世界がこんなふうに見えるそう。
ある58歳の男性が患っている珍しい病気、相貌変形視。画面や紙に描かれた顔は通常通り見えるのに、直接会った人の顔は歪んだり、爬虫類のようだったり、もしくは人間らしくない特徴を持って見えてしまう症状です。
実際会う人の顔だけ歪む
The Lancetに掲載された新しい研究によると、この男性の場合、相手の顔が悪魔のように見えるのは、人が物理的に現れたときに限られると述べられています。この男性患者は顔が歪んで見えるようになって31カ月経ちますが、最初は苦痛だったものの、今ではそれに慣れたと論文には記載されています。
そこで研究チームは、歪みがどのように現れるかを探り、悪魔のように見える表情の可視化を行なうことにしました。ダートマス大学の研究者であり、この研究の著者であるAntônio Mello氏は以下のように述べています。
相貌変形視を持つ患者は通常、自分の歪みを可視化したものが、自分の見ているものをどれだけ正確に表しているかを評価することができません。しかし今回、このプロセスを通じて、私たちは患者の顔の歪みに対するリアルタイムな知覚を可視化することができました。
悪魔のような顔になってしまう相貌変形視
相貌変形視を持つ患者が直接相手の顔を見る場合、不安になってしまうほど歪んで見えます。目は伸び、角ばり、鼻孔は広がり、唇は顔全体の幅いっぱいに伸びます。額には溝が現れ、耳はエルフのような形になり、先端は細く尖ります。軽度の場合では、顔が垂れ下がったり、通常の位置からずれたり、実際より大きくなったり小さくなったりします。
2014年にThe Lancetに掲載された別の事例では、オランダの52歳の女性の症状が報告されています。
その女性患者は人の顔がドラゴンのような顔に変わり、1日に何度も同様の顔を見ることが長年続いています。彼女は実際の顔を認識し感知することができますが、数分後には顔が黒くなり、長く尖った耳と突出した鼻先、爬虫類のような皮膚、そして明るい黄色、緑、青、または赤の巨大な目を持った姿に変わるのです。
壁、電気のコンセント、コンピューター画面から1日に何度も似たようなドラゴンのような顔が彼女に向かってくることもあります。これは顔のような模様がある場合でもない場合でも起こり、夜の暗闇の中ではドラゴンのような顔を何度も目撃しています。
統合失調症と誤診されやすい
この研究の共著者であり、ダートマス大学社会知覚ラボの主任研究者Brad Duchaine氏は、相貌変形視を患っている人は統合失調症などの他の障害と診断されることが多く、抗精神病薬が処方される傾向にあると話しています。
「相貌変形視の問題を他の人に言えないというのはよくあることです。顔の知覚の問題を抱えていることを恐れていて、精神障害だと思われてしまうのではないかと心配しています。他の人には理解されにくい病状なのです」とDuchaine氏は述べています。
58歳の男性患者は双極性感情障害と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の病歴があり、43歳の時に頭部を負傷した経験もありました。患者の視力には問題はなく、左側の海馬に小さな丸い病変があり、チームはこれを嚢胞性腫瘍と結論付けました。
不思議の国のアリス症候群(知覚の歪みの総称)を患う他の人たちの脳にも病変が報告されていて、脳炎、片頭痛、および向精神薬の使用もこの症候群と関連付けられていますが、この男性患者にはこういった症状は観察されませんでした。
この男性患者は直接見る顔は歪んで見えますが、画面上の顔は通常通りの顔に見えているので、顔の歪みの特徴を知るため、研究チームは男性に同じ部屋にいる人の顔と、その人の写真との間の認識される違いを説明してもらいました。相貌変形視は数日間続く人もいれば、数年間続く人もいます。
研究チームによると、相貌変形視の症例報告書はこれまでにわずか75件しか出版されていないそうです。確かに珍しく、深刻な知覚障害の1つですが、その発現方法を知ることで、将来的に誤診される患者が少なくなっていくと考えられています。