永遠にのこる化学物質「PFAS」は光でぶっ壊せ

PFAS問題に希望の光が…。

総称してPFASと呼ばれる有機フッ素化合物は、体内や環境中でなかなか分解されないことから、「永遠の化学物質」と呼ばれています。その中でも、幅広い用途で使用されてきたPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)は、難分解性、高蓄積性、長距離移動性という性質があるため、特に厄介なんです。難攻不落。

光触媒でPFASをぶっ壊せ

炭素-フッ素結合は強力すぎて、特にPFOSやPFOAを破壊するには、激強な化学薬品と高温高圧の環境が必要で、エネルギーもコストもかかりがち。ところが今回、似たような方法でこれらの物質をより環境にやさしくより低コストで分解できるとする研究結果がNatureに掲載されました。

しかも、研究結果は1本ではなく、2本です。これは期待しちゃいますね。

どちらの研究も、光触媒(光エネルギーを吸収し,光を吸収しない別の物質に化学反応を起こさせる触媒)を用いて、常圧・低温多くのPFAS化合物を分解するといいます。

触媒が可視光のエネルギーを吸収して反応を起こすというシンプルな方法なのがすごい。1000度の高熱とか必要ないんですね。

紫の光で壊す

まず、中国科学技術大学のYan-Biao Kang氏らの研究チームは、有機触媒に紫色の光を照射することで、PFASの化合物を分解できると報告しています。

この研究で用いられた光触媒は、PFAS化合物に含まれている化学物質から電子を奪うことで反応を起こして分解するそうです。

分解されたフッ素原子は、溶液中の水素化カリウムと反応して、歯磨き粉に使われる無毒成分のフッ化カリウムを形成、安全に隔離できるといいます。分解に必要な温度は、40~60度だったのだとか。

青色光で壊す

2つめの研究では、コロラド州立大学のGarret Miyake氏らのチームが、より高度な選択性を持つ有機触媒を開発しています。

こちらのチームは、青色光を触媒に照射して溶液中の添加剤から電子を奪い、PFAS化合物に移動させるそう。そして、ただPFAS分子を分解するのではなく、フッ素原子を分離して水素と置き換えることで、炭化水素を生成するといいます。

Miyake氏は、こうすることで廃棄されたPFASをさまざまな用途に使える化合物に変換できる可能性が出てくると指摘します。

実用化には課題も

どちらの方法も、まだ実用化レベルには至っていないそう。Kang氏とMiyake氏もともにそれぞれの触媒が水中で溶解した状態にあるPFASと効率よく反応できるようにするのが第一歩認めています

Miyake氏は

現実的な見方をすると、まだ多くの課題があります。しかし、LEDや太陽光を利用した効率的なシステムは、PFASを低コストで除去するための方法として有望です。

と述べています。期待したいですね。

研究に参加していないノースウェスト大学の化学者であるWill Dichtel氏は、これらの研究結果が大きな前進であると認めています

ただ、研究に用いられた光触媒については、有望ではあるものの現時点ではまだ高価な化学添加物なしでは機能しないため、すぐに使える技術ではないと指摘。さらに、より速く反応するように開発を進める必要があるそう。

同じく研究に参加していないオクラホマ州立大学の有機化学者Jimmie Weaver氏は、2本の論文はPFAS問題の解決に重要な洞察をもたらすとし、次のようにコメントしています。

これらの論文は、私たちが考えているほど、炭素-フッ素結合の反応性が低くないことを示唆しています。

一部のPFAS化合物は、人間にとって有毒とされ、健康を損ねる量や濃度はまだわかっていませんが、発育障害や免疫系、血清中コレステロール、肝臓、生殖機能、腎臓がん、精巣がん、甲状腺ホルモンなどへの影響が指摘されており、特にPFOSやPFOAは世界中で規制が進んでいます。

浄水フィルタなどで大部分のPFASを取り除くことも可能とはいえ、個人にできる対策には限界があります。規制の強化とともに、今回の研究結果が示すような、より人体と環境に安全かつ低コストで、エネルギー消費が少ない解決方法の実用化が待たれます。

Source: Zhang et al. 2024 / Nature, Liu et al. 2024 / Nature

Reference: Science, Chemical & Engineering News / American Chemical Society, 東京都保健医療局

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