高専生が日頃培った〈ものづくりの技術〉と、AI(人工知能)分野で特に成果を出す技術〈ディープラーニング〉を活用した事業プランを提案、企業評価額を競うコンテスト「第5回全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2024(以下、DCON2024)」の本選が、2024年5月10日(金)・11日(土)に開催する。
現役のベンチャーキャピタリスト(VC)である本選審査員がその事業性を評価し、最も「企業評価額」が大きいチームが優勝となる。高専生がものづくり×AI×事業性で社会課題解決に挑戦するというのは、日本の未来にとっても明るい話だ。
そこで今回、本選出場チームのひとつである東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパスの「Technology 七福神」を取材した。
■特殊詐欺を未然に防ぐ「FraudShield AI」
DCON(ディーコン)は、高等専門学校生が日頃培った「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」を活用した作品をチームで制作し、その作品によって生み出される「事業性」を企業評価額で競うコンテスト。現役のベンチャーキャピタリスト(VC)である本選審査員がその事業性を評価し、最も「企業評価額」が大きいチームが優勝となる。各チームにはメンターがつき、そのチームの作品や発表のアドバイスをする。
今回取材させていただいた東京都立産業技術高等専門学校 品川キャンパスの「Technology 七福神」は、「FraudShield AI」という作品で本選に出場する。メンターは、AI・ディープラーニングにより新しい社会を創造するテックイノベーションファーム、株式会社Ridge-i 代表取締役社長 柳原尚史氏が担当する。
「FraudShield AI」は、電話詐欺を未然に防止するために開発が進められた作品だ。警視庁の広報資料※によれば、令和5年の特殊詐欺の認知件数は19,033件にのぼり、被害額は441.2億円という巨額の被害額となっている。また今後は、これを上回るペースで深刻な状況になると言われている。詐欺被害の約9割は、固定電話からの電話詐欺から始まっている。こうした状況を踏まえ、「Technology 七福神」は「FraudShield AI」を開発するに至った。
※令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2023.pdf
「FraudShield AI」は、詐欺電話をリアルタイムで検知するプロダクトだ。詐欺の可能性推移を表示して音声などで知らせることで、利用者が詐欺にあうことを未然に防ぐことができる。どんな世代の利用者にもわかりやすくするため、光や音で詐欺を知らせてくれる。
メンターの柳原氏によれば、「Technology 七福神」が取り組んでいるのは、大きな社会課題に対処するプロダクトであり、「このプロダクトで、世の中に大きなインパクトを与えたい」とのこと。特殊詐欺を撲滅する起爆剤となるだけに、本選での結果が気になるところだ。
■社会実装により日本の産業を高めたい
東京都立産業技術高等専門学校の後、改めてDCONを立ち上げた日本 ディープラーニング協会専務理事・DCON実行委員会事務局長 岡田隆太朗氏にコンテストへの想いをうかがうことができた。
岡田専務理事は1974年、東京都に生まれる。慶應義塾大学の学生時代に起業し、事業売却後、複数の事業会社を設立。2012年には株式会社ABEJAを共同で創業。2017年にはディープラーニングを産業に活用することを目的とした一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)を立ち上げ、事務局長として務める。2018年からは理事を兼任。2019年には全国高等専門学校ディープラーニングコンテストを立ち上げ、実行委員会を組成。現在は、コミュニティ・オーガナイザーとして様々なイベントの場作りに携わっている。
日本ディープラーニング協会は、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力の向上を目指して設立された。
「AIを作る人も当然ですが、使える人をもっと増やしていく必要があります。そこで、AIを作る人のE資格、AIを使用する人のG検定という資格試験を作りました。人材育成の中で、高専生が非常に優秀であることを知りました。壁にぶつかっても、それを乗り越えるメンタリティがあります。高専生がディープラーニングを活用してものづくりをしていくことができれば、ひとつの事例ができると考えました。」(岡田専務理事)
岡田専務理事によれば、成果が出る技術の社会実装により日本の産業を高めることができ、それが同協会の目的でもあることから、DCONを開催するに至った。ほかのコンテストとの違いは、作った作品がそのまま事業として提案できることだ。つまり、社会課題を解決するための事業のコンテストであり、事業であるからこそ、作品をジャッジするのはベンチャーキャピタリストである。事業の価値は、「企業評価額」として評価される。これもほかのコンテンスとの大きな違いだ。研究室に「企業評価額」を飾っているチームもあるという。
DCONはコンテストであり、今年でいえば、本選が2024年5月10日(金)・11日(土)に開催される。そこに向けて、年間を通じた教育プログラムのようなかたちをとっている。単に技術だけではなく、アントレプレナーシップを教えようというのが国の方針でもあり、アントレプレナーシップ教育に取り組む計画がある高専には、補助金が支給される仕組みがある。高専の新しいカリキュラムでは、G検定のシラバスが組み込まれる状況になった。
「高専の中では、学校教育の中でのディープラーニングとアントプレナーシップが走りはじめてきています。ディープラーニングの教材を提供していますし、アントレプレナーシップもジャッジやメンターの皆さんで学校をまわって、DCON特別講義という出張授業を実施しています。」(岡田専務理事)
高専生の技術は高いが、課題への取組みを苦手とする生徒が多い。DCONは7月から開始されるため、夏休み前にアイデアのブレストを行い、課題への取組みを明確にすることに務めている。高専生の中には、はじめてディープラーニングを学ぶ学生も多いので、ABEJA Platform、NVIDIA Jetson Nanoを学生に提供したり、ものづくりに必要な資材提供を支援したり、マーケティングリサーチを提供したりすることで、高専生のプロトタイプづくりを支援している。
また、アドバイザ制度によって、ビジネスやテクニカルなアドバイスをオンラインで受ける環境も整っている。今年はエントリーチームが多いため、11人のメンターが高専生をサポートする。
「2024年31校から72チームがエントリーして、最大のDCONが実施できます。高専生が年間を通して社会課題に取り組むための教育プログラムをご提供させていただいております。」(岡田専務理事)
5年間で起業したのは8社あるが、必ずしも起業がゴールではなく、大学院へ進学する学生が多い。DCONでの経験は、株式会社の仕組みを理解できるので、就職する人はもちろん、大学の研究者になる人でも企業との関わりはあるため、今後の人生に役に立つ知識だ。また、単にビジネスとして起業する人よりも、仕組みがわかって起業する人のほうが、会社を運営するのに有利だ。日頃は別の仕事をしていても、プライベートでプロトタイプを作り、どこかのタイミングで起業するといったことも可能になる。
DCONへのエントリーは、「ものづくりの技術」と「ディープラーニング」の要素が入っていれば、ほかのコンテストにエントリーした作品を出してもよく、コンテストが少ない春に開催している。過去には、プロコンで優秀賞をもらったチームがDCONで優勝という事例もある。また、エントリー時に高専に在籍されていればよいため、幅広い層の学生が集まる。インカレも問題ないため、学校という縛りがないチームを作ることもできるため、バラエティーに飛んだ作品が期待できる。社会課題に取り組むというのも、ほかのコンテストにない面白さだ。
なお、2024年5月10日(金)・11日(土)に開催される本選の模様は、「JDLA YouTube(https://www.youtube.com/@JDLA2017)」「ニコニコ生放送(https://live.nicovideo.jp/)」で、ライブ配信される。興味を持った人は、この機会に配信を視聴してみよう。
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