「◯◯元年」という言い回しがある。新たな取り組みをその年から始めようという意気込みとしての表現だ。当然元号としての元年とは別の考え方なのだが、ここ数年やたらこの言い回しが目立っている気がする。ひょっとして毎年何かしらの元年が存在するのではないか。調べてみよう
おれたちは元年の中で生きている
突然ですが、ここでクイズです。今年は何年でしょう?
おやおや?と思った方もいるかもしれない。私もおやおや?と思っている。
そんなの知らないぞ、という人もいるだろう。もちろん私だってそうだ。
百歩譲って今年は「シン・金融教育元年」だとしよう。その場合去年は何年になるのだろうか。
ここでいう元年とはもちろん元号の元年ではない。これらは新たな取り組み、時代の転換点としての意気込みや言い回しとして「◯◯元年」という表現が用いられているものだ。
そう、知っているかどうかに関わらず、毎年誰かがどこかで「◯◯元年」を宣言しているのだ。おれたちは元年の中を生きているのだ。
もしかして、もしかすると毎年何かしらの元年だったりするんじゃないか。そう思ったのでインターネットの大海に潜ってみることとした。
なお注釈となるが、上記方法での調査のため以下の情報は「インターネットで取得できた元年」の情報に限られることをご留意いただきたい。
この世は元年に溢れている
もったいぶっても仕方ない。下記が今回私が見つけた「◯◯元年」の一覧である。これがこの世界の真実です。
すっごいあった。あまりの量に豊洲の高層ビルみたいな縦長画像になってしまった。もう毎年が元年などという程度ではなく、1年に2, 3元年以上あるのがザラだったのだ。
また元年の種類にも様々なものがあった。上記の2つのように政府や企業が正式なものとして宣言している元年もあれば、表現や個々人の言い回しとして元年を用いているものも多数存在した。
参考URLも含めた、調べた限りの全貌はこちらのシートにまとまっているのでぜひご覧いただきたい。
結論だけお伝えすると、2008年の「インターネットマシン元年」からこの日本は毎年なにかしらの元年であった。15年連続元年なのだ。
元年数は年々増加、令和元年の影響も
元年を集めているうちにいくつか傾向も見つかったので紹介しておきたい。まずは年ごとの元年数の推移についてである。
見てみると一目瞭然、元年数は年々増加傾向にある。
今回はインターネットの検索でヒットしたものを集めているため、もちろん直近数年の方が情報としてヒットしやすいこともあるだろう。
しかし、例えば2019年を境に元年数が高水準を維持しているのは見逃せない。
2019年に何があったというのか。そう、令和元年である。
令和元年という元年の王様の存在により、人々の頭の中に「元年」という概念が再定義されたのだ。それに従って造語としての「◯◯元年」という言い回しも増加したとも考えられる。ここ数年は元年バブルなのだ。
2010年あたりから「言ったもん勝ち」の元年が増加
さて、「◯◯元年」の中にも公式なものから単なる言い回しまで色々な種類があることについてはすでに述べたが、特に2010年あたりを境に言い回しの中でも「言ったもんがち」な感じの元年が増えてきた。
元年と聞くと何か物や事柄が始まった年なのかなと想像してしまうが、2010年代の「アクアリウム元年」や「体づくり元年」はその限りではなさそうだ。
元年というものは明確な根拠や出典があるものではなく、心の持ちようなのだ。今年はこれだ!と思ったとき、人の心の中に元年は生まれるのだ。
何度も来るぞ、動画元年
集まった元年の中には、同じ元年が複数年度に渡って叫ばれているものもあった。
例えば動画元年である。初出は2014年だが、その後2016年、2018年、2020年と何度も繰り返し訪れているのだ。
おそらく来るぞ来るぞと言われながらもそこまで流行らなかったり、画期的な技術革新が何回も訪れたりしたのだろう。このままの調子で「過去一番の動画元年」「過去最高と言われた去年を越える動画元年」、「10年に1度の動画元年」などと重ねていってほしい。
「◯◯元年」元年は1953年の「福祉元年」
そんなやりたい放題の「◯◯元年」だが、初めてその言い回しをされたのがいつなのかというと少し難しい。
調べたところ、歴史の古い順だと1953年の「テレビ元年」や1954年の「日本ODA元年」が該当するのだが、どちらも「◯◯元年」という言い方は後年になってつけられた可能性があるのだ。それは「◯◯元年」元年ではない気がするのだ。
明確に当時から宣言されていたものとしては1973年の「福祉元年」を取り上げたい。
これは当時の首相であった田中角栄が様々な福祉政策を推し進め、それをまとめて「福祉元年」と宣言したものだ。
それから約50年、後を追う形で100近くの元年が打ち立てられた。
田中角栄がどう思っているかは分からないが、私だったら誇らしくて仕方ないだろうと思う。自分が最初に言い出したんだぞと居酒屋とかで自慢するだろうな。
自分の元年を味わおう
ここまで色々と分析してきた「◯◯元年」だが、せっかくだから何かの役に立たせたい。例えば出生年や思い入れのある年の元年を振り返ってみるのはどうだろう。
例として私りばすとを取り上げる。
私は1993年生まれだが、1993年は「Jリーグ元年」である。あのサッカーのJリーグは1993年5月15日に開幕以来、今日まで大人気を博しつつ連綿と続いてきたのだ。
また、私が小学校に上がった頃は「(亜細亜大学の)ボランティア元年」だ。
その頃の私は「良いこと」といえば赤い羽根共同募金しか知らなかった。募金をしてはなんかシール付きの赤い羽根をもらって喜んでいたが、翌日にはどっかに落として失くしていたものだ。
時は少し進み、私が高校に入ったのは「人材・鳥取元年」が当時の鳥取県知事より発せられた年である。
人材育成をがんばろう!という趣旨の発言で、その中には子どもたちの教育に関する内容も含まれていたようだ。
人材育成はうまくいったのだろうか。当時神奈川県で「モンスターハンター」ばかりやっていた私には窺い知れないことである。
2012年、時代は「フルサイズ元年」である。フルサイズとは一眼レフカメラのイメージセンサーの種類を指しており、通常のやつよりも大きいから色々といいことがあるらしい。
同年に大学に進学した私だが、当時所属していたサークルに一眼レフを持っている友達が多く、そんな話を聞いたことがあるかもしれない。当時一眼レフはいいぞと散々勧められたが、私が買ったのは社会人になってからだった。ごめん。
そして私が社会に出た2018年は「eスポーツ元年」である。最初こそeスポーツはスポーツなのかみたいな議論があったりしたけど、最近はすっかり「なんかゲームの大会があって、買ったら賞金がもらえるやつ」くらいのところに定着した気がする。
デジタル系の元年は流行の匂いがする
本文中ではほとんど触れていないが、個人的には「インターネットマシン元年」「3D元年」「VR元年」などのデジタル系の元年が特に技術の進化が顕著に感じられてよかった。
そうそうこの頃に3D映画って始まったんだよなー、という気持ちにもなるし、インターネット「マシン」と命名すること自体が時代だよなあという気持ちにもなった。
私が見つけた元年以外にもそういった面白い元年があればぜひ教えてください。