温暖化でアメリカの住宅保険料が値上がりしすぎ

上がりすぎるか、加入を拒否られるか。

今年の夏頃から、筆者が住むテキサス州の人たちから「住宅保険料が年間数千ドル上がった」という声を聞くようになりました。また、山火事が多いカリフォルニア州や、ハリケーンによる洪水被害が深刻化しているフロリダ州から、保険会社が撤退しはじめているというニュースも見聞きします。

実際のところ、州によってばらつきはあるものの、アメリカでは全体的に住宅保険料がかなり上昇しているようです。

住宅保険料の上昇率は10%以上

持続可能な企業経営を専門にしているミシガン大学のAndy Hoffman氏によると、アメリカの住宅保険料は2023年に平均で11.3%上昇したそうです。テキサス州やアリゾナ州、ユタ州などにおける上昇率はその2倍近くに達しています。2024年にはさらに平均6%上昇するという予測も。

保険料値上げは、保険金支払い額の上昇や、災害リスクが高い地域での高額物件の開発など、複数の要件が重なっているようです。

2023年の住宅保険料は、全国平均で年間2,377ドル(約36万円)

日本(年間7~8万円程度)と比べてけっこう高いな…と思ったら、山火事やひょう、洪水などのリスクが高いテキサス州は4,456ドル(約68万円)、ハリケーンによる洪水被害が深刻化しているフロリダ州にいたっては、10,996ドル(約168万円)! マイホームを持ちながら、毎月900ドル以上も払うってことか…。州内で地域差があるのを考えると、高い人はいったいいくら払ってるのか想像もつきません。

意外だったのは、保険会社が撤退をはじめているカリフォルニア州。何も起こらない地域も広いということなのか、平均1,116ドル(約17万円)と、全米平均の半額以下になっています。

気候変動の影響

保険会社は、複雑なモデルを用い、過去に発生した災害などのデータ(災害の頻度や規模、損害額、要因など)に基づいて、現在のリスクを推定し、保険料と補償額を算出します。

ということは、災害の増加や激甚化によって、もう過去のデータはアテにならなくなっているってことに。よくニュースで見るような、昔は100年に一度だった災害が、30年や50年に一度の確率で起こるようになったという、あれです。

そして、気候変動はこの気象災害の増加や激甚化によるリスク上昇に一役買っています。気温が上昇することで空気はより多くの水分を保持できるようになり、豪雨はより強く、ハリケーンなどのストームは短時間で大量の雨を降らせ、地域によっては洪水のリスクが著しく高くなります。

逆に、乾燥する地域は深刻な大干ばつに見舞われます。植生や土壌まで乾ききってしまうと、ちょっとした火元があれば山火事や野火が一気に燃え広がります。また、土壌をコンクリートのようにしてしまう大干ばつの後に豪雨が降れば、鉄砲水と洪水のリスクが高まります。さらに、山火事のあとの集中豪雨も、洪水や土砂災害のリスクを大きくさせます。

高い保険料を払う側も大変ですが、気候変動時代に保険金を支払う側も大変なようです。気候変動の影響を受けて気象災害が激甚化していくなかで、他の保険会社との競争力を保ちながら、保険金の支払能力を維持するのは簡単なことではありません。

このような事情から、2021年と22年の2年間に、フロリダ州だけで損害保険7社が破産を申請しています。また、2022年以降、洪水リスクが高いフロリダ州と、山火事のリスクが高いカリフォルニア州から、それぞれ保険会社7社が撤退しているとのこと。

消費者保護の問題

保険会社が撤退したり、災害リスクが高すぎるのを理由に保険の新規加入を断られたりすると、住宅所有者はリスクをすべて背負うことになります。実際、加入拒否や保険料の高騰が原因で無保険のままでいる人もいるといいます。

そこで、カリフォルニア州とフロリダ州では、保険会社がより市場に参入しやすいように規制改革を行なっているそうです。その結果、フロリダ州では損保8社が市場に参入したといいます。

保険料の高騰を防ぐための解決策として、Hoffman氏は建築基準法が定める基準を満たしていない住宅の3分の2を対象として、暴風雨に対するレジリエンスを強化するための改修に35億ドル(約5,300億円)投資すれば、保険会社は2030年までに最大370億ドル(約5兆7000億円)を節約できる可能性があるそうです。

保険者と被保険者のリスクを減らすには、最終的に政策立案者と保険会社、住宅所有者が適切な落とし所を見つけていくしかないんでしょうね。それができなければ、リスクの高い地域の不動産価値が下落し始めるといいます。

そしてそれは、気候変動が保険だけでなく、より広範な金融の安定性に混乱を招く最も明確な前兆になるとHoffman氏は指摘しています。

日本でも火災保険料値上げ

日本の人たちにとっても、これは対岸の火事ではありません。損害保険大手4社(東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険)は、今年10月からの個人向け(10%程度)と企業向け(10~15%)の火災保険料値上げ8月に発表しています。

値上げの理由として、近年発生している局地的な豪雨や台風などの災害によって支払額が上昇、収支が悪化したことを挙げています。アメリカの平均上昇率が11.3%なので、そんなに大差ありませんね。

結局のところ、温暖化を止めるまでは、気温と一緒に住宅保険料も上がっていく可能性が高いわけですよね。行き当たりばったりの対症療法でなんとかしようとしないで、根本的な問題を解決するほうが近道で安上がりだと思うのですけど…。

Source: The Conversation

Reference: Insurify, WHO, Bankrate, The Wall Street Journal, 産経新聞