Facebook、インスタグラム、TikTokが ソーシャルコマース から後退した理由

DIGIDAY

嘘だと思うかもしれないが、本当の話だ。コロナ禍きっかけのオンライン販売急増を受けて、一大ブームに乗ったのも束の間、Facebook、インスタグラム、TikTokはいま、ソーシャルコマースから撤退しつつある。ただし、完全なUターンではなく、今後の前進を踏まえたソーシャルコマースの意義の再考、という動きに近い。

この3社がソーシャルコマースから後退した経緯および理由とは? そしてこれは今後、広告主にも影響を及ぼすことになるのか? 以下がその概要だ。

実際のところ、何が起きている?

メタ(Meta)は2022年10月、Facebookのライブコマースショッピングプログラムを閉じる。8月には姉妹サイト、インスタグラムのアフィリエイトコマースプログラムも打ち切った。

彼らが決断に至った最大要因のひとつは、Appleが行なったiOS 14の変更と、それに伴うIDFAの下落と思われる。「そのせいでメタにおけるアトリビューション力が落ち、多くのブランドがキャンペーンにおけるメタのプラットフォームの役割を見直す結果になった」と、ウェーブメーカー・グローバル(Wavemaker Global)のeコマース部門グルーバルヘッド、ムディット・ジャジュ氏は指摘する。

では、TikTokはどうだろう。彼らの場合、ソーシャルコマースから完全には逃げ出さず、その代わりに新たな広告フォーマットを三つ立ち上げ、コマースソリューションの効率化計画を発表した。間もなく来る繁忙期、2022年第4四半期に備え、マーケターのために手続きの単純化を図るのが目的だ。ちなみに、この発表前、TikTokによる欧州および米国におけるソーシャルコマース拡大計画の中止が『フィナンシャル・タイムズ』で報じられた。

「TikTokは生来、メタのプラットフォームよりもイマーシヴな経験ができる場であり、それゆえ、ブランドも商品販促をより効果的に行なえる」と、ジャジュ氏は言い添える。「たとえば、Facebook Shops(フェイスブックショップス)は言うなれば、インターネットにカタログを載せるようなもの。それに対してTikTokは、プラットフォーム上に組み込まれたホームショッピングチャンネルに近い。つまり、両者の顧客体験は本質的にまったく異なる」。

消費者がいまひとつ乗ってこない理由は?

ジャジュ氏によれば、消費者がソーシャルコマースにいまひとつ乗り気になれない理由は、プラットフォームの別にかかわらず、否円滑な体験にあるという。「商品を選択し、買い物かごに入れていく過程がシームレスではない」と氏は続ける。「しかも、どのプラットフォームもブランドやリテーラーにやさしい形にはしておらず、結果、後者は手を出していない。そうするだけの価値が見出せないからだ」。

さらに、業界がいまだ、ソーシャルメディア上での取引を把握しきれていない、という問題もある。

「業界が少々速く動きすぎた、という感がある。いわば突貫工事で道を作り、気持ち良く買物ができる状態が整っていないそこを、顧客に無理やり進ませようとしているようなものだ」と、インフルエンサー・インテリジェンス(Influencer Intelligence)のコンテンツ&リサーチ部門ディレクター、サラ・ペニー氏は話す。

また、ソーシャルコマースを巡るこうした動きは、経済的不安定を乗り切るための策でもある。たとえば英国では、現在、一般家庭が生活費急騰という大きな危機に見舞われており、それとは別に、世界不況の大波も迫りつつある。換言すれば、今は時期ではないのだ。「今、新たなオンライン購入法を導入し、英国の生活費高騰危機と世界不況のリスクの中に頭から突っ込んでいけば、業界の別にかかわらず、販売に苦労するのは目に見えている。それがまったく新しい購入法であれば、なおさらだ」と、ペニー氏は言い添える。

マーケターの多くは値踏み状態

一方、マーケター勢が完全には乗ってこない理由は、そうするだけの価値があるのか、多くがいまだ値踏みをしていることにある。

「何もかもをアプリ内で買うことだと考える人もいれば、インフルエンサーが商品を売るライブストリーミングだと考える人もいるし、ソーシャルコマースはコンテンツにショッパブルなタグを付けるだけのこと、と思い込んでいる人もいる」とペニー氏。「つまり、これはそれだけ新しいものだということであり、だからこそまだ誰も完全な定義はできておらず、業界内にも実際、すべてのブランドが足並みを揃えられる統一性の提供が必要じゃないか、という見方がある」。

また、ソーシャルアプリ外での購入は、広告主が消費者プロファイルを形成できない、という問題を伴う。多くのソーシャルプラットフォームは独自のファーストパーティデータを手に入れようとしており、自社ソーシャルアプリ内で購入を完了させる術を考案すれば、そのデータを収益化できると思い込んでいたと、ミックマック(MikMak)の創業者兼CEOレイチェル・ティポグラフ氏は断言する。だが、そうしたいわゆるネイティブチェックアウトは依然、彼らが考えたような形にはなっていない。

撤退と呼ぶなかれ

とはいえ、ソーシャルコマースの直近の未来は不安だらけではあるものの、プラットフォーム勢が見切りをつけていないのは、間違いない。理由はもちろん、莫大な金が懸かっているからだ。

ビジネスコンサルティング会社、グランド・ビュー・リサーチ(Grand View Research)の最新報告によれば、グローバルソーシャル市場は2021年、5840億9100万ドル(約76兆円)に達し、2022年から2030年にかけての複合年間成長率は30.8%が見込まれている。さらに、TikTokの中国版Douyin(抖音/ドウイン)のソーシャルコマース事業は好調を極めている。インストリームコマースは事実、同プラットフォーム最大の稼ぎ頭だ。中国のスタートアップ情報サイト36Krによれば、Douyinの2022年上期における流通取引総額は220億元(31.5億ドル、約4100億円)に上り、年間目標の200億元(28.7億ドル、約3731億円)をすでに超えている。

「中国のオーディエンスはアプリ内ショッピングに最初から慣れていたのだと思う。彼らはWeChat(ウィーチャット)などと共に育った世代であり、そうしたアプリには、西洋のプラットフォームと違い、ソーシャルコマースが根本的に組み込まれていたからだ」とジャジュ氏は話す。

つまり、ソーシャル界の巨人たちは今、一斉にソーシャルコマースを止めようとしているようにも見えるが、実のところ、これは洗練と再考の好機とも言える。

「中国市場はソーシャルコマースにとって極めて重要な存在だ。理由は、ソーシャルコマースに巨大なビジネスチャンスがあることを明示しているからにほかならない」とペニー氏は言い添える。「そこでは毎年、数十億ポンド(数千億円)相当の収益が生まれている。プラットフォーム勢は及び腰になっているが、思いきって試し、業界を成熟させ、プロフェッショナルな存在となり、然るべき目標を設定することが求められる。いまや、すべてが急速に変化しているわけであり、顧客側も気持ちの上で後れを取らず、それに付いていくことが必要だ」。

[原文:Why Facebook, Instagram and TikTok have stepped back from social commerce

Krystal Scanlon(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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