とあるルーツの人だけが持つ、パーキンソン病のリスクを高める遺伝子

2023年10月9日の記事を編集して再掲載しています。

日々進歩する科学の世界。今までわからなかったパーキンソン病のトリガー遺伝子が明らかになった、かもしれません。

新たな研究調査によって、アフリカ系祖先を持つ人々によく見られる特定遺伝子があり、これを持って生まれるとパーキンソン病を発症する確率が高くなることがわかりました。

パーキンソン病は神経変性疾患であり、体の動きのコントロールが難しくなっていく病。最終的には認知症も引き起こすことが多いとされています。

世界には800万人を超える患者がいます。多くの場合、遺伝的要素と環境要因、さらに加齢や特定有害物質との接触など、さまざまな要因が絡み合って発生すると言われています。

いっぽうで、いち個人の発症リスクを大幅にあげる遺伝子変異もあり、パーキンソン病の症例の15%で家族にパーキンソン病歴があると考えられています。

アフリカ系祖先を持つ人にしかない変異体

パーキンソン病はじめ、さまざまな病気の遺伝的要素をヨーロッパ、つまり欧州の人を対象に調査する研究は多くあります。

ここからたくさんの学びがあったのは事実ですが、他の集団に関するデータが不十分であることに研究チームは気がつきました。そこで、アメリカ、イギリス、ナイジェリアの科学者が集まり、より多様なグループを調査・研究し、データのギャップを埋めていくことにしたのです。

研究チームはゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施。大人数の集団の中から病気や特性に統計的に関連高い変異体を調査しました。

その中でも、主にナイジェリア出身のアフリカ系またはアフリカ系ミックスの20万人規模のグループに注力(うち1500人がパーキンソン病の患者)したのです。

その結果、パーキンソン病のリスクを高めると考えられるベータグルコセレブロシダーゼ(GBA1)を生成する変異体が特定されました。

この変異体が1つあると、パーキンソン病の発症リスクはない人と比べ1.5倍。2つある人ではなんと3.5倍にもなることが明らかになりました。また、着目すべきは、この変異体はアフリカ系祖先を持つ人にしか、ほぼ発見されなかったということ。

研究対象にも多様性が必要である

ゲノムワイド関連解析は非常に有効な研究手段ですが、すべてが明らかになるわけではありません。あくまで、変異体と病気の相互関係を見つけることしかできないのです。

因果関係や、なぜ・どのようにしてパーキンソン病が引き起こされるのかは、より掘り下げた研究が必要になります。もちろん、研究者にとってはどこを掘り下げるべきかの大きなヒントにはなるのですけどね。

論文を執筆したAndrew B. Singleton氏は、プレスリリースにてこう語っています。

パーキンソン病含めあらゆる病を効果的に治療するには、何がリスク要因になり引き金になるのかを完全に理解せねばならず、そのために多くの人を研究する必要があります。今回の研究は、先祖によってかかりやすい病は異なるという遺伝的バイアスを支持する結果になりました。この違いをより理解していくことで、パーキンソン病に生物学的な新たなインサイトがでてくるかもしれません。

研究論文はThe Lancet Neurologyに掲載されています。