せんべいといえば、バリバリ食感のお菓子。筆者の頭の中には常識として植えこまれていることだ。おそらく読者の皆さんも、ほとんどはそうだろう。
ところが北海道根室市に “せんべい” なのに柔らかい、柔らかいのに噛み切れないという謎の銘菓『オランダせんべい』があるらしいのだ。
「なんだそりゃ!?」気になって現地まで買いに行ったはずが、なぜか優しさに包まれて胸がいっぱいになってしまったよ……。
・昔ながらの製造所
訪れたのは根室市内にある端谷菓子店。創業は昭和25年で、オランダせんべいの製造は昭和40年頃から始めたのだそう。
小さな建物の製造所 兼直売店の前まで来ると、あたりには砂糖が焦げるような甘い香りが漂っていた。
店内に入るとレジ前にカゴが並べられ、お目当てのオランダせんべいが詰まっていた。せんべいは直径15cmほどで、4枚入りで税込260円。
思っていたよりも大きくてボリューミーである。B級品が4枚230円で売られているあたりは、直売所ならではといったところだろうか。
朝イチでの訪問だったため、店員の方曰く「今はまだこれしかないよ」とのこと。時間によってはみそせんべいや玉子せんべいなど、他の商品もあるらしい。
目を奪われたのは、奥に広がる製造所の様子。(製造所は撮影NG)
昔ながらといった雰囲気の製造所内には、せんべいを焼く金型が取り付けられたベルトコンベア的構造の機械が2台。
それぞれにスタッフが1名ずつ付き、焼けたせんべいを剥がしては新しい生地を流し込む作業をひたすらに繰り返している。作業は素早く正確で、1分に1枚ほどが焼き上がっていた。
背後ではせんべいを4枚まとめて袋に入れるスタッフが1名。こちらもかなり手慣れている。
規則的な動きで次々と商品が積み上がっていく様子は、なんだか見ていて気持ちがよくなるものであった。
・甘くて懐かしい味、でも噛み切れない
購入したオランダせんべいを持ち帰り、さっそく食べてみることにした。昔の駄菓子屋さんで見かけたような、飾りっ気のないパッケージに味がある。
せんべいには4等分のラインが入り、区画ごとに模様が違う。四角や丸、単純な模様がパッチワークみたいで可愛い。
それではさっそく「いただきまぁ~す!」とかぶりついてみると……
噛み切れねぇぇぇ~~~~~~!!!!!!
手で簡単に曲がるぐらいのムニっとした柔らかさにもかかわらず、粘りがあるというか、結合が強いというか。噂には聞いていたけど、マジでこんなに噛み切れないものなんだな。
何口か食べてわかったのは、噛もうとせずに破る・ちぎる動作が必要ということ。
つまりせんべいに直接かぶりつく場合は、口に近い部分を持って端から破り取ればうまく食べられる。また筆者のように丸ごとではなく、ラインに沿って4等分にちぎるとより食べやすいのだそうだ。
もちもちとした生地は、噛むごとに優しい甘みが染み出してくる。お店で聞くところによると、材料に白糖と黒糖の2種類を使用しているのだそう。
モキュモキュと何度も咀嚼を繰り返すうち、製造所の様子が脳裏に思い浮かんできた。
オランダせんべいには華やかさや派手さはないが、むしろそれがいい。ただ食べているだけなのに、人間の温かさに触れたような優しい気持ちで胸がいっぱいになったのでした。