餃子みたいなオムライスとオムライスみたいな餃子

デイリーポータルZ

餃子みたいなオムライス(左)、オムライスみたいな餃子(右)

今の暮らしに嫌気がさした王女と庶民の娘が出会った。二人は見た目がそっくりだったので、お互いの服を取り替えて立場を交換してみることにする。

そんな物語が古今東西に数多あるが、餃子とオムライスではどうなるだろうか。

「一週間だけ、身分を交換してみない?」

餃子とオムライスは、それぞれの見た目と中身を交換できると思った。

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どちらも薄い皮に包まれていて、欠けた月のような、細長いラグビーボールのような、近いといえば近い形をしている。

贅沢な暮らしに飽きた王女が、自分とそっくりの庶民の娘を見つけて言うのだ。

「一週間だけ、身分を交換してみない?」

素早く服を取り替えた二人は新しい暮らしに胸を躍らせながら別れる。物語が始まりそうである。餃子とオムライス、どっちが王女でどっちが庶民かは皆さんの好みにお任せするが、とにかくこれはそういう話だ。

餃子みたいなオムライス

まず餃子みたいなオムライスを作ってみよう。薄焼き卵を作ってチキンライスを餃子っぽく包めばいいのだと思う。

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薄焼き卵を作って餃子の皮のサイズに切った。

卵を漉して片栗粉を入れて、フライパンの温度を調節して卵を焼いた。この時点で僕にとっては冒険である。まな板に移す時にちょっと破けてしまった。

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餃子のタネみたいにチキンライスを乗せる。最初なので弱気な量。

皮は水溶き片栗粉でくっつけてみることにする。卵を破かないように餃子のひだの部分を作る。「ひだ」は無くてもおいしく焼けるという話があるが、今回は餃子っぽさが大事なので前のめりで作っていく。

突然王女の服を着させられた庶民の娘だって、服の飾りの意味なんて分からなかっただろう。

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できた…!
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持ち上げたら壊れた!

皮がちゃんとくっつくようにぎゅうぎゅう抑えたせいで下のまた板とくっついてしまい、無理に剥がそうとしたら壊れた。

王女としての姿、一瞬だった。

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「なるほど、餃子みたいに打ち粉が要るんだな!」と張り切って作った二個目。

王女、粉まみれになった。こんなことなら庶民のままの方がマシだったろう。

これではいかんと薄焼き卵を観察して、冷めてからならまた板とくっつかないことを発見した。当たり前のことに気がつくのに時間がかかる人生である。最近、そういえばよく行くよなと思ってスーパーのポイントカードを作った。気がつくのに半年かかった。

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そしてできました! 餃子みたいなオムライス。けっこう餃子みたいになったと思う。
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食べてみる。餃子にもオムライスにもないおいしさがある。

材料はオムライスなんだけど、チキンライスをガツガツ頬張るようなものではなくて、卵のツルッとした舌触りを楽しめるワンタンみたいな食べ物になった。

これじゃないと出ない良さがちゃんとあると思う。突然王女になった庶民が、庶民の感性を活かして善政を敷いている。つまりおいしいということだ。

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夜、子どもに出してみた。

「はい、餃子みたいなオムライス」と、さも定番料理みたいに子どもに出した。3秒ほど固まったのち「食べる」と言ってもりもり食べてくれた。

「柔らかいねえ!」という、あまり餃子にもオムライスにも使わない言葉で褒めてくれた。固そうに見えたのかな。

オムライスみたいな餃子

さあ、次はオムライスみたいな餃子、オム餃である。さっき作ったもの(餃オム)を元庶民の王女で例えてしまったので、成り行きでオム餃は元王女の庶民ということにしよう。

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オム餃は、皮から作る。

オムライスの大きさと形をした餃子である。皮から作るのはやったことないし手間がかかりそうで不安だったのだが、餃オムの薄焼き卵も怖い怖いと言いながら作ったことを思い出し、この対称性を大事にすることに決めた。

餃オムが皮から作ったのだったら、オム餃だってそうする!

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そう意気込んだが、皮はあっさりできた。

粉やお湯を分量通り混ぜてこねたらできた。

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余った生地で普通サイズの皮も作った。

この日は妻が子どもの保育園のお迎えに行ってくれることになっていて、僕は夕飯の担当になっていた。オムライスみたいな餃子、オム餃をおかずとして出そう。大きなオム餃を切り分けてみんなでおいしく食べよう。そう決めていたので、タネを作ったら焼き始める時間が来るのを待った。オム餃は焼きたてがうまいと思うので。

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普通サイズの皮でせんべいを作りながら待った。

せんべいも焼いてしまうと特にやることがなくなり、椅子に上に体育座りでじっとしていた。オム餃がうまくいくか不安で他のことが手につかないのだ。

外が暗くなってきて部屋の電気をつけた。そろそろかなと思い、大きな皮をフライパンに広げてみる。

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こうして、
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こうだな…!

オムライスっぽい形になった。あとは餃子の要領で焼く。調べたらジャンボ餃子のレシピがあって、それに従って焼いた。蒸し焼きの時間は15分くらいらしい。

焼いている間は本当に何もせずフライパンの前に立っていた。そんなことしたってうまく焼けるわけではないのだけど、心配でそうするしかなかった。

そんな風にジリジリ待って15分。焼けたので皿に移してみる。

「ズシン!」「プルン!」という感触。
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うまそう!

 焼き目が見えるように盛り付けたかったが、これはオム餃なのでふっくらした部分を上にする。

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食べるラー油をケチャップっぽくかける。いいな。オムライスの形をした餃子。

元王女の庶民として見ようと思ったのだが、王女が別の国でまた王女になったような堂々とした佇まいがある。大きいからな。

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この日のご飯はオムライスみたいな餃子、余った餃子の皮のせんべい、余った餃子のタネで作ったつくねのスープになった。

色々あるようで餃子一品しか無いような気もするし、しかし普通の餃子は無いしという不思議な食卓になった。宇宙のどこかに地球とそっくりの惑星があって、暮らしも地球とほとんど一緒なんだけど細かい文化が決定的に違う、そんな世界の食卓みたいだ。

食べてみると味はなかなか餃子であった。そして普通の餃子より具の部分をがっつり食べられるし、皮も重なっているから食べ応えがある。餃子は強い。姿を変えても餃子だ。

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もうしょうがないのでレモンサワー飲んだ。
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子どもは、餃子の皮焼いたやつをずっとパリパリ食べていた。

餃子の中身が強かった。

餃子とオムライス、それぞれの見た目の中身を取り替えてみたが、完全に交換可能、という感じではなかった。まとめるとこうだ。

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中身が餃子だとその印象が強い。そう言えば餃子は、包み方が自由で見た目にバリエーションがあるが、オムライスは比較的その傾向は弱い。見た目と中身そろってこそのオムライスなのだろう。

ややこしくてどっちがどっちだったか分からなくなってしまったが、王女と庶民の娘の交換は成立しなかった。違う身分を経験した二人はまたこっそり服を取り替え、もといた日常へと戻って行った。

二人はもうなんだって乗り越えていける。だってオムライスが餃子に、餃子がオムライスにになれたのだから。どっちがどっちだったか、本当に分からなくなっちゃったけど。

副産物

餃子の皮焼いたやつがこんなにおいしいのは新しい発見だった。余計なことはしてみるものである。

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冷めたらトースターで温めるとまたパリパリになりました。

 

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