!といってもそりゃダメだ。これまでは会話すらまともに成立していない。まずは会話だ。会話の成立を目指すことにした。それに粘りも足らないだろう。断られたって粘れば話をしてくれるかも知れない。会話成立と粘りを念頭に取材を続けた。

「こんにちは、ライターの松本と申します。これまで生きてきた中で思い出深かった事などあったら教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「いやぁ、話すほどの事はないよ。」

「いえ、なんでも結構です。お願いします!最近の日本について思うこととか、雑談で構いません。ところで今日は散歩ですか?」

「ああ、そう、散歩ですよ。歩くのは健康に良いよね。大体毎日歩いてるよ。赤羽に住んでるんだけどね日暮里までバスで来て、そこから谷中、上野と歩くのがいつものコースなんだよ。バスはタダで乗れるんだ。」

あ、会話が成立した。あとの展開はスムーズだった。

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以降、写真はイメージ写真中心になります(撮影NGだったので)。

健康の秘訣は不良でいること

「最近は欲なんて全然ないんだよな。酒も飲まないしタバコも吸わない。望みは長生きする事だけ。最近の日本?平和でいいんじゃないの?もうさ、この年になるとあんまり言いたいことも無いなぁ。」

「お若く見えますが、失礼ですがおいくつですか?」

「72になったよ。孫が6人いてみんなもう大きいよ。上が26歳。下でも中学生だからね。もう寄りつきゃしないよ(笑)。正月に会って小遣いやる程度だな。」

そう言ってAさん(匿名)は笑った。笑うと目尻のシワが深くなる。福々しい良い笑顔だと思った。それに72歳には見えない肌つやだ。

「72歳には全然見えないんですが、なにか気をつけている事などありますか?」

「そうだなぁ、不良でいることかな。年寄りってみんな早く寝て早く起きるでしょう?俺は違うんだな。TVを見ながら夜更かしして朝になることもあるよ。だから朝は苦手。好き勝手に生きてるからストレスがないんじゃないかな。」

「不良ですか!」

「そうだよ、俺は不良老人だよ。食べ物も好きに食べてるよ。もう先も長くないのに我慢したってしゃーないでしょう。医者は節制しろ、体重を減らせって言うけど美味い物も食わずに死にたくないやな。おかげで太ったんだけどしょうがないよ。和食はよく食べるけど野菜はいまいち好きじゃない。野菜なんて美味くないよ。」

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上野の寛永寺にいた猫。
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年を取って味覚が変わった

「そうですね、野菜ってそんなに沢山は食べられませんよね。では、ここ数年で自分の中で変わったことはありますか?」

「そうだなー。食べ物の好みが変わりましたよ。脂っぽい物は食べなくなったし、甘い物が好きになった。」

「へぇー、甘い物が。」

「昔は甘い物なんて食べなかったんだけど、最近まんじゅうとか好きだよ。なんだろうね。酒は昔から飲まなくて、タバコもやめた。それから左目を悪くして物が二重に見えるんだよな(笑)。」

「二重にって。笑いながら重いこと言いますね。」

「バイクで事故やって。二重に見えるんだよなー。」

「え、バイクに乗られるんですか?」

バイク事故にあった

「車は乗らないんだけどバイクは乗るんだよ。それで転んじゃって。骨とかは大丈夫だったんだけどメガネの鼻当てが目に食い込んじゃって。」

「手術するか聞かれたんだけど大がかりそうだからやめた。まぁ、アレだよ。目が片方くらい二重に見えたって大した問題じゃないよ(笑)。見えない人だっているんだから。」

「大らかですね……。それにしてもバイクに乗ったり毎日散歩したり、活動的ですね。」

「そりゃあ不良だから(笑)。家にずっといて孤独死とか嫌でしょ。最近多いじゃない、そういうの。出来るだけ外に出るのが良いんだよ。それに人がいて賑やかな場所は楽しいよね。パチンコ屋とか上野公園とかさ。動物園も楽しいよ。動物が好きで、テレビも動物番組が好きなんだよ。」

「あ、僕も動物番組好きです。「生き物地球紀行」とか面白いですよね。最近だとプラネットアースも良かったですよね。」

「そうそう、おたくも好きなんだなぁ。あとチャンバラとかK-1、拳闘も夢中で見るなぁ。」

僕もK-1と動物番組が好きだ。特に生き物の番組が好きなのでその後は動物の話で盛り上がった。楽しい。上野動物園の目の前でプラネットアースの話を出来るとは思わなかった。

「じゃあ、そろそろ動物園抜けて家に帰るわ。」

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Aさんは颯爽と動物園のゲートに消えていった。

Aさんにもらった勇気を糧に取材続行

Aさんはゆっくりと立ち上がり、上野動物園に向かった。なんでも、無料で入れるのだという。僕は慌てて、「あ、写真よろしいですか?」と聞くと「写真は勘弁してくれ」と笑いながら動物園のゲートをくぐっていった。

Aさんは年齢に似合わない若さだった。散歩と、気ままを自称する生活が良いのだろう。物が二重に見えても気にしない大らかさも凄い。まさに達観だ。僕は30分ほどの会話の中ですっかりAさんが好きになってしまった。

よし、もうちょっと頑張るぞ。

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まためげそうになるが

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一人で座ってるおじいさんは割と見つかります(イメージ写真)。

頑張ろうと思ったのだがやはり厳しい。無言で断られたりが続いた。でもAさんとの会話ですっかり僕は「開いて」しまったので全然へっちゃらだった。そして何人目かに声を掛けたMさんが話をしても良いと言ってくれた。

「こんにちは、ライターの(以下同文」

「でも何を話したらいいの?」

「ありがとうございます!!例えばこれまでの人生で思ったことや仕事で大変だったこと、あと今の日本に対して思うことなどを話していただけたら助かります。」

日本は平和な良い国だよ

「日本はね、良い国だと思うよ。第一、平和でしょ。上を見たら判らないけどさ、食べ物にも困らないし戦争も無いし、欲を言い出したらキリが無いじゃない。」

Aさんもそうだったけど、Mさんも日本に満足しているらしい。

「確かに平和って凄いことですよね。」

「そうだよ、平和が第一だよ。その点、日本は良い国だよ。」

「そういえば石原知事が再選しましたが、どう思われますか?」

「どうもこうも、対抗馬がいないでしょ。慎太郎以外に選びようがないんだもの。慎太郎はさ、初志貫徹で頑固な所は好きだな。でも最近肌のつやも良くないし、おかしくなってきてるんじゃないの?言うことも変になってるよ。」

「都知事って命を削るほどに大変なのかも知れませんね。石原さんの兄弟って昔から人気あるんですよね?」

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上野の寛永寺にいた猫 その2。

 石原兄弟について

「そうなんだよ。慎太郎の『太陽の季節』は衝撃的だったなぁ。当時中学生だったけど、映画は18禁で見られなかったもの。今見ると大したことないんだけど。」

「アレですね、陰茎で障子を破るっていう。」

「そうそう。石原兄弟は弟の裕次郎も凄い人気でさ。死ぬ前は太っちゃってあんまり好きじゃなかったんだけど、若かった頃はエライ男前で大人気だったんだよ。身長もあって、180cmだもの。当時としては珍しいよ。裕次郎は凄かった。凄い人気だった。」

「180cmっていったら今でも大きいですよね。」

「そうだよ。大きいよ。昔は俳優って言ったって身長は大して高くなかったわけ。あんまり大きいと他の俳優と釣り合わなくなるから。でも裕次郎は大きかった。裕次郎からだろうね、身長高いのが俳優になったのって。」

「なるほど。」

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寛永寺の八重桜。満開で奇麗でした。
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最近の高校生は背が低い?

「身長って言えばさ、最近の高校生は背が低くなってると思うんだよな。気付かない?」

「低く、ですか?」

「そうなんだよ。10年くらい前は高校生の身長が大きくなった感じがして、このままだとどこまで行くんだろうって思ってたんだけど、ここ最近は小さくなった感じがするんだよな。」

「へぇー!そうですか!全然気にしてませんでした。」

「これからは気にしてみると良いよ。小さくなってるよ。これがアジア人の限界なのかも知れないね。半世紀前に戻ったみたいに小さいのばっかりいるよ。」

この説には驚いた。身長だけじゃなくて体全体が細くなったのかも知れないが、若い人の身長が低くなっているという観察は面白い。これからは気にしてみてみようと思う。

昔の食べ物事情は酷かった

「昔の中高生は体が小さかったよ。食べ物がないからみんなガリガリでアバラが浮いてたし。栄養が無いと鼻水が出るみたいで、子供なんてみんな袖がテカテカ光ってたよ。服だってそんなに持ってないし毎日洗わないから。みんな袖がテカテカ。」

「テカテカ!食糧難についてもう少し聞かせて下さい。」

「戦中戦後は本当に無かったよ。そこらじゅうの山、東京中の山を開墾して芋を育ててたよ。この辺(上野公園)でもイモ育ててたんじゃないかな。米も無いからイモとか大根、麦で量を増やして炊いたんだよ。とにかく量を増やすのが大事だった。」

「昔はそうやって、食べ物に困ってた時代だから。肉なんて全然食べたことなかったよ。だから肉を食べるっていう習慣がない。今でも肉はあんまり食べないよ。小さい頃の食習慣ってずっと影響するよね。教育でもなんでも、小さい頃身につける物は大事だと思うよ。」

小さい頃の食生活や教育は大事だと力説するMさん。そうですね、とうなずく僕。会話が楽しい。知らない人の話を聞くのがこんなに楽しいとは思わなかった。

肉に命を取られる

「肉とか脂っぽい食べ物は体にも良くないと思うね。私が知ってるだけで何人も大腸ガンで亡くなったけど、みんな肉が好きだった。中華料理とか脂っぽい物も好きだったんだよ。農耕民族なんだから、体にあった食べ物を食べなきゃダメだよ。」

「そうですね。やはり和食がいいですか」

「そう、和食が良いよ。伝統的な食べ物が体に合ってると思う。育ち盛りの頃は肉を食べて体を作るのも良いけど、体が出来たら肉や脂は控えた方が良いよ。『肉に命を取られる』よ。」

「それ良い言葉ですね。」

まんじゅう食うか?

「あ、腹減ってない?まんじゅう食べる?」

「え、まんじゅうですか?」

「谷中通ってきたんだけど、谷中の商店街にまんじゅうで有名な店があるんだよ。そこで20個買ってきて、この周りにいた子供とかにあげたんだけど、まだあるから良かったら食べなよ。」

「ありがとうございます。折角ですからいただきます。」

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右下に写ってるのがMさんの手。左のは僕の手。

Mさんは横に止めてあった自転車のカゴからビニール袋を取り出すと、小さなまんじゅうを僕にくれた。

「これが1個10円でさ。遠慮しちゃダメだよ。1個じゃなくて2個食べなよ。」

「すみません。いただきます。あ、美味しいですねこれ。」

「10円でこれならいいよ。100円で10個でしょう。100円のまんじゅうを1個買うより良いよ。最近は甘い物が好きになったから谷中に行ってはこれ買ってるよ。若い頃はまんじゅうなんて全然食べなかったけどなぁ。」

Aさんも年を取ってから甘い物が好きになったと言っていた。Mさんも同じように甘い物が好きになったという。こういう味覚の変化ってみんな同じなんだろうか。

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浅草まで自転車で行っちゃうよ

「谷中から上野って自転車でどのくらいですか?」

「谷中だとすぐだよ。家は田端なんだけど、ここまで30分くらいだから。浅草まで自転車で行くこともあるよ。上野は近いもんだ。」

「浅草は距離ありますね。浅草はよく行かれるんですか?」

「最近はそうでもないな。たまにふらっと行く程度。浅草はさ、半世紀くらいなんにも変わってないよ。新しい物なんてなんにも無い。建物も街もそのまま。昔の方が賑やかだったけど。演芸場があったり映画館とか芝居小屋があったんさ。小さい頃親に連れて行ってもらったなぁ。最近は寂しいね。」

Mさんは64歳。Aさんよりも若いが、これまた年齢通りには見えない若々しさだ。Aさんの散歩がそうだったようにMさんの若さの秘訣はサイクリングにあるのかもしれない。適度な運動はやはり大事なのだろう。

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Mさんの愛車。これでどこへでも行くとの事。

最近の人や世の中についてなにかありますか?

「そうだなー。私らが若い頃だって、今とは違うけど派手な格好をしたりしてね。誰でも通るハシカみたいもんでさ、親とか社会に反抗する時期ってあるじゃない。今の若いのだって同じように普通に育ってると思うよ。特に言いたいことはないかな。あ、でも一つ気になる事があるな。」

「どういう事ですか?」

「テレビとか見てると、話をするときに『うん』って挟むじゃない。」

「あ、言いますね。『うん、日々の練習が大事だよ。うん。それが今日は生きた。うん。』とか言いますね。『はい』って挟む人もいますね。」

「そうなんだよ。あの『うん』が気になる。誰に向かって『うん』って言ってるんだ、って思う。あれはないな。言葉で気になるのはそれだけだな。あとは、言葉じゃないけど携帯。飯食う時くらい電源を切っておけって思う。」

「そうですね、食事中に電話は嫌ですね。」

「せせっこましいよ。変な音楽がチャランチャラン鳴ったりして。私は携帯電話は持ってないけど、全然困らないよ。今の人は電話を持ちすぎるし使いすぎると思う。昔は電報で十分だったんだから、今だって、仕事で忙しく使う人は別としても、学生まで電話を持つ必要なないと思うな。」

「確かにそうですね。僕もあんまり電話使わないんですが。掛かってこないし。」

「私らの世代だと携帯電話持ってるのは半々くらいかな。これからも私は持たないと思うよ。」

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取材後、寛永寺を散歩。Mさんお勧めのスポットです。

今は良い時代だよ

「携帯電話とか『うん』とか小さい気になることはあるけど、今は良い時代だし日本は良い国だよ。昔は家族が戦争で死んだって悲しんだら非国民になったんだからね。平和で豊かで良い国だと思うよ。」

実際に戦争を、戦後を、高度成長を、幾多の好況と不況を体験してきたMさんの言葉には重みがあった。今日は本当にいい話が聞けた。僕は脳みそをパンパンにし、Mさんにお礼を告げて上野公園を後にした。

とても勉強になりました

論語の中では「七十而従心所欲」、つまり「70にして、心の欲するままに行動しても道徳を外れなくなった」と言われている。確かにAさんとMさんからは、そういう雰囲気が感じられた。「最近の若いもんは」と言うわけでもなく、世の中をあるがままに受け入れている余裕のような物を感じた。僕もそういう風に年を取りたいと思った。

こんなにじっくり、おじいさんと話したことがなかったので新鮮だった。物の考え方や人生観など、ここに書いてないこともためになる話が多かった(大分要約してます)。今日一日で随分勉強になったと思う。これからも話をしてくれるおじいさんに出会ったらじっくり話を聞かせてもらいたいと思った。

良い体験でした。それに、楽しかった。

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