「世界各地の水不足」に追い討ちをかける、海水侵入のリスク

混ぜるな危険。

海面上昇は、高潮による洪水のように、目に見える形で地域社会に被害をもたらしますが、水面下ならぬ地下で深刻な問題が静かに進んでいることが新たな研究で明らかになりました。

地下で進む海面上昇のリスク

米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)と米国防総省(DOD)の新たな研究によると、今世紀末までに世界の沿岸地域の約75%で海水が地下の淡水を汚染するおそれがあるそうです。

11月末にGeophysical Research Lettersに発表された研究結果は、海面上昇と降雨量の減少が海水の侵入にどのように影響するかを浮き彫りにしています。オープンアクセスの研究結果は誰でも読むことができます。

海岸線では、地中で淡水と海水が絶妙なバランスを保っているんですね。そのバランスをキープしているのが、内陸部に対する海水の圧力と、帯水層(地中の貯水タンクみたいなもの)を補充する雨による圧力。淡水と海水が少しだけ混じり合う移行帯と呼ばれる地域もありますけど、基本的にお互いの水域がバランスを保っています。

崩れる海水と淡水のバランス

でも、温暖化による海面上昇と降雨量の減少という変化がバランスが崩して、海水の圧力のほうが強くなっています。降雨量の減少で帯水層に十分な淡水が補充されないため、海水を押し返す力が弱まっちゃうんです。

塩水侵入は、文字どおり塩水(海水)が予想以上に内陸に侵入して、帯水層などの淡水供給を脅かす現象を指します。

JPLとDODの研究者たちは、塩水侵入がどこまで広がるのかを調べるために、海面上昇と地下水補給の減少が2100年までに世界中の6万以上の海岸流域(河川や小川などの水源から共通の水域に排水する地域)でどんな影響を与えるのかを分析しました。

海岸流域の4分の3以上に塩水侵入のリスク

その結果、前述の2つの環境要因によって、今世紀末までに調査対象となった海岸流域の77%が塩水浸入の影響を受けることがわかりました。これは、評価対象になった沿岸地域の4分の3以上にあたります。印象的にはほぼ全部って感じですね。

研究チームは、それぞれの要因を個別に検証しました。たとえば、海面上昇だけでも、調査対象の海岸流域の82%で塩水が内陸に侵入してしまうことが判明。

具体的には、淡水と塩水が混ざり合う移行帯が2100年までに最大200m後退する可能性があるといいます。特に影響を受けやすいのは、東南アジアやメキシコ湾沿岸、アメリカ東海岸の一部といった低地エリアとのこと。

一方で、地下水の補充ペースが遅い場合、塩水浸入が起こるのは調査対象の45%にとどまりますが、移行帯が最大で1.2kmも内陸方向に後退するそう。

アラビア半島、西オーストラリア、メキシコのバハ・カリフォルニア半島などは特にこの影響を受けやすくなります。ただし、残り42%の海岸流域では、地下水補給が逆に増えるらしく、場合によっては塩水浸入を上回ることもあるそうですよ。

地域ごとに異なる影響と不足するリソース

JPLの研究者で論文の共著者でもあるKyra Adams氏は、海面上昇と帯水層の弱体化について声明で次のようにコメントしています。

「海水と帯水層のどっちが優勢かや、地域の特徴によって、管理方法も変わってくるでしょう。」

海面上昇が世界規模で塩水浸入の影響を拡大させる一方で、地下水補給は塩水浸入の深刻度を地域レベルで左右します。とはいえ、この2つの要因は密接につながっているんですよね。

研究を共同で率いたJPLのBen Hamlington氏は、以下のように述べています。

「海面上昇による塩水浸入が、地下水補給に負の影響を与え、問題をさらに深刻化させているんです。」

今回の研究のように、ローカル地域の気候変動による影響を考慮した世界規模のアプローチは、自力でこういった調査を実施するのが難しい国にとって、とても重要です。研究チームもその重要性を強調していて、「リソースが限られている国ほど、海面上昇や気候変動の影響を最も受けているんです」とHamlington氏も指摘しています。

2100年なんてまだまだ先だと思うかもしれませんが、こういった予測に対して国や産業界はスローモーションで対応するので、思ってるよりもあっという間にやってくるんでしょうね。

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