アフガニスタンといっても日本の方には縁遠いと思います。20年前、アメリカがアフガンに介入した際、私に興味があったかといえば皆無だった記憶があります。要するにアフガンがどうなろうが、テロリストの恐怖もイスラム教の原理主義の話も911があったにもかかわらず、身に入ってくるものがなかったというのが正直なところでした。
多くの方はアフガンがどこにあるか、どの国と接しているのか、海に面しているのか、ということすら知らないまま、メディアで踊るアフガンの文字にへぇ、で流しているのだろうと思います。しかし、もしもそこまで縁遠い話であればなぜ、アメリカは資金と人員注ぎこんでアフガンに関与するのか、何を懸念しているのか、不思議ではありませんか? 911だけが理由だったのでしょうか?
私がまだ高校生の頃、ソ連がアフガニスタンに侵攻しました。1978年です。当時、アフガンは共産党政権でしたが反政府組織が活動を活発化、政府はソ連に支援を要請したのです。ところが、これが泥沼になります。あのソ連が1989年まで11年、そこから抜けられなくなり、ソ連版ベトナム戦争と称される事態に陥りました。その戦い結果、アフガンの精神力はのちのタリバンにつながっていくのです。それが意味するものはアフガンのイスラム教はソ連とアメリカという2大大国すら太刀打ちできず、両国合わせて31年間の奮闘及ばず、イスラム原理主義は根強く、そしてひょっとするとアフガン国内では決して不都合ではない形で浸透していく可能性すらあるのかもしれません。
不都合ではない、というのはタリバンに従順であれば生命の危機はないという意味です。今まで政府側についていた人、あるいは20年の民主化運動を通じて女性の権利や地位向上が少しずつ進んできた中ではその努力は水泡と化すかもしれませんが、タリバンの本質は平等的思想が強いイスラムの本質を唱えるものであり、イスラム的発想である限り、国民を敵にするつもりはないのではないかと考えています。
言い換えれば、アフガンにちょっかいを出しているのは諸外国であり、特にアメリカの場合、タリバンがアルカイーダを支援する立場にあったことからアメリカの敵の友達という位置づけにあるのです。
しかし、アメリカがアフガンに対する姿勢が一貫していたか、といえばタリバン/アルカイーダというイメージこそあれど腰が据わっていたとも思えないのです。特にトランプ氏はこの出兵は不毛で無駄遣いと考えていたし、バイデン大統領も一日も早く終わらせることがアメリカのためになると考えています。そのトランプ氏はバイデン氏にかみつき、「大統領を辞任すべきだ、俺ならもっとうまくやった」と吠えていますが、そんなことはなく、誰がやっても失敗だった可能性は高いと思います。
唯一気になるのが、次に触手を伸ばすだろうと思われる中国です。ほんのわずかな部分ですが、国境を接しているし、イスラム教徒であるウイグルの問題を抱える中国としてはタリバンは扱い方次第で「毒にも薬にもなる」ため、王毅外相がタリバン幹部を中国に呼んでまで懐柔姿勢を見せました。その点では中国外務省は今回の政府転覆を事前に読み込んでいたといってよいでしょう。
中国がタリバンを確実にコントロールするためには一定の食料を供給する、あるいはインフラを整備するぐらいのことはやると思います。また中国にとって魅力的なのは鉱物資源があり、石油もわずかですが、出ているため投資先としても重視する公算は高いでしょう。そうなれば将来、西側諸国がアフガンとの交渉をするには中国との外交交渉が不可欠となりかねないわけでオセロゲーム的には西側には不都合な一手となりそうです。
アメリカや日本をはじめ、主要先進国の外交官は一旦、アフガンから離れるかと思いますが、将来的にタリバンとの交渉窓口がなくなることでアフガンへの影響力の行使はかなり限定されることになりそうです。ただ、一方で3200万人ほど人口がある国家の統治ができるのか、また経済的自立は極めて厳しく、長年の戦禍で国土はボロボロであるなか、どうやって生計を立てていくのか、厳しい情勢にあると思います。中国も下手に手を出せばソ連、アメリカと同様の泥沼に陥る可能性があり、中国の本気度はまだ不明瞭ではないかと思います。
日本としてもしばし、様子見姿勢にならざるを得ないと思います。国連で本件が議題に上がると思いますが、何ら有効的な決議がでるとも思えません。ミャンマー同様、国家主権に口出しするにはそれなりの十分な理由が必要です。首都が転覆しようが政府が乗っ取られようがそれが暴力的に行われていない点はあまり報じられていないところかと思います。つまり、アフガンの人から見たタリバン像はもう少し研究する必要はありそうで私も西側だけの声ではなく、国民の本当の声を聞いてみたいと思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月17日の記事より転載させていただきました。